17 貴族もいろいろ大変
お父様の執務室を出て、リビング代わりの応接室へお母様と一緒に行くと、なぜかソフィアがいた。
ソフィアはキャロルさんとマリーちゃんの間に座って、お兄様の子供、シルヴィーちゃんを抱っこしていた。
「ホントかわいいわねー。私も子供欲しいなー」
「その前に結婚しないとねー」
「相手次第ですけどね。ちょーっと鈍感でー」
「ソフィアちゃんも、大変ねー」
一体誰の事を言ってるのだろうか?
和やかな雰囲気の中、ソフィアがこっちに気づくと、自然にキャロルさんがシルヴィーちゃんを抱き上げる。
「あら。ソフィアちゃんいらっしゃい」
「お邪魔してます。お義母様」
なんかニュアンスおかしくない?
ソフィアが立ち上がると同時に、キャロルさんの横へお母様がソファに座り、シルヴィーちゃんを抱き上げる。ソフィアはとてとてといった感じで私の前へ来る。
「へへ…来ちゃった」
心なしか顔が赤い気がする。シルヴィーちゃんに風邪とか移しちゃだめよ?
「ソフィアどうしたの?」
「何よ来ちゃダメなの?」
「いや、そういう事じゃないけど、怒って帰っちゃったし、一週間も来なかったじゃん?」
「あー…。そうね」
なんでそんなあっけらかんとしてるのよ。
そんなソフィアをフォローするかのように、メリーちゃんが補足する。
「ソフィア姉様は大体いつもこんな感じですよ。怒って出ていってもすぐ戻ってきてお菓子食べてたりしますし」
「何よその目は」
「いや、別に」
「ソフィアちゃんはクリスの事好きなんだから、ちゃんと相手してあげないと」
「「!?」」
「そうねぇ。そろそろくっついちゃいなさいよ」
「いや、ちょっと…待って…」
お母様の爆弾発言にびっくりしていたら、キャロルさんまでちゃかしてくる。
というか、なんでソフィアまで耳まで真っ赤にして恥ずかしがってるのよ。
「それで、今日はどうしたのよ?」
そう言われるのを待っていたのか、にんまりと口角を上げるソフィア。
だが、周りを見まわし言い淀む。
「ちょっとまだ秘密…」
じゃあ何で来たのよ…。
「そういえばお義母様と一緒なんて珍しいわね。何してたの?」
「別に珍しくないでしょ」
そんな事を話していたら、扉を開けっぱなしだったようで、キュアキュアの格好をしたシェルミー様とジル様が後ろを通った。
ソフィアが驚いた顔をしてからニヤニヤした顔に変わった。
「なるほどね〜。ちょっとシェルミー! ジル!」
二人を呼び止めるソフィア。
「おやソフィア嬢戻ってきていたのかい」
「本当ですわね」
そんなソフィアは二人を見てニヤニヤしっぱなしだ。
「ちょっとあんた達までそんな格好してどうしたのよ」
「あぁ、これかい? どうだい? 似合ってるだろう?」
「私も結構似合っていますでしょう」
二人して堂々とポーズをとると、ソフィアは訝しげな顔になる。
「確かに。◯◯キュアそっくりね。何? あそこでショーでもするの?」
「ああ。そのつもりだよ」
「えっ!」
「実は二代目としてやっていく事になりまして」
「えっ?」
さっきから驚きっぱなしのソフィア。
「まぁ、僕達は家を継ぐわけじゃないし、どこかに嫁ぐか、新たに事業を起こすしかないからね」
「渡りに船というものですわ。以前から気になっておりましたの。願ったり叶ったりですわ」
「そ、そうなんだ…」
貴族っていうのも複雑だよね。
「でも、その衣装だと三人目が追加していてもいいと思うのよ」
「おや。ソフィア嬢も詳しいんだね。そうなんだよ」
「まぁね。ブラックはヘソだしじゃなくなってるから分かりやすいのよ。ホワイトも、リボンのとことかデザインとか変わってるしね」
「実はこの衣装、今日が初披露らしいんだよ。それで、いろいろあって衣装合わせをね。」
「それでクリス様に三人目をやっていただこうと思っていたのですが、伯爵様にお呼ばれして、そこまでになってしまいまして…」
「ふーん…」
上から下まで私を見るソフィア。すっと私の前髪を持ち上げる。
「何よ」
「イヴのが似合うんじゃない?」
「なるほど」
シェルミー様が顎に手を当てうんうん頷いている。
まぁ、三人とも仲いいけど、今イヴ様はレオナルドに付いて海外行っちゃってるからね。
「まぁ、今は研修期間中だからおいおいね」
いつの間にか横にいたお母様がそんな事を言う。
シェルミー様とジル様がシルヴィーちゃんに興味を持ったのか、手を触ったりしている。
「まぁ、好きな事をするのが一番よね」
それを聞いたシェルミー様とジル様が少し赤くなる。
「それで、何でクリスは呼ばれたのよ」
「うん。なんか、宰相様に呼ばれたとかで」
「今度はいったい何やらかしたのよ」
何で私がやらかした事前提になっているのよ。
「いいわ。私も行くわ」
「えっ!?」
「何よ。嫌なの?」
「いや、心強いけどさ。いいの?」
「いいに決まってるじゃない。よく分からないけど、一緒に怒られてあげるわ」
だから、何で怒られる前提なのよ。
王都まで汽車で三時間だから、明日の朝一でいけば丁度いいわね。
結局、夜になっても何で来たのかを教えてくれなかった。
多分、夕飯食べ過ぎて忘れてしまったのだろう。
まぁ、いつもの事だし、気長に待つとしますか。




