18 急いでも仕方ないわよね
「あら。公爵家の方が三人もお出迎えなんて豪華ね」
翌日昼前にエテルナ王妃とルキナ王女がオパールレイン伯爵家へ訪れた。
出迎えたのはレイチェル伯爵夫人と、屋敷のメイド一同。
それと、メリー、シェルミー、ジルと、それぞれ三公爵家の令嬢が出迎えた。
シェルミー以外はカーテシーをする。
シェルミーだけ、ボウ・アンド・スクレープをした。
エテルナの後ろには、お付きのメイド、シグマ、ラムダ、サヴァが控えていたが、珍しく静かだった。
「本当ね。これが一週間返事が無かった答えかしら?」
流石は親娘。言葉にほんの少し嫌みが混じる。
「違うわ。ただ単にうちの夫が読まずに放置してただけよ。確認しただけヤギよりはマシでしょう?」
レイチェルが、エテルナからの圧のある問いを軽々と受け流す。
ピリピリした雰囲気に公爵家の三人はたじろいだ。
「ところで、クリス様の姿が見えないようですが」
ルキナが小首を傾げ、顎に人差し指を当てて問う。
「確かにね。メイド達の中にもいないようだし。どこに行ったのかしらね?」
場の空気が冷たくなる。真夏だというのに、冷凍庫の中のように冷たい。
しかし、レイチェルはこんな空気に慣れているのか、あっけらかんと言い放つ。
「クリスは、宰相に呼ばれて王城へ行ってるわよ?」
「えっ?」
「えっ? もしかしてすれ違い?」
エテルナとルキナが気の抜けた声を出す。
「お母様帰りますわよ。今行けば間に合いますわ」
「そうね」
踵を返そうとしたところで、エテルナはふと疑問に思った事を尋ねた。
「そういえば、どうして三人はここにいるの? 珍しい組み合わせよね?」
その言葉にレイチェルはほんの少し口角を上げた。
「ふふ…。実はね、二代目の養成してるの」
「二代目? もしかしてキュアキュアの?」
「そうよ。シェルミーちゃんも、ジルちゃんも凄く似合ってるの。今演技指導している最中なのよ」
「………」
今すぐ帰りたいという気持ちと、今すぐ見てみたいという気持ちがせめぎ合うエテルナ。
「ぐぬぬ…」
「お母様…?」
ルキナの言葉にハッとして、ルキナに向き合う。
「ごめんね、ルキナ。私、キャストとしてどうしても立ち会って確認しないといけないの」
「お…お母様…何を…」
「場合によっては演技指導もしないといけないし…」
「そんな…」
「それに、すぐに戻ってくるかもしれないでしょ?」
「確かに…そうですね。すぐ戻ってくるかもしれませんよね…」
エテルナの言葉に誘導されるように意見を変えるルキナ。
「そうよ。それにクリスちゃんの部屋も、居ない今なら見放題よ」
「そうですよね。急いでも仕方ありませんね。待ちましょうお母様」
「という事で、暫くお世話になるわね」
「そうだと思ったわ。手紙を確認しなかった夫は執務室でもやしみたいになってるわ」
「分かったわ。あとで話を伺いに行くわ。ところで、そっちのメリー…ちゃんでしたかしら?」
明らかに年齢差のあるメリーはショーには出ないだろう。ではなぜここにいるのか、エテルナには不思議だった。
「そうです。メリーです。ソフィア姉様のかわいい妹なのです」
「そうなの。ここにいるなんて珍しいわね」
「まぁ、いろいろあってプールで遊んでるんです」
「プール?」
「水の中で遊ぶ場所です。スケキヨ兄様と一緒に来てるんですよ」
「スケちゃんもいるの!? じゃあ暫くお世話になるわね」
「お母様…」
子供のようにはしゃぐエテルナに、半ば呆れるルキナ。
「ところで、二代目って事は、最低でも1メートルは跳んだり、空中ジャンプしたり、舞空術くらいは出来るのよね?」
「「えっ!?」」
シェルミーとジルが、初耳とばかりに驚く。
「エテルナ様だって出来ないじゃないですか」
「でも、1メートル以上は跳べるわよ?」
「まぁそうですね」
「え…待ってください。え? そんなクリス様みたいな事出来ないといけないんですか?」
「そうですわ。出来る自信がありませんわ」
戸惑う二人。
「大丈夫よ。学校が始まる頃には出来るようになるわ」
「「えぇ…」」
「じゃあ、早速見せてもらおうかしら」
「ふふ…凄いわよ」
そうしてエテルナとルキナは暫くオパールレイン領の屋敷に滞在するのだった。




