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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第8章

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24 王女様は昔を思い出す


 あの女いったい何なの?

 私の前に塞がるなんて。何様のつもりかしら?

 確かアンバーレイク家の公爵令嬢とか言ってたかしら?

 どうして公爵家の令嬢が、私とクリスさまの逢瀬を邪魔するのかしら? 意味がわからないし、信じられないわ。

 お母様もお母様だわ。どうしていつものように言い返してくれないのかしら?

 どうして私はクリス様から引き剥がされてしまったのかしら?

 お母様は、少し急ぎすぎたと言っていたけど、レオナルドお兄様の時はかなり早く対処していた気がするのよね…。

 それにしても、あの女。嫌な事を思い出させてくれたわね。

 テオドールとの事どうして知っていたのかしら?

 私は客室のベッドに寝転がり、昔のことを思い出していた。


           *      


 あれは私が小さい頃の話。

 女だった私は、お勉強が終わると一人で遊ぶ事が多かった。

 ライオネルお兄様やレオナルドお兄様と遊んでも男の子の遊びばっかりで、私にとっては興味もないし楽しくもなかった。 

 お父様はよく分からないけど、お母様はいつも忙しそうにしていたので一緒に遊んでくれるのは週末だけだった。

 それも短い時間だけで、すぐに仕事に戻ってしまっていた。

 だから私は部屋で一人でお人形遊びくらいしかすることがなかった。

 同じ年頃っぽいメイドが二人いたけど、見た目だけで私よりかなり年上だった。

 そのせいか、話す内容も噛み合わないし寧ろストレスだった。他のメイドもいつも忙しくしていて、一緒に遊んでくれる雰囲気では無かった。

 あ、でもお母様の近くにいつも侍っていて、暇そうなメイドはいたわね。なんか性格悪そうでいじめられそうだったから、声すらかけなかったけど…。

 そういえばあの人達いつの間にかいなくなっていたわね。どうしたのかしら。

 そんなだから私はいつもひとりぼっち。


 そんな時、宰相のおじちゃまが子供を連れてきた。

 どうやら、家に置いておくと、方向音痴の母親と年の離れた姉と一緒に迷子になってしまうのだそうだ。

 そんな危ない目には合わせられないと、お城へ連れてきたんだそう。

 その子は私と同じくらいの歳らしくて、一緒に遊んであげてほしいと言ってきた。

 遊び相手のいない私は、あまり期待していなかったのだけれど、その子を見てその考えは吹き飛んだ。

 見た目はクリクリっとした大きなお目々で、緑色のショートボブの髪型をしていて、とても可愛らしかった。

 名前の通り、私へのプレゼントだと思った。


 それからはその子と一緒に遊ぶようになった。

 男の子みたいな名前をしていたけど、私のしたいお遊びに嫌な顔どころか喜んで接してくれた。

 毎日のようにおじちゃまに連れられてくるけれど、休みの日は来てくれなかった。

 でも、来てくれると、それまで待っていた分、喜びもひとしおだった。

 私は『テオ』と愛称で呼んでいた。テオも私を『ルキちゃん』と呼んでくれた。

 テオの名前を呼ぶだけで、心があたたかくなるし、私の名前を呼んでくれるときも心があたたかくなった。

 私にはテオさえいればいいと、その頃にはいつもそう思っていた。

 テオが訪れるまで。テオが帰ってしまった後も。ずっとずっとテオの事ばかり考えていた。

 

 その頃になると、いつしか私は男性が苦手になっていた。

 お城の中庭で剣を打ち合い訓練しているのを見ても、全然楽しくないし、野蛮だと思っていた。

 大きくて見上げないと顔も分からない男なんて恐怖でしかなかった。

 でも、ライオネルお兄様とレオナルドお兄様だけは、そんなに怖く無かった。

 多分、私と背が変わらないし、華奢だったからだろう。

 正直、宰相のおじちゃまにさえ、苦手意識を持ち始めていた。

 私からテオを引き剥がしていく人。そんな認識だった。


 ある日、私はずっと疑問に思っていた事を尋ねた。

 「ねぇ。テオはどうして男の子の服を着ているの?」

 それは何の気なしに呟いた言葉だった。

 「? だって、僕男の子だし…」

 宰相のおじちゃまと来るから、男の子の服を着せられているのだとばっかり思っていた。

 きっと跡を継ぐから一人称が『僕』と強制されていたのだと思っていた。

 それ故、男の子の名前をつけられたのだと思っていた。

 だって、どこからどう見てもボーイッシュな女の子にしか見えなかったからだ。

 声だって女の子。体つきだってどう見ても男の子には見えない。


 私はその言葉に愕然とした。

 普段男の子っぽい格好をしているテオにドレスをプレゼントしてあげようと思っていた。

 でも、テオは男の子だった。

 裏切られた気分だった。

 私は、最初冗談だと思っていたが、テオに証拠を見せろと迫ったのが間違いだった。

 テオは躊躇いもなく、上半身を脱いで見せた。

 いくら子供とはいえ、骨格は男の子だった。

 唯一の理解者だと思っていたテオが急に意地悪な子供に見えてきてしまった。

 コテンと小首を傾げているが、内心では嘲笑っているに違いない。

 ずっと女の子だと思っていた相手が男の子だったのだ。

 それに気づかず、ずっと女の子として接してきたのだ。

 急にテオの声で私を罵るような言葉が聞こえた気がした。

 『どうして気づかなかったの?』『男だと認めたくないのは何で?』『君はテオに何を期待しているの?』『散々君のおままごとに付き合ってきたんだよ?』『男だと気付いた今はどんな気持ち?』『せっかく君のわがままに付き合ってきたのにね』『テオは君のおもちゃ(お人形)じゃないんだよ?』『本当は気付いてたんじゃないの?』『女の子じゃないテオは要らない?』

 うるさいうるさい!

 私は両耳を手で塞いでその場に蹲った。

 本当はそんな事を言っていないのは分かっていた。でも、一度そう聞こえてしまったら、もうそういう人にしか見えなかったのだ。

 私はその時何を言ったかは覚えていないが、きっと物凄く酷いことを言ったのだろう。

 テオは物凄く悲しそうな顔をして去っていった。

 それから私は一度もテオと顔を合わせたことは無い……。


 目を開け天井を見る。

 「どうして今まで忘れていたんだろう」

 きっとその時の事が衝撃的すぎて、記憶に蓋をしてしまったのかもしれない。

 ただ、自分が男の人が苦手で、女の子が好きという記憶だけはずっと持ち続けていた。

 「今更どんな顔して会えばいいのよ」

 もう私に会う資格はない。

 それに、もしかしたらきっと逞しい体つきになっていて、声も男性そのものになっているかもしてない。

 巷では聖女になったとかいうけれど、エンジェルシリカ領のエリオット。今はエリザベスだっけ?

 そいつが自身は女神とか嘯いて新興宗教を開いたのだから、テオもそうなっている可能性は否定できない。


 自分の胸に手を置いて考える。

 ………うん。やっぱり女の子が好き。

 流石に王女だと、女の子同士では結婚は出来ないけれど、あれだけ完璧な女装男子であるクリス様となら、結婚して子供も作れる気がするの。

 レオナルドお兄様がいつも話すクリス様はまるで、物語のヒロインのようで、私の憧れだった。

 以前お城へ来た時は、なかなか喋る機会がなかったのよね。

 そして今もなぜか、話す機会が訪れない………。

 そういえば、テオもクリス様の事を話していた気がする。

 あの時はテオにしか興味が無くて聞いていなかったわね。


 「…………………………」

 私は本当はどっちが好きなんだろう?

 いろいろ考えを巡らせると、なぜかあの時のテオの顔が思い浮かぶ。

 私は一体何がしたかったのだろう。

 これじゃあ、クリス様がまるで当て馬の様だわ。


 上半身を起こして、軽くため息を吐く。

 「はぁ……」

 なんかいろんな人に迷惑かけちゃったな。

 謝ろう…。

 クリス様やお母様に。そして、テオにも……。

 許してくれるだろうか? いや、それを私が期待するのは違うわね。

 まずはお母様に今の気持ちを伝えようと思う。

 そう思った時、客室のドアがノックされたのだった。


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