16 ソフィア回想する①
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私の名前はソフィア・アンバーレイク。アンバーレイク公爵家の長女で、《ジュエル・ラディアント~宝石の国の王子様》って乙女ゲームの悪役令嬢になる筈だった女。七年前に前世の記憶を思い出したんだけど、その時はこの世界が乙女ゲームの世界だって事を忘れていた。
前世では医薬品メーカーで研究員をやっていた。主に効く物質や素材の解析や組み合わせの研究などをやっていた。どうやら志半ばで亡くなっていたらしい。気がついたときにはライオンみたいな髪と髭をした大男の膝の上にいた。
部屋の中や着ているものから、裕福な暮らしをしているんだなと思った。そして、その部屋の中の装飾や家具、着ているドレスで中世のヨーロッパみたいな国なんだろうなと辺りを付けていた。
その後、私とほぼ同時に私の兄らしき人たちも前世の記憶を思い出したらしい。
どうやら、私と一緒で研究職だったらしい。詳しくは聞いていないが、一番上の兄、シドは鉄鋼関係らしいのだけど、どっちかというと機械いじりの方が得意らしい。
二番目のモップみたいな髪をした兄、ムックはバイオ関係。特に生物を主に扱っていたらしい。分野は私と一番近いかもしれない。
三番目の無口な兄、スケキヨは脳科学らしい。らしいというのは、あんまり喋らないのでよく分からないというのが実情。何か、プログラミングやら人工知能とか言ってるので、もしかしたら、ネット関係なのかもしれない。
しかし、スケキヨって何よ。何で、ちょっと日本人っぽい名前なのよ。そういえば、お母様も名前はスミカだったわね。じゃあ別におかしくないか……。
前世で途中だった研究や、予算や倫理の問題で出来なかった研究に心残りがあったが、兄達も研究がしたいとお父様にお願いした結果、好きなことが出来るようになった。
しかし、やりたいことのためには、設備に備品。他に材料も無いし、まずはそこを整備する必要があった。兄達もそこは分かっていたらしく、最初の一、二年はそれらの準備に明け暮れた。
でも、前世と違って充実感ややりがいあった為、そこまで苦じゃなかった。いや、寧ろ楽しくて仕方が無い。食事も睡眠も削って研究に実験を繰り返していた。
そんな事をやっていたら、いつの間にか領内が前世レベルの発展を遂げてしまったらしい。兄達は特に感慨もなく、通過点のような感情しか抱かなかったが、私はちょっと違った。一から作り上げていく達成感に心躍っていた。
しかし、この七年間何か大事な事を忘れている気がする。
前世で私が、辛い日常を乗り越える為に没頭していたもの。あれは確か……。
それを思い出そうとしていた時、お父様に私達四人が居間に呼び出された。
「何ですかお父様。我々は今忙しいのですが…」
「そうですぞ、父上、やっと軌道に乗ってきたところなんですぞ」
「僕は、まだ………」
改めて思うけど、この三人はちょっと、利己的で独善的で自己中心的すぎないかしら?
お父様もあんな見た目していて強く出れないんだもの。情けないオスライオンみたい。
「あぁ、えっと、すまないな。いや、王都から第二王子殿下が我が領内を視察したいと手紙が届いてな」
申し訳なさそうに、重要な事を告げるが、兄達はこれっぽっちも興味が無いらしい。
「はぁ…。それとこれが、私達に何の関係があるのです?」
「そうですぞ。視察なら、勝手に街中を観光して帰っていただければいいだけではないですかな?」
「………」
「いや、私ではあの工場とか施設とかの具体的な説明は出来ないんだが?」
「お父様、資料はお読みになられましたか?」
「あぁ、ただ専門用語が多くて、私にはちょっと……」
あの辞書みたいな分厚いだけの資料ね。意識高すぎて流石に私もドン引きしたやつだわ。
「でしたら、その王子にもそのように伝えれば、大丈夫でしょう。王族なんてプライドが高いから、分かったフリするでしょうから」
ちょっと、バカにしすぎじゃないかしら? いくらなんでも常識が無さすぎよ。
お父様もよく怒らないわね。そういえば、お父様の怒ったところ一度も見たこと無いわね。
「そうか……。ソフィアも忙しいなら、私一人で対応するから構わないが、どうする?」
「いえ、私はお父様についていきますわ」
眦を下げ、嬉しそうに安堵するお父様。
この時の私は、きっとお父様かわいそうって思って、一緒に行くって言ってしまったのね。




