19 一応私貴族なんですけど
「ここにくるのも久しぶりだなぁ」
「そうね」
ソフィアと二人で王都へやって来た。
今回は誰もお付きのメイドさんがいない。
というか、誰も付いてきたがらなかったのよ。あのメアリーでさえ。
普通貴族がどこか行く時って、誰かついてくると思うのだけれど、「クリス様なら大丈夫よね」って次々に言われたんだけど、暑いからついてきたがらなかったんじゃないかと勘繰る。
だって冬の時だって、寒いし用事あるから一人でどうぞって出されたんだもの。絶対そうだわ。
一応私貴族だと思うんだけど、どうなんですかね?
さて、宰相様に呼ばれてやって来たはいいが、王妃様にも説明とかしないといけないなと思うと気が重い。
王都内は未だ車は走っておらず、相変わらず乗り心地の悪い馬車しかない。
というか、石畳…ベルジアン路だから、このまま走ると乗り心地悪いと思うのよね。舗装から変えないとダメな気もする。
おっと、そんな事今考えてる場合じゃないわね。
王城前の停車場で降りて歩く事十分。久しぶりの王城だ。夏の空とお城の青と白が映えてとても綺麗だわ。
門の前へ行くと、門番さん二人が私達二人を見て、そのままどうぞと手で案内する。
「クリス様今日も大変っすね」
「今度は何やらされるんですか?」
門番さん達の間でも、私の認識はそういうもんなんだと理解した。
「クリス、メイド服で来た方が良かったんじゃないの?」
ソフィアまで一体何を言い出すんだ。
確かに楽でいいけどさ。
そのまま門を超えて、広々とした通りを進んでいく。
夏だからか、人っ子一人いやしない。
そのまま中に入る前に、今度は衛兵さんにも声を掛けられた。
「この暑い中ご苦労様です」
「クリス様も毎度毎度大変ですね」
もう笑うしかない。軽く微笑み中へ入る。
「どんだけここに来てるのよ…」
ソフィアが呆れたように呟くが、私もどうしてそんなフランクに接せられてるのか不思議なのよね。
そして中庭の前を通ると、イケメン庭師のタロンさんが微笑みながら近づいてきた。
「あれ、クリス様。植え替えの時期はもう少し先ですよね?」
「あぁ違うの。今日は別の用で来たの」
「そうですか」
「え、何? まだここの庭いじりやってんの?」
「やってるというか、まぁ似たようなもんよ」
「ふーん。それにしても凄いわね。色とりどりの花があるけど、暑苦しくないわね。寧ろ涼しそうに見えるわ。凄いじゃない」
「ありがとうございます。夏なので、植物が育ちすぎるというのがあって、維持管理は大変ですけど、王妃様はもちろん、働く皆さんにも喜んでもらえるのでやりがいがありますよ」
「へー」
「まぁ、これもクリス様の案なんですけどね」
「ホントにいろいろやってんのねー」
タロンさんと話してたソフィアが私をチラと見る。
「何?」
「私のところでいろいろ設備とかやってるのに褒められるのはクリスだけなんだなーって」
「ソフィアのところでやってるって知らないからじゃない?」
「むぅ…」
タロンさんとは話もそこそこに、拗ねたソフィアを連れて中を進んでいくと、今度はメイドのサガさんとウィラさんと出会った。
夏だからか知らないけど、随分とメイド服をラフな感じに着てますね。
「お! クリスどうした? 遂にうちのメイドに就職するのか?」
「クリスなら大歓迎よ。まぁ、入ってすぐにメイド長になりそうだけどねー」
「クリスの下なら楽できそうだよな?」
「それな」
ホントに王城勤めのメイドさんなのかと疑うレベルでフランクな話し方をするなぁ。
「いや、今日は宰相様に呼ばれまして」
「何? また何かやらかしたの?」
「あの人怒ると怖いからねー」
どうして私はやらかしてるって前提になるのかしらね?
「っと、ソフィア様もいるじゃないですか」
待って。なんでソフィアは様付けなのよ。別にいいけどさ。
「ソフィア様はどうされたんですか?」
「私はクリスの付き添い」
「大変ですね」
「分かる?」
「ええ、ええ。もうそれはもう…」
普段振り回されているのは私の方だと思うのだけれど、いちいち指摘するのもバカらしいからそのまま黙って見ていたが、ある事ない事言い出すもんだから、流石にツッこんだわよ。
え、何? ツッコミ待ちだった訳じゃないわよね?
その後も、いろんな人に声を掛けられた。
人気者は辛いわー、なんて言わないわ。だって、やれいつ入るんですか? とか、インターンシップですか? とか、今日は何をしてくれるんですか? とか、いろいろ言われるんだけど、私ここにそんな爪痕残すような事してないと思うのよね。
たまたま、大量のジャガイモの入った籠を抱えていた料理長のサブリングさんに有無を言わさず連れてかれ、ヴィシソワーズの下拵えとしてジャガイモの皮剥きまでさせられるし。
ソフィアは横で出されたお菓子を頬張ってるし、どうなってるのよ。
まぁ、ソフィアに皮剥きさせたらダークマターを生成しそうだから、対応としては間違ってないけど、納得できない。
このままいったら、王城の外壁の修繕とか草むしりとかさせられそうなので、皮剥きが終わったと同時に退散しようとしたところで、またぞろ腕を掴まれた。
料理長とソフィアがもう少しゆっくりしていけと言っていたけど、流石にそろそろ行かないとマズイと思うのよ。
それに、ソフィアはまだお菓子食べるつもりかもしれないけど、私はまだ手伝いさせられそうなのよ。
だって後ろにきゅうりやトマトが山のように置いてあるんだもの。
特にトマトの皮剥きなんて火を使うから嫌よ?
なんとか厨房から脱出し、官僚達のいるエリアまでやってきたところで、ソフィアが疑問をぶつけてきた。
「ねぇ、何で呼ばれたの?」
今更それをここで聞く?
「いや、会ってから話したいって書いてあったから、内容は分からないわ」
「そう…。ねぇ、私いると変じゃないかしら?」
「まぁ、そうね」
顎に手をやり、考えだすソフィア。
「私にいい考えがあるわ。ちょっと待っててね」
そう言うと、小走りでどこかへ行ってしまうソフィア。
ソフィアもここの事詳しいとは思うのだけれど、少し自由すぎない?




