28 エピローグ
うちへ帰る途中、ソフィアが思い出したように口を開いた。
「そういえば、こういう時ってレイチェル様も一緒に付いてきたと思うんだけど、今回は来なかったわね」
「そういえばそうね。まぁ、王家とジェイドフォレスト家の話だし、うちとの婚約の話もたち消えになったからじゃないかな?」
「そうなのかしらねぇ…」
腑に落ちないって顔してるけど、建前上は合ってると思うのよね。
多分だけど、既にこうなる事が分かってたんじゃないかな?
情報とか絶えず集めていただろうし。
まぁ、お父様が手紙開けなかったのは予想外だったんだろうけど。
うちへ帰って報告しようと思ったら、お父様は外出中だった。
まぁ、こういう話はお母様にした方がいいわよね。
報告しようと思ったけど、見当たらない。
アンジェさんとキャロルさんが一緒にいたから聞いてみたら、孤児院の広間にいるらしい。
なんでも、キュアキャアショーのレッスンをしているとか。
まぁ、大勢の子供達が遊んでも余りある広さだし、フローリングでおっきな鏡もあるから、適しているといえば適しているけど…、これ、最初からそういう目的で作ったって言った方が説得力あるのよね。シャワー室や更衣室まであるし…。
ソフィアと一緒に向かうと、だんだんと声が聞こえてきた。
「ワンツーサンシー、ワンツーサンシー…」
もしかしてこっち優先にしてたから来なかったのだろうか? ありうる…。
そーっと開けると、結構激しめのレッスンをしていた。
お母様と一緒にサヴァさんも指導していた。
というか、シグマさんもラムダさんも王妃様そっちのけで何やってるんですかね?
お母様の手拍子に合わせて、シェルミー様とジル様が汗だくでキビキビ動いている。
一体どれだけ練習しているのだろう。難なくついていっている。
本当に二代目を引き継ぐんだと思わせる程、真面目に取り組んでいた。
しかし、それよりも気になるのは、サヴァさんと何故か一緒にいたスケキヨさんが教えている人達の方だ。
トミー様、カイラ様。それにリンダ様や他にも見知った顔が結構いる。
おかしいな。あなた達バカンス中ではないのですか? 何でこんなところでレッスンを受けているのだろう…。
私に気づいたみんなだが、チラッと見るだけで動き続けていた。
「じゃあ、一旦休憩にしましょうか」
サヴァさんがそう言うと、みんなは膝に手をついて肩で息をしていた。
お母様の方も休憩になったようだが、もう何度もやっているのか、汗だくだが疲れた様子はない。
今のうちにお母様に報告しておこう。
「分かったわ。ご苦労様。ソフィアちゃんも一緒に行ってもらったみたいで、ごめんね」
「いえいえ。いいんですよお義母様。クリスの事は私の事でもありますのでぇ」
やっぱりニュアンスがおかしい。
まぁ、報告も終わったし、邪魔しちゃいけないから出て行こうとしたんだけど、やっぱり気になる。
「何でスケキヨさんいるんですか?」
「そうね。なんでスケ兄がいるのかしらね」
黒のスポブラとスパッツを身につけたスケキヨさん。もう、格好には突っ込まないが、こんな人前に出るような人じゃないから気になって気になって…。
「…僕、こういうの詳しいから…。力になれればなぁって…」
「スケキヨ様の知識と演技指導はすごいですよ。レイチェル様も一目置いておられますしー」
変態が言っても説得力無いんだけど、まぁみんなの様子見てるとそうなんだろうな。
そんな中、割りかし体力に余裕のあったトミー様とカイラ様が確かめ合うように話していた。
「…えっと、なにに変わってお仕置きでしたっけ?」
「クリス様に変わってでいいんじゃないでしょうか?」
いいわけないでしょ。
他にも、いろんな事言ってるけど、関係各所に怒られても知らないわよ?
そんな感じで、このままここにいると参加させられそうなので退出する。
私の部屋へ行く途中、ソフィアが袖を引っ張ってきた。
「ねぇ、私の作った薬、役に立ったでしょ?」
「うん。おかげで誤魔化す事出来たしね。ただ…まさか、王女様にあんな趣味があるとは思わなかったけどね」
「そう…。もう一回試してみる? 私も飲んでやってみたい事あってさ…」
「え?」
*
中庭でサマンサとルイスとロザリーとメアリーの四人が、パラソル付きのテーブルでお茶とお菓子を食べながら話し合っていた。
いつもこの四人は主従関係無く集まってはだべっている。
「はぁ…」
「あらロザリー、随分とお疲れのようだけど?」
「ええ。サマンサ様が二人に増えた為、疲労感が四倍になりまして」
「ほほほ…。その喧嘩買うわよ?」
「まぁ、ロザリーは神経質ですからね」
どこが? と、サマンサとルイスは眉間に皺を寄せながら思っていた。
そんな事を言ったメアリーは、余裕の表情でお菓子を頬張っていた。
そんなメアリーにルイスは疑問を口にした。
「そういえば、いつもクリスにくっついてるのに、今回は随分と余裕だね?」
「そうね。あんなにライバルになりそうな子達が来てるのにね」
その言葉にメアリーは、ふっと笑うと、お茶の入ったカップを優雅のカケラもない持ち方でグイッと飲み干した。
「正妻の余裕ってやつですよ」
「「正妻の余裕…ねぇ…」」
ルイスとサマンサは同じタイミングで呟いて、クリスの部屋を見上げた。
そして、引き続きお菓子を頬張るメアリーを、なんとも言えない表情で見やるのだった。