12 失言
「シェルミー様は入らないんですか?」
「そのうちね」
黒の水着を着たシェルミー様は、パラレルの下のビーチチェアーに仰向けで寛ぎ、うちのメイドさんが用意したであろう、果物が飾り付けられた大きなグラスに入ったジュースをストローを使って飲んでいる。
何をしても絵になる人だな。
そんなシェルミーさまに寄り添うようにメリーちゃんも同じように倣って大きなグラスを両手で持ってストローで飲んでいた。
心なしか、カップルストローで飲みたそうに視線を送っている。
そんなメリーちゃんの後ろにグリさんグラさんがビーチチェアーに座って寛いでいる。
脚を組んでいると、ホント女優みたいだ。
なんかここだけプライベートビーチみたいになってるなぁ。
ちなみにジル様はプールがお気に召したのか、かなり楽しんでいる。特にスライダーが気に入ったのか、何回も滑っていた。楽しそうで何よりです。
ちなみにメアリーは、屋台の前に陣取りずっと食べている。まぁ、いつも通りね。
違うところを挙げるとすれば、一緒にヴェイロンとお姉様もそこで食べているって事だろう。
絶えず料理を提供しているロザリーがメアリーに愚痴りながらも、せっせと動いていた。
心なしかぐったりしている気がする。際どい水着からはみ出しているのにすら気づいていない。
そんな感じで今日もプールで過ごした。
やっぱりシェルミー様は、泳ぐのが苦手だったらしく、メリーちゃんに手を引かれて入ったはいいが、丘での余裕っぷりが嘘のようにメリーちゃんに引っ付いていた。
メリーちゃんはそんなシェルミー様に幻滅せず、逆にうっとりしながら手を引いていた。
プールから屋敷へ戻ってもメリーちゃんはシェルミー様の横にべったりだ。
シェルミー様も相変わらず王子様然としている。
プールでの事は無かった事のように優雅に振る舞っている。
あんなシェルミー様初めて見たわ。
ちなみに今はみんなでお茶を楽しんでいる。
「わぁ。美味しいですわ。これはクリス様が?」
「はい。お気に召していただいて何よりです」
「へぇ…。このジンジャーケーキですけど、うちの領ではポピュラーなものですけれど、ここでも食べられるとは思いませんでしたわ」
「上のチョコレートと生姜の辛さがマッチしていていいね」
シェルミー様もお気に召していただいたようで、何よりだわ。
「うう…。私はちょっと…」
メリーちゃんには少し辛かったかな。大人の味だしね。
メリーちゃんには代わりにプリンを出してあげた。
「わぁ! プリン! 私大好き!」
「メリー嬢はプリンが好きなのかい?」
「はい!」
「ふーん。じゃあ僕とどっちが好きかな?」
「えっ! そ、それは…シェルミー様ですぅ…」
「本当かい? それは嬉しいなぁ…」
こんなところで惚気るのやめてもらってもいいですかね?
「クリス様?」
「あ、はい。ジル様どうかしましたか?」
「はい。うちの領ではもう少し辛めのものの方がポピュラーなんですが…」
「ありますよ。辛いの苦手かなと思って出してなかったのですが、お出ししましょうか?」
「是非!」
目を輝かせて喜ぶジル様。縦ロールもビヨーンと跳ねる。
という事で、辛めのジンジャーケーキをお出しした。
一口食べて紅茶を飲むと、ほぅと一息ついてうっとりとした顔になった。
「これですわこれ! あぁなんて美味しいのかしら。地元の味と同じですわ。クリス様はお菓子作りも完璧なんですのね」
喜んでいただけたようで何よりです。
「ところで、クリス嬢はいつもこういう感じで、お菓子を作って出したりしているのかい?」
「そうですね。結構昔から作ってますね。お姉様やソフィアはいつもお菓子をねだってくるので、自然と」
「ソフィア嬢はいつもいるのか…。これは勝ち目がないなぁ…」
「そんな事より、ソフィア様は恵まれすぎですわ。こんなに美味しいものをいつでも食べているだなんて。なんて羨ましい…」
「ソフィア姉様が入り浸っていた理由が分かりましたです」
そんなソフィアは怒って帰っちゃっんだよね。
「ソフィアの分は後で焼くから食べちゃっていいですからね」
そう言うと、三人は顔を見合わせた。
「こんなに尽くしてくれるのに怒って帰ってしまうなんてね」
「でも、ああいう時のソフィア姉様は何かやると決めた時ですねー」
「そうなのですわね。レオナルド殿下の件もありますが、今は一応はフリーですわよね。さっさと告白してしまえばいいのですわ。でないと私達が言ってしまいますわよ」
「あっ! 私、ソフィアに好きって告白されてます」
「えっ?」「えっ!」「えっ! 初耳なんですけど」
まぁ、言ってないしね。それよりも、ソフィアはメリーちゃんも言ってないのか。
「あ、あの…クリス嬢…詳しく聞いても?」
「そうですわ。そんな重要な事黙ってるなんて」
しまった失言だったわ。
今更撤回も黙秘も通じる訳なく、夕食の時間まで根掘り葉掘り関係ない事まで問いただされてしまった。




