14 夢見る少女
話を聞いてみようかなと思って踵を返そうとしたところで、今度はジル様一行が戻ってきた。
今日はみんな戻ってくるの早いね。
昨日とそんなに暑さも変わらないと思うのだけれど。
「おかえりなさいジル様。今日は早いですね」
「ええ。この感動を忘れぬうちに共有したかったのですわ」
「感動?」
「ええ。街にあるステージで、フリフリの衣装を着た女性が襲いくる敵をばったばったと倒していくのは、とても見どころがありましたわ。かわいいのに強い。まるでクリス様のようですわね」
「ああ。お母様のやってるショーですね」
「ええ。私も最初は見間違いかと思ったのですが、あのように若々しく美しく強い方を私は他に知りません」
興奮しながらそう語るジル様は、まるで夢見る少女のようだ。
後ろにいたメイドさん達も……メイドさん達も!?
ジル様があれこれ、身振り手振り交えて語ってるから気づかなかったけど、後ろに侍るメイドさん達は、ショーで販売されてるキャラ物のTシャツを着ていた。手にはうちわが握られていた。
ジル様以上にハマっているのではないだろうか?
いや、よく見たらジル様の腰のあたりにフェルトの人形が二つ取り付けられていた。ハマりすぎでは?
というか、ジル様がこの話題を出すまで気づかなかったけど、着ている服ショーでお母様が着ている方、キュアスレイヤーの衣装ですね。
なぜだろう。ジル様が着ると悪役っぽく見えるのは…。髪型のせいかな?
赤とか紫なら合う気がするけど、今五人体制でやってないんだよね。
アンジェさんは先生やってるし、メアリーは私についてきてるし、ロザリーはカレーとヴェイロンのお世話。
そしてミルキーさんは今悪役のボス役をやっている。
のほほんとした表情、ほんわかした喋り方、豊かな胸、際どすぎる衣装、そして二人に負けないくらい軽やかに跳んだり駈けたり、回ったりしているので、主役に負けず劣らず人気がある。
ミルキーさんもよくやるよ、ホント。
一説には悪堕ちしたヒロインなんて言われている。
あと、キャロルさんについてきたメイドのアルトさんもたまに出演してやってたりするけど、よくみんな恥ずかしげもなく出来るよね。私には無理だわ。
おっと、話が逸れてしまったわ。
「それで共有というのは?」
「一緒にシェルミー様も見ていらしたの」
「え、シェルミー様が?」
そんな事一言も言ってなかったな。
「それはもう乙女のような顔で見ていたのですが、終わると同時にハッとした顔をして帰ってしまわれたので、私も気になって戻ってきた次第ですわ」
なるほどねぇ。なんとなく話が読めてきたぞ。
あのキュアキュアショーを見て、ああいう格好をしたくなったけど、出来なくて悶々としているって事ね。
夏の間は午前の公演しかないから、そろそろ戻ってくると思うのよね。
そしたらお母様を、交えて話してみましょうかね。
それにしても、みんなハマるけど、一体何がそんなに惹きつけるんだろうね?
それから一時間くらいだろうか、お母様が帰ってきたので、その事を話してみた。
「なるほどねぇ…。なるほどなるほど」
お母様はニヤニヤしながらうんうん頷いていた。
「女の子なら誰しも憧れるものよ」
そうなんだ。
「逆に、どうしてクリスはハマらないのかしらね?」
「いや、衣装はかわいいと思いますよ。でも、人前でやるのはちょっと…」
そう…。何回かやらされた事もあるし、別のアイドルユニットを作らされそうになった事もあった。
でも、あんまり乗り気じゃなかったから、それっきりになっている。
「ふむ…。まぁいいわ。今はシェルミーちゃんの方が大事よね」
ニッコリ笑って立ち上がると、パンパンと手を叩いた。
「お呼びでしょうかぁ」
一緒に帰ってきたであろうミルキーさんが、スッと現れた。
「新しいファンの子が困ってるみたいだから助けてあげましょう」
「新たな被害者の間違いでは〜?」
「何を言うの? 私達のショーを見て感激してくれたのよ?」
「……そういう事にしておきますね〜」
ミルキーさん、最近平気で毒を吐くなぁ…。子供四人もいると違うのかなぁ?
そうそう、ミルキーさんの一番上のお子さんは結構大きくなってきていて、今のお兄様とおんなじような格好をしている。
「じゃあ〜、準備してきますね〜」
「頼んだわ」
じゃあ、これでシェルミー様の悩みも解決するだろう。
そのまま立ち去ろうとしたところで、肩をがっしりと掴まれてしまった。
「どこへ行くのクリス?」
「いや、あっちに…」
「ダメよクリス。一緒に見届けないとー」
「あっはい」
大丈夫。今回はシェルミー様だけだから。
お母様からは逃げられない。
諦めて、お母様の部屋で待つこ事にした。




