13 ソフィアの野望/シェルミー様の懊悩
* * *
「ふっふっふ…。ついに完成したわ。やっぱり私ってば天才ね」
薄暗い照明の照らすソフィア専用の研究室でソフィアは不敵に笑う。
クリスの態度にイラッときてしまったが、よく考えたらいつもの事だと思い直していた。
だが、その感情の勢いのまま、とある薬を作り上げてしまった。
そして、この一週間いろんな動物で治験を繰り返していた。
最初はその成果に喜んでいたが、段々と繰り返すうちに、その成果に疑念と焦りが出てきた。
何かが足りない気がする。
そして、繰り返していくうちにほぼ完璧なものが出来た。
成分や効果に問題はない。問題なのは…。
「うーん。完成はしたけど、あと一歩なのよねぇ…。誰か実験台…協力してくれないかしら」
そう思ったが、シドとムックは海外へ。スケキヨとグリとグラはクリスの家に置いてきてしまった。
メリーにはそんな危ない事はさせられない。
「仕方ない。自分で試すしかないかぁ。まぁ、完成はしてるのよ。問題は…」
そう言って出来た薬を眺めていた。
画面上のデータには今までの研究結果が記されている。安全性は折り紙付きだ。元に戻るのも簡単である。
とりあえず試すしかないと、一つ口に含んだ。
「!? こ、これはっ」
予想外の変化に戸惑う。
人間と動物だと、違いが出るのか…。いや、そもそも動物だと変化が分からなかった。毛に覆われているから顔も違いが分からない。
故に、自分で試して初めて分かった。
「ふむ…。これはこれでありね」
研究ノートに走り書きしていく。
「ふふっ。見てなさいクリス。ぎゃふんと合わせてやるわ。待ってなさい」
薄暗い研究室内に悪役令嬢のような笑い声が木霊していた。
* * *
あれから一週間。
ジル様とシェルミー様。そしてメリーちゃん達は思い思いに過ごしていた。
そして、どこから聞きつけてきたのか、学園のクラスメイト達や、他のクラスの人達もこぞってうちにやってきた。
あのね? うちは避暑地のホテルじゃないのよ?
そう思っていたけど、流石に弁えていたらしく、街中のホテル等に泊まるらしい。
いや、さ。あの人達見てたらちょっと早とちりしちゃってね。いくらなんでもあの人数を泊まらせるだけの部屋も心の余裕も無いもの。
まぁ、私に挨拶に来たたけだって言うから良かったけどね。いやぁ安心したわ。
でも、連日いろんな人が来るからテオドールにカリーナちゃんを呼ばない。
呼べたとしても、遊ぶ事は出来ないだろう。
そんな感じで、みんな自由に過ごしている。
ジル様は結構社交性があるらしく、うちのメイドさん達と和気藹々と街中へショッピングへ行ったらしい。見た目とのギャップの落差がすごいらしい。
シフォンさんは、アマベルさんとエペティスさんの三人と港近くのモールへ。あそこはいろんな服屋さんが入っているからね。国内外の服がかなりの種類取り揃えてあるから見てるだけでも楽しいよね。
スケキヨさんとプレオさんは部屋の中で携帯型のゲームで遊んでいる。無理矢理連れてこられたとはいえ、もう少し何かないんですかね? 田舎のおじいちゃんの家に行って、ずっとゲームしてる子供みたい。
メリーちゃんはグリさんとグラさんの二人を連れて撮影に良さそうな場所をロケハンしに行っている。結構頻繁に来るけど、まだ見るところあるんか?
そして、シェルミー様だが…。
「いやぁ、この領はすごいね」
帰ってくるなり絶賛している。
ここ数日、メイドの格好しているのに男にしか見えないメイドさんを引き連れて街中を散策に行っていたらしい。
今日も出かけていたらしいけど、いつもより帰りが早い。どうしたんだろうか。
心なしか顔に疲労が見える。
「今日はお早いお帰りですね」
「ああ。そうなんだ。街中を歩いていると、学園の生徒達が観光でいろんなところにいてね、おちおちナンパも出来ないよ」
この人そんな事やっていたのか。
「それにしても、ホント凄いね」
どう凄いのだろうか? 今後の発展の為にも気になります。
「街ゆく男性は女装し、女性は男装しているんだね。ああ、もちろんしていない女性の方がおおいけど、男性は殆ど女装してるんだね。それもみんなかわいい。ついつい声をかけてしまったよ」
ああ、そんな事ですか。まぁ、うちの領はそういうノリが強いですからね。
「うちの領は、男も女も基本男装がルールだからねぇ。こことは正反対だね」
それは知らなかったな。ストーンローゼス公爵領はそういう風習なんだ。どうりで慣れている訳だわ。
もしかして、この国って領によって風習とか違うのかな?
……そういえば、エリーのところの領は基本ボーイズラブが盛んだと聞いていた気がする。角刈りのモリモリマッチョマンが汗だくで抱き合うのが普通だと。
まぁ、エリーの所は帝国に隣接していて、兵士が多いから仕方ないのかもだけど、シェルミー様の所はそういう訳でもなかった気がするのだけど…。
まぁ、部外者の私がそういうところ気にしても仕方ないのよね。
でも、風習で片付けていいのかしら?
だってみんな女性なのに、イケメンアイドルみたいな顔つきや、ポーズ取ってるんだもの。ドキドキしちゃうわ。
ふと、考えがよぎる。
もしかしてシェルミー様って女の子の格好したいんじゃないかろうか?
文化祭の演劇でも、結構ノリノリでドレス着ていたし。
でも、サマーパーティーでは男物の服だったな。
うーむ…。今日のシェルミー様は…、黒いシャツを腕まくりして、ベージュのパンツでサングラスを胸元に引っ掛けている。そして、鋭角にとんがった革靴…殿下。
うーん。やっぱり男の格好だよねぇ…。
「クリス嬢は、男の格好はしないのかい?」
「私は男性の格好が全然似合わないので」
「メイクしても?」
「はい」
「そっかぁ。私はメイクすれば女性に見えるんだけどね。そっかそっか…。お似合いだと思ったんだが…」
含みのある言い方だな。
そんなシェルミー様は、会話もそこそこに屋敷へ行ってしまった。
遊び疲れてしまったのかな?
暑いと、何しても体力を消耗するからね。
それにしてもお似合いか…。
男装女子と女装男子。この領ではわりと珍しくない組み合わせだけどね。
おかげで、よその領から来た人達や海外から初めて来た商人さんとかは、「トラップだ!」なんて言うけどね。
二回目以降は知ってるから、知らない人を連れてきて楽しんでたりする。
もしかしたら、街で何かあったのかもしれない。
心なしか気落ちしていたしね。
後で聞いてみようかしら?




