07 みんな好き勝手やってるわね
あれから三週間くらい経っただろうか。
割りかし平穏な日々が続いている。
放課後は、調理部や製菓部を手伝ったり、街へ遊びに行ったりしていた。
シェルミー様達は週末はうちへ行ってレッスンを受けていた。熱心だねぇ。
一体何が彼女達を突き動かしているのだろうか?
ソフィアの言う攻略対象とやらも動きは無い。
学園内をソフィアと一緒に歩いているが、それらしい人物は見かけない。
ソフィアが一人で考えすぎなだけなのよ。
でもこうして歩いていていい事もあった。
そう『先輩』呼びだ。
『クリス先輩』と言われる度に心トキメクもの。何と言うか、響きがいいのかな?
でもソフィアはその度にキッと睨んだりする。
所有欲がすごいというか、心が狭いというか…。
ソフィアだって『ソフィア先輩』って言われて顔赤く染めてるんだからいいじゃない。
ただまぁ、海外の人全員が大人しい訳じゃない。
やっぱり生活習慣や風習・文化の違いでちょっとした諍いとか起きていた。
大抵の生徒は嗜められたり、注意されるとすぐに態度を直してくれるんだけど、やっぱり反発する人も中にはいるんだよね。
「こっちにお前らが合わせるべきだー」みたいな人が。
そういう人達は、お姉様が生徒会長時代に作り上げた兵隊の残党…と言っていいのかな? そんな人達が風紀委員と合流したかなり恐ろしい組織に連行されていく。
翌日には佇まいを正して、キラキラした目でお行儀良くなっている。
一体何をしたらああなるんだろうね?
入学から十日程でそういった人達は全員心を入れ替えたらしく、大人しく過ごしていた。怖い…。
私が男だというのは特に公表していないのだが、三週間も経てばみんな気づくらしい。
こんなに完璧に女の子やってるのに、どうしてバレるのだろうか? 解せないわ。
まぁ、バレたところで別に構わないんだけど、私の下駄箱に大量のラブレターが入るようになっていた。
一応婚約破棄された体にはなってはいるけれど…。いくら何でも節操無さすぎない?
勿論、毎朝一緒に登校するソフィアとカリーナちゃんがそれに気づかない訳がない。
二人は目と目で通じ合っているのか、軽く頷くと、私より先に全部回収してしまう。
翌日以降一切入っていなかったのは、ソフィアがメアリーに言ったからなんだろう。
帰ると、リビングのテーブルの上には読まれたラブレターの山があり、メイドさん達が何やら集計したりしていた。
「何やってんの?」
「どんな内容が多いか調べてます」
「何でそんな事してるの?」
「私達のクリス様に新参者がヌケヌケとラブレター出してるのが気に入らないので…」「何処の馬の骨とも分からないヤツがナメた事してるなーって…」「まず、私達に挨拶なり許可の申請があって然るべきですよね」「脅迫文の類いがないか確認してます。まぁ私達への宣戦布告ですよね」「面白そうだったので」「シフォンと同じ理由で…」「同じく…」
他に面白そうな事なんていくらでもあるでしょうに…。
ヨメナさんもこの人達にお茶を出さないでいいですよ?
人が書いたラブレターを読むのって結構悪趣味よね。
ラブレターは読ませてくれなかったけれど、どんな内容が書いてあったかの集計は見せてくれた。
中には誰々とのカップリングが見たいとか書いてある。ラブレターとは?
「全く…。ソフィア様という正妻がいるのに」
「ステラさん。聞き捨てなりませんね。正妻は私ですよ?」
「では、うちのカリーナ様も立候補させていただきたい」
みんな好き勝手言ってるわね…。
そんなこんなで九月も終わろうという頃、ソフィアが神妙な面持ちで話を切り出した。
「残念なお知らせがあるわ」
「な…何よ…」
取っておいたプリンをプレオさんにでも食べられたんだろうか?
「レオナルド達が帰ってくるんだって」
ズコッとコントのようなコケ方をしてしまった。
「べ、別に良いじゃない。学園も始まってるんだし」
「嫌よ。折角邪魔が入らなくて悠々自適の生活してたのに…。もう少しこのままでいたいわ」
そういう訳にもいかないでしょうに。
「というか、どうやってその連絡を知ったの?」
「衛星電話で」
「え…待って? え、何? 人工衛星とか打ち上げたの?」
「そりゃあねぇ…。いろいろ便利だし。少し前にお兄様達と一緒に…」
便利とかそういう問題なんだろうか?
「あと、この星の地形とか全部分かってるわよ。なんか地球に似てた。あとそれと過去に打ち上げられたっぽいものもあったわ」
サラッととんでもない発言したわね。
もう怖いものなしね。好き勝手やり過ぎだわ。
そういえば一作目では、ソフィアが断罪された後にアンバーレイク公爵が怒って反旗を翻した後にお家取り潰しになるんだっけ。
だから、二作目ではアンバーレイク公爵領って無くなっているらしい。
そりゃあこんな科学力持ってたらねぇ…。
正直、アンバーレイク家だけで世界征服出来そうなのよね。
まぁ、行かない訳にもいかないので、ぐずるソフィアをなだめすかして、みんなでお迎えに行くことにしたのだった。




