12 お土産
「と、言う事で、私いろんなところ巡って、クリスの為に集めてきました」
そう言ってレオナルドは、テーブルの上にドカドカと各地のよくわからないモノを乗せていった。
「こんなに…」
「はい。今回の私の旅の目的はクリスを正しい性別に変える方法を探す事ですからね」
屈託のない笑顔で、とんでもない事を言うけれど、既にその方法は見つかっているのよね。
王妃様が何か余計な事を言いたそうな顔をしているが、状況を見て黙っているようだ。
このまま何も言わないでいてもらえると助かるんだけどな。
そして、レオナルドによる説明が始まった。
「まず、これはイシス王国の腕輪ですね。現地の商人が言うには、清い心の持ち主が付けると願いが叶うと。ですので、是非とも付けていただきたい」
「どーせバッタもんよ」
「なんて事言うんですかソフィア。本物ですよ…きっと」
ウィリアムは終始呆れ顔で、王妃様に至っては笑いを堪えている。
この国王子として大丈夫なんだろうか?
「え…えっと、後で試させていただきますね」
「そうね。呪いがかかってないか調べないとね」
「そんな事ないですよ。ねー、クリス」
「はは…」
そもそも、その説明だと呪いの一種と捉えられてもおかしくないわよ?
だが、そんな事気にせずにどんどんと進めていくレオナルド。
「じゃあ、次はこちら。ターコイズ王国の絨毯です。この上で舞い踊ると願いが叶うそうです……広げるところがありませんね。後で広いところでやりましょう」
踊る時はヒラヒラスケスケの衣装を着ないといけないね。
でも私舞とか踊りとか、そういったもの全般得意じゃないのよね。
「これは見事な刺繍ねー」
「目が細かいし、色合いもいいわ。これ私達にはないの?」
「えっ?」
「エリーが交渉してたから、多分だけど、聞けばあるんじゃないか?」
「ソフィアちゃん、後で聞きにいきましょう」
「はい!」
もし無かったら、これを献上しよう。
「じ、じゃあ次…。ナヴァラトナ連合王国の香辛料です。これを毎日摂り続けると、やがて理想の姿へと変化すると聞きましたが…」
カレーのスパイスだよね。確かに健康的な美人になるだろうけど…私、これ以上に美人になっちゃうなぁ。
というか、これらのスパイスはうちでも取引してるし、なんならロザリーの部屋に全部揃ってるわよ。もっと品質の良いものが。
まぁ、これは後でロザリーにあげよう。
私が使ってもいいんだけど、事カレーに関しては、作ってる横でグチグチうるさいからね。
最初に私が教えたはずなのに、どうしてこうなった。
というか、ここまで現地の普通のお土産じゃない。
明らかに言いくるめられてきたんじゃないかしら?
まぁ、変なものはないからいいんだけどさ。
「何か思った感じと違いますが…次です。こちらは、タイガーアイ王国の動物の置物です」
レオナルドが置いたそれは、何と言うか鼻の無い象のようなもので、透明な石で作られていた。
「あの国では男性がよく女性になるらしくて、女性になりたい男性がこの置物に手を置いて念じると、ちゃんと女性になって置物も別の動物に変わるそうです」
お前怒られるぞ?
そう思ったのは私だけではないようだ。
「アンタそれ騙されてるわよ」
「俺も何回も言ったんだが、聞く耳持たなくてな…」
「レオちゃんは試したの?」
「私は変わるつもりはないので…」
まぁ、置物としては綺麗だから飾っておきましょうかね。
そもそも、そんなんで変われるなら苦労しないわよ。
でもまぁ、不思議な感じはするわね…。
「……今度も置物ですが…。これはさっきの隣にあるアポフィライト国の置物ですね。上がライオン下が魚…ですかね? 何でもある時間になると口から水を出すそうで、それを飲むと変われるそうですね。……あ、下に水を敷いたトレーが必要みたいですね」
雑貨屋さんでこういのよく売ってたよね。
手に取って裏返したりしながら見てみる。
へぇー、結構ギミックしっかりしてるなぁ。
これに関してはソフィアが興味津々で見ていた。
貸してもいいけど、分解しないでよね?
ソフィアが置物を手に取って遊んでいる間に次のお土産について語り出した。どんだけあるのよ。
「今度のはジャスパー諸島のアクセサリーですね。なんとこれ音が鳴るんです」
ネックレスになっているそれは、私の髪の色と同じ水色の球体に複雑な紋様の金属でコーティングされていた。
これも何か謂れがあるんだろうか?
「手に取った瞬間、あ、これだなって思って買ってきました」
「これは、特に何かある訳じゃないんですね」
「えっ!? …あ、あー…。この音を鳴らすと神に祈りが通じるんじゃないですかねー…」
「そ…そうなんですかー」
今度は王妃様とソフィアが興味津々で音を鳴らしている。
やっぱり女性はアクセサリーとか好きよね。
これ、お姉様に見せたら喜びそうではあるわ。
「クリスに買ってきたんですけどね…。えっと次は、玉って国ですね。ここはちょっと迷ったんですけど、お香を買ってきました」
「あら、良い香りね」
早速王妃様が手で仰ぎながら、香りを嗅いでいる。流石にここで火を付けるわけにはいかないから香木のほのかな香りだけだけど…。
「これに火を付けて煙を全身に纏って、匂いを吸い込むと願いが叶うそうですよ」
また、信憑性のない後付けを言って。
でも、確かに香りはすっごくいいのよね。
ソフィアは別の意味で興味を持っていた。
「えーっと、次は最後に立ち寄った翡翠国の扇子ですね」
言うなり王妃様がひょいと取り上げて広げる。
「は、母上?」
「あ、気にしないで。続けて続けて」
王妃様の琴線に触れたんだな。
確かに凄く色鮮やかなんだけど、優しい色合いで、描かれている柄も素敵だ。
「えーっと、これは…なんだっけかな…」
いろいろ買いすぎて覚えてないじゃない。
それからもどんどんとお土産を出して行った。
お面、木偶人形、楽器、アクセサリー、怪しげな香水や乾燥した草など色々だ。
「それで、レオちゃん?」
「はい。なんでしょうか母上」
「レオちゃんからは、みんなにお土産無いの?」
「あ…」
そう言われて、視線をずらして狼狽え始めたレオナルド。これは買ってきてないわね。
「その…違うんです。ちゃんと…いや…あの…」
そこで、ずっとソファに凭れかかっていたウィリアムが身を起こすと、やれやれといった顔で口を開いた。
「こうなると思って、それぞれ俺が買ってある」
「え?」
「勿論、ここにはいない人の分もな」
「リアム〜!」
感極まってウィリアムに抱きつくレオナルド。
流石、気配りの男ね。
「止めろ暑苦しい」
「あ、すいません。つい…」
『つい』で、普通抱きつくのかしらね?
「ねぇ、もしリアムちゃんの買ってきたのじゃなくて、こっちのが気に入ったらもらってもいいかしら?」
「私は構いませんが…」
チラッとレオナルドを見る。
「ま、まぁ母上達のお土産を忘れたのは事実なので、私が否定できる立場にはありませんので…」
「じゃあ、リアムちゃんの買ってきた方も見ましょうか」
それから暫く、王妃様とソフィアが先にお土産を選抜していった。




