11 早めに帰ってきた理由
さて、うちの屋敷の応接室にレオナルド、ウィリアム、王妃様、ソフィア、そして私がそれぞれソファに座っている。
他の人達はそれぞれ思い思いに過ごしている。まるで自分の家かのように。
ミルキーさんがお茶を出し、一礼して出ていく。
「いやぁ、やっぱり帰ってくるといいもんですね」
「そうだな。やっぱりここが落ち着くな」
レオナルドとウィリアムが、肩の荷が下りた様な顔でほのぼのとしている。
出されたお茶を飲んで、「これだよこれ」とか言っている。実家かな?
そんな二人を慈しむような表情で眺める王妃様。
「レオちゃんとリアムちゃんは、結構得るものがあったのね」
「勿論です。母上」
「ええ。とても勉強になりましたね。学園では体験出来ませんからね」
「そう。良かったわ。でも、予定より早いわね」
「そうですね。急遽予定を早めて戻ってきました」
何か航海中にあったのだろうか?
予定ではあと一月弱向こうにいるはずよね。
「ルキナから連絡があったのが一月前ですかね…。私と婚約破棄したから、クリスに婚約を迫ったよってあったんですが、どう言う事なんですか! あれ以降連絡ないんですが、まさか…もう…」
王妃様がニコニコした顔のまま固まる。
まぁいい機会だと、婚約の話を進めたのは王妃様ですしね。そりゃあ、言えませんよね。
「ちょ、母上…。く、クリス…どうなんですか?」
いや、残念な事にルキナ王女はテオたんと婚約してしまったのよね。
だから、私とは何もなかったわ。
私が軽く下を向くと、レオナルドが狼狽する。
だが、悪い顔をしているソフィアが、面白がってまたぞろ演技しだした。
「レオナルド…」
「な、何ですかソフィア…。その顔、もしかして…」
「ええ…。残念だけど…」
「あー、聞きたくない聞きたくない! そこから先は聞きたくありません」
自分で振っといて、それはどうなの?
両耳を抑え、頭を下げ、首をブンブンと振っていた。
クスクスと笑うソフィアに、ウィリアムが気づいたのか口パクで嗜めると、ソフィアはニンマリと口角を上げた。
「レオナルド〜、ルキナ王女はねぇ…」
「あーあー…」
「テオドールと婚約したのよ」
「へぇあ?」
レオナルドの様子に、呆れた表情で頬に手を当て傾げる王妃様。
嘆息してソファに深く凭れるウィリアム。
「あっはっはっは」と腹を抱えて笑い出すソフィア。
「クリス?」
「はい。いろいろあって、ルキナ王女はテオたんと婚約してしまいました」
「テオたんとは…。あ、いや…そうですか。それは…良かったです」
急に顔を明るくしたレオナルド。心のつっかえが取れたかのような顔になった。
「そうですか…。最大のライバルが脱落しましたか」
「一番手強かったものね」
レオナルドとソフィアが、何やらうんうん頷きながら話している。ライバルとは…?
テオたんはそういうのじゃないのよ。私にとっての天使みたいな? あ、聖女だったわね。
「という事は、クリスは今フリーなんですね?」
「いや、どー……ですかねー…ははは…」
「そうね」
「待ってくださいクリス。ソフィアと何かありましたか?」
「いや、特には…」
「でも、私が一歩リードしてる事には変わりないわよ」
「!?」
「何でそんな余計な事言うの?」
「だって事実じゃない」
「「「!?」」」
三人同時に驚いて前屈みになる。
「え? 嘘…ですよね?」
「まぁ、前からそういう風になるだろうなって空気はあったけどさ…」
「待ってクリスちゃん。それはダメよ…」
そんな事言われてもなぁ…。
そして、そこで火に油を注ぐかの如くソフィアが補足した。
「私の後ろにはメアリーがいるわ」
つまり、あなた達はライバルではないのよって言っているようなものだ。
どうしてこうなった。
「め、メアリーが? ただ食っちゃ寝してるあのメアリーが?」
「一番の強敵じゃーねか…」
「ただのマスコットだと思っていたけど…」
「確かにそうね。なんであんなのがライバルなのかしら」
メアリーの評価最低だな…。事実だけど。
「でもまだ諦めませんよ私は」
その中で一人レオナルドが一人奮起する。
「一旦婚約破棄…の演技しましたが、一応保留ですし、その為に海外へ行ったのですから」
ああ…。そういえばそうだっけ…。
ただバカンスに行った訳じゃなかったのよね。忘れてたわ。




