08 迎えに行こう①
「ほらぁ。ソフィアのせいでもう船到着しちゃってるじゃない」
「別にいいじゃない。どうせ、着いてもすぐに降りないんだから」
「クリス様も毎回大変ですわね…」
「何よ。あなた達だって、ゆっくりでいいって言ってたじゃない」
「うん。そうなんだけど、まさかこんなにゆっくりとしているとは思わなかったんだ」
レオナルド達が帰ってくるという事で、私はソフィアとシェルミー様とジル様の四人で迎えに行く事になった。
最初はソフィアと二人だけだったのだが、どこからか聞いてきたのか、二人も迎えにいくとなったのだ。
ソフィアは「ご飯奢ってくれるならいいわよ」と、公爵令嬢らしからぬ物言いをしたが、シェルミー様が二つ返事で了承した為、ソフィアも了承せざる得なくなったのだ。
といっても、それぞれの家のお付きのメイドさん達もいるから結構な人数だ。
波止場へ着くとすでに船は到着しており、乗客もそれなりの人数が降りていた。
船の到着時間に誤差はない。
じゃあ何で遅れたのかというと、案の定ソフィアがアホみたいな量を食べていたからだ。
時間に余裕があるという事で、朝からやってる港の回転寿司屋さんへ行ったのだが、ソフィアが食べる食べる。
それに触発されてメアリーも食べる。
そして、ジル様も見た目と違って結構食べる。
シェルミー様は身体が資本なのか、どこかの大食いの人みたいに食べる食べる。
お付きのメイドさん達も凄い食べる。
そしてどんどんと積み上がる皿。
生物とか大丈夫なのかな? と、思っていたんだけど、夏休み期間中にお母様や王妃様に連れられていろんなところに行ったんだそう。
そこで、最初は戸惑ったものの、美味しそうに食べるのを見て、恐る恐るお寿司を食べてみたところ、一瞬にしてはまったそうな。
私より通な食べ方してるしね。
ジル様なんてサービスのアラ汁まで飲んでるし。というか、それ何杯目なんですかね?
みんなもの凄い量を食べるんだけど、やはりソフィアとメアリーは別格だわ。
桁が違いすぎるもの。お店の人が引くくらい食べている。
人の金だからっていつも以上に食べてない?
「クリス嬢はその量で足りるのかい?」
「ええ。いつもこのくらいですよ?」
大体五、六枚。多くて八枚くらいかな。
「もっと食べた方がいいんじゃないかな」
「そんなに入りませんよ? おにぎりだったら二個食べたらお腹いっぱいじゃないですか」
「二個でお腹いっぱいに?」
あ、シェルミー様は結構アクティブだから、二個じゃ足りないんですね。
というか、私だって家の仕事で夜遅く動き回ったり、朝も剣の訓練してるのよ?
……今思うとかなり低燃費ね。
作るのとかは好きなんだけど、量食べられないのよね。
こんなに食べられるソフィアやメアリーが羨ましいわ。
お茶を啜っていると、シェルミー様は、追加でデザートを頼んでいた。よく入るなぁ。
正直、今日このお店で仕入れた分の食材って私達で殆ど消費してしまったのではないだろうか?
「ちょっと食べ過ぎちゃったかも…」
ちょっと…?
「私もですわ」
「僕も…」
「まだ時間ありますわよね」
「そうだね。もう少しゆっくりしてから行こうか」
「助かるわ。動くのも辛いもの。ふー…。あ、あれ美味しかったのよね」
流れてきたデザートをまたぞろ取って食べ始めるソフィア。辛いとは…?
そんなこんなで、お寿司屋さんでかなりの時間滞在した為に、こんなに遅れてしまったのだ。
退店時、お店の人総出で見送っていた。
もしかして、かなり売り上げ良かったのかな?
というか、私達全然貴族に見えないよね…って今更か。貴族のコスプレ集団にしか見えないわよね。
「あらぁ。クリスちゃん。今着いたの?」
「王妃様。おはようございます」
まさか王妃様まで出迎えに来るとは思わなかったわ。
シグマさんが自分も入れるくらい大きな日傘を差していた。というか、ちょっと自分寄りじゃないですかね?
「え、ええ…そうなんです。ちょっとバタバタしてまして…」
チラッとソフィアのお腹を見て頷く王妃様。
「そうなの。大変ね」
ご配慮いただきありがとうございます。
でも、王妃様に指摘された方がソフィアの為にもなると思うのよね。
そんなこんな世間話をしていたら、遠くの方にいたレオナルドが私達を見つけたのか、パァッと明るい顔しながら、集団から抜け出して一直線にこちらへやってきた。
男子三日会わざればなんて言うけど、なんということでしょう。
正統派王子様なレオナルドは、少しさっぱりとした感じになっている。髪の毛が短いからかな?
「ああ…クリス。お出迎えしてくれたんですね」
「レオちゃん私もいるわよ?」
「母上も…。こんなに大勢でのお出迎え、ありがとうございます」
「全く。授業があるのに、ほっぽり出して行くなんてね。でも、いい顔つきになったわね」
確かに。少し精悍になったかしら?
「うん。前より男らしくなったんじゃないかな?」
「そうですわね。ワイルドさが増しましたわね」
「そんな。あんまり変わってませんよ。それより上から見てましたが、今来たんですね」
チラッとソフィアのお腹を見て苦笑いするレオナルド。
だが、その後私とソフィアの両方を何度も見て笑顔がなくなった。
「あの…。私がいない間に何かありましたか?」
「どうかしらねぇ…」
ソフィアが意味深な受け答えをする。
「く、クリス?」
「な、何もないですよ…」
あるにはあったけど、ここで言える事じゃないし。
「ちょ! え!?」
「少し落ち着きなさいな」
狼狽えるレオナルドを嗜める王妃様。
その時、後ろからやっと追いついたであろう面々が、集団をかき分けてやっと到着した。




