23 ソフィアのがちょっと上らしい
王都でお土産を買って、汽車に乗ってうちへ帰る。
最近は王都でもいろんなお土産が売っているんだけど、どうしてバナナ味なのかしら?
王都にバナナなんて縁もゆかりもないと思うのだけれど…。
まぁいいか。迷ったらコレっていうお菓子があるのは大事よね。
実際美味しいとおもうし。
ただ全員分買うと嵩張って大変だから、十二個入りを三つ程買う。先着順という事で…。
ソフィアも買うのかなと思ったら随分とまぁ買い込んだわね。
「ごめんクリス。こっちの紙袋持ってもらってもいい?」
「いいけど、こんなに買って…配るの?」
「配る?」
何でそこで訝しげな顔するのよ。
もしかしてこれ全部一人で食べる気なの?
まさかね…。そんなワケ無いですよねぇ?
結局配るのか配らないのかの答えを聞けないまま汽車に乗り込んだ。
ボックス席の向かい側にはソフィアの買った大量のお菓子の入った紙袋がある。
これ、乗客がいっぱい乗り込んできたらどかさないとダメよ?
うちへ着くと、王妃様と王女様が出迎えてくれた。
あれ、うちだよね? お城じゃないよね?
こういうのって、お母様とか他のメイドさん達が出迎えてくれるものなんじゃないの?
もしかして、私がどういうリアクションを取るのか隠れて見ているんじゃないでしょうね?
「キョロキョロしてどうしたのクリスちゃん」
王妃様が頬に手を当てニコニコしている。
王城にいなかったので、まぁ来てるんだろうなとは思っていたけど…。
暫くしても誰も出てこないし、ネタバラシも無い。一瞬ドッキリだと疑ってしまったわ。
メリーちゃん、グリさん、グラさんがいるから、そういう事していてもおかしくないなと思ったのよね。
もしかして、隠しカメラを設置していて、まだ様子を伺っているのだろうか?
そんな事を考えていたら、いつの間にか私の手を握っている王女様。
え、何で?
「もう。一晩も私を放っておくなんてダメよ。夫として失格よ?」
一体いつ私が夫になったんですかね?
それを知っているであろうお父様やお母様がいないので、嘘かまことか分からないや。
そろそろ出てきてもらってもいいですかね?
「ねぇ。なんでテオドールと仲違いしてる訳?」
未だ疑心暗鬼でとまどっていると、ソフィアが手を払いのけ、私の前に塞がる様に立つ。
「ちょっ! 邪魔しないでくれる? というか、そんな事よりも貴女何様のつもりよ。私の邪魔をするなんて」
ソフィアは悪役令嬢のような笑みを浮かべて言い切る。
「私? 私はね、クリスの恋人よ」
「はぁ? クリス様は、一応お兄様の婚約者でしょう?」
「一応ね。今は保留状態じゃない」
「そうよ。知ってるわ。だから、こうして…」
「残念ね。その後すぐに私が告白させてもらったわ」
「なっ! そ、そんなの無効よ!」
「だったら貴女も権利なんて無いわよね?」
「いや、でも…私王女なんですけど?」
「知ってるわ。だから何なの? 人のものを奪うのが王族だって言うの?」
いや、私はまだソフィアのものだって決まったワケじゃ……。
「ぐっ…ぐぬぬ…。お母様!」
王女様は分が悪いと思ったのか、王妃様に助けを求めた。
だが、王妃様は困った顔をするだけで、助け舟を出そうとはしない。
「なっ…なんで…」
全てを理解しているのか、傍観している王妃様。
そして、王女様の肩に手を置いて、振り向いた王女様に向かって首を振る。
「ちょっと急だったわね。少し落ち着きましょ?」
「うぅ…」
項垂れた王女様は、王妃様に支えられて屋敷の中へ入って行った。
私何もやってないんだけど、すごく気まずい。
ソフィアは勝ち誇るでもなく、腰に手を当て大きなため息を吐いた。
「めんどくさいわねぇ…」
めんどくさくしたのはソフィアでしょうに。
その後、お母様達に帰宅した事を報告していった。
どうやら本当にドッキリではなかったようだ。
昨日来訪した王妃様と王女様一行だが、本当に私との婚約の話をしに来たんだそうだ。
やっぱりお母様が強かったらしく、婚約の話はお受けできないときっぱりと断ったらしい。
ちなみに、お父様はやんわりとお茶を濁そうとして、王妃様とお母様の両方から集中攻撃を受けて、もやしどころかアルファルファのように細くなっているんだそうだ。
伯爵家の当主としてそれはどうなんだろうねって思うんだけど、これはまた別の話よね。
それで、業を煮やした王女様が直接話をしようと玄関前で待っていたのだそうだ。
王妃様的には成功しないだろうなとおもっていたのだろう。あっさりと戻っていったからね。
でも、王女様のあの様子だと絶対に諦めていないんだろうな。
「それで、クリスはジェイドフォレスト宰相から何て言われたの?」
私が買ってきたお菓子を頬張りながらお母様が聞いてきた。
そうだ。私が宰相様に相談があると呼ばれていたんだった。
「実は………」
宰相様からの相談内容と、疑問に思っていた事を話した。
「なるほどねぇ…」
お母様はソファに沈み込んで、お菓子を食べながら考え出した。
話を纏めると、宰相様より、テオたんの婚約者を探したいとのこと。
テオたんが王女様と昔、いつも一緒に遊ぶ程仲が良かった事が分かったが、オたんと王女様の間でなにかトラブルがあって、今は疎遠状態になっている事。
そして降って湧いた王女様の婚約の話。
偶然なんだろうけど、両者から婚約の話が出ている。
これは、二人の仲を元どおりにすれば何とかなるのではないだろうか?
幸いにも王女様は女装した男の娘がお好きなようだから、聖女様であるテオたんはぴったりだと思うのよね。
ただ、王女様と聖女様だとパワーバランスが崩れる気がするけど、まぁ私がそこまで考えることでは無いのよね。
正直、二人が仲直りしてくれればいいだけの話なんだもの。
当人同士で解決してもらいたいけど、そうもいかないのだろう。
ここは私が一肌脱ぎましょうかね。
「でも、王女様ってクリスが男だって知ってるんですよね?」
帰ってきてからずっと一緒にいたソフィアが確認するように尋ねる。
というか、ソフィアは私が買ってきた方のお菓子食べてるけど、自分のは出さないのかしら?
「そうね。そこは間違いないわ。そもそも王女様の相手が女の子じゃまずいからね」
「そうよね。それなのに男と男で婚約を結んじゃうところもありましたわね」
「そうねぇ。困ったものよねぇ」
多分両方同じ家だと思うのよ。
あんまり言いすぎると不敬になっちゃうから程々にね?
二人ともお菓子を食べる手が止まらない。
しかし、そんな事が聞きたかったのだろうか?
ソフィアをチラッと見ると、またぞろロクでもない事を考えているのだろう。
ニンマリとした顔で私を見つめるソフィア。
「私にいい考えがあるの」
買ってきたお菓子の食べかすを口元につけたまま、ソフィアはドヤ顔でそう言ったのだった。




