06 新学期
九月、入学式。
何とか駆け足だったが、当日までに間に合って良かった。
今壇上では、生徒会長のクライド・サンダーボルトが長々と祝辞を述べていた。
正直学園長よりも長いかもしれない。
でも、学園長の時と違って、殆どの人が寝ていないのは話が面白いからだろう。
というか、もう祝辞じゃないよこれ。ラジオだよ。いくらペラ回るからと言って関係ない話とかしすぎじゃないかしら?
副会長のボニー・オーガパインも相槌を打つかのようにゲラゲラ笑っている。
笑ってないでそろそろ終わらせなさいよね?
収集がつかなくなりそうなところで、先生達が乗り込んで強制的に打ち切りになった。
「つっ…続きはまた来週。シーユーアゲインバイバイ!」
「続きっていつですかぁ!? あーはっはっはっはっは! ひー…」
続きってどこでやるのよ。ここで話すのかしら?
確かに続きが気になるけども…。
でもまぁ、適任だったわね。
今日の朝一で生徒会長に決まったと先生達が言うと、難色を示しながらもあの量の語りをアドリブでやるんだもの。
ボニーさんが背中叩いてくれなかったら、まだウジウジ言っていたかも。ボニーさんには感謝しかないわ。
やっぱりあの二人はクラスの委員長・副委員長に収まる器じゃないのよ。
ほら、生徒達も学園長の話が終わった時は安堵のため息を吐いていたのに、生徒会長が強制退場させられたら名残惜しそうにしてるし。何なら続きを聞かせろと立ち上がる人もちらほら…。
さて、二階通路から会場全体を見ている訳だけど…。
「どうソフィア? いた?」
「分かんない」
ダメだこりゃ。
「だってしょうがないじゃない。私二作目殆どやってないし、推しが攻略対象じゃないからそこまで熱中しなかったし。というか、ここからだと分かりづらいのよ。小さいし似たような髪色してるし」
まぁ、邪魔にならないようにここから見ていたけど、まぁ確かにわかりづらいかも。
私の視力なら全然余裕で見えるけど、もしかしてソフィア視力落ちた?
かと言って、各クラス回ったり、寮の前で張っていても仕方ないのよね。
それに、攻略対象がいたからなんだって言うのよ。
ソフィアが言っていたシナリオって、アレキサンドライト女王国とサファイア帝国では起こり得ないのよね。
アレキサンドライト女王とその息子のお嫁さんの仲は良好だし、王子も不倫なんかしないでラブラブだし。その情報は海を越えてこっちまで届いてるし。
サファイア帝国も多民族国家で、海外と繋がりを持って積極的に外の血を入れてるもんね。
まぁ、後継で揉めそうなところはあるけれども…。
それに、グリーンベリルとレッドベリルも最近国交を回復する方向に向かっていると聞くし、怪しいのはルビー帝国と辺境伯領なんだろう。
でもその件の領ってエンジェルシリカよね。そこの次男で攻略対象はエリーなんだけど、ここが一番起こりえなそうなのよね。
となると問題はルビー帝国か…。
確かに小っちゃい嫌がらせみたいのはあるけど、どうなんだろう?
工業力とかダントツでうちが上だし、軍事力だって引けを取らないのよね。
態々戦争を挑んでくるとも思えないのよね。
ソフィアが勝手に『二作目の舞台』なんて言うから身構えてたけど、何も起こらなそうね。
入学式もそろそろ終わるようだ。
じゃあ教室に向かうとしましょうかね。
三分の一くらいの人数が海外に行っているので、クラス内は静か…という事はなく、入るなり速攻で取り囲まれてしまった。
「クリス様! どうして先に学園に言ってしまわれたんですの?」
「そうだよ。僕達の晴れ舞台に招待しようと思ったらいないし」
「本当ですよ。私達も初舞台がんばったの見てもらいたかったのに」
「ごめんね。ちょっと呼び出しくらっちゃって…」
「ソフィア様なら兎も角、どうしてクリス様が?」
「ちょっとジル! それどういう意味よ!」
「そのまんまの意味ですわ!」
家でも学園でも全然賑やかさが変わらないや。
公爵令嬢二人がほっぺたを引っ張りながら争っているのなんて中々見られないよ。
そんな時、カイラ様がボソッと気になる事を言った。
「そういえば、今回は海外からの方多かったですね」
「そうなの?」
「ええ。サファイア帝国の方々はよく来られますが、それ以外のところの方が目立ってたなーって」
態々あのショーを観に?
というか、みんなそんなところまで見ているの?
そっちのがビックリなんだけど。
「そういえばそうだね」
「最初は訝しげというか、戸惑ってる感じはしましたが、すぐにノリノリになりましたね」
「国民性の違いかは分からないけど、終盤は怖いくらい盛り上がっていたよね」
入学前に観光目的で来たんだろうね。
まぁ、ダイアモンド王国でもうちとソフィアのところは異質だからねぇ。見るもの感じるもの食べるもの全部新鮮だとは思うけど、なんでうちの領に?
そういうツアーでもやってるなら兎も角、何の情報も無しに来ないと思うんだよなぁ。
汽車を使わなかったら、そこそこ遠いし。
まぁ、気になる事はいっぱいあるけど、とりあえず様子見ね。
そんな感じで新学期がスタートしていった。




