02 久しぶりの我が家
* * *
夏休みに入り、一年ぶりに実家へ帰ってきた。
帰ってきて早々思ったのは、何も変わっていないなぁと言う事。
屋敷の庭ではメイドさん達の子供や孤児院の子供達が元気に駆け回っていて、庭にあるガゼボではサボっているメイドさんがいたり、ところどころ壊された庭を大きな使用人さん達が泣きながら手入れしていたり、特に変わっている場所は見受けられないように見えた。
「久しぶりの我が家ですね」
「そうね」
私について学園へ行ったメイドさんも一緒に帰ってきている。
メアリー、ビシューさん、ロココさんと学園で教鞭をとっていたアンジェさんとクオンさんとプロフィアさんも一緒だ。
クオンさんとプロフィアさんは一緒に海外に行くもんだと思ってたんだけどねー。
ソフィアのところから買ったと言ってた車で駅から屋敷まで来たんだけど、ホント早いわね。前は三十分掛かっていたのが、十分ちょいで着いてしまう。
まぁ、周りに何にもないしね。
まぁ車だからかエアコンも効いていて助かるわ。
家に着いたのにメアリーが出たくないと言い出した時はそのままエンジン切って閉じ込めてやろうかと思ったくらいだわ。
まぁ、今日の暑さなら耐えられると思うのだけどね。
メアリー以外の人達は荷物を置きに屋敷へ入っていった。
私の横にすまし顔でいるけれど、メアリーは手伝わなくていいのかしらね?
そういえば、お姉様は卒業したから、先に家に帰ってきてるはずなのよね。
そう思って辺りを見回していると、大きなパラソルの下に青い髪の人影が見えた。
テーブルも置いてあるので、きっとお茶を飲んでいるんだろうなと思って近づく。
私が近づいても振りからないと言う事は、寝ているかお菓子を頬張っているかのどっちかね。
「お姉様ただいま帰りましたわ」
そう言ったんだけど、なんか様子が違う気がする。
その人は振り返ると私を見るなり、満面の笑顔になって立ち上がった。
「クリスー!」
「わ!」
そのまま押し倒されてしまった。私の上でニコニコしている人は確かにお姉様っぽい顔立ちをしているが、別人だ。
だって、何か気品とか色気とか全然違うんだもの。こっちのが上品な感じがする。
よくよく見ると頭にツノが生えていた。
「もしかしてヴェイロン?」
「そうよー。わー。帰ってきてたのねー」
私の頬に頬づりするヴェイロン。どゆこと?
「あのー」
「なぁに?」
「何で人化してるの?」
「頑張ったら出来たの」
起き上がって、私に手を差し出すヴェイロン。優しい。
まじまじと眺めると、いいところのお嬢さん感が半端ない。お姉様も見習ったらいいと思うの。
しかし、出るとこ出て締まるとこ締まってるわね。俗に言うナイスバディというやつね。悔しい。
多分お姉様のドレスを着ているんだと思うけど、似合ってるわ。本人より似合ってるわ。
そんな様子をみてヴェイロンは嬉しそうにニコニコしている。
「私、文化祭というのにも行ったのよ?」
「え、そうなの?」
「なんか、チケットもいっぱいもらったの」
あの時、何周もクリアした人がいるって言ってたのってお姉様じゃなくてヴェイロンだったのね。納得。
ところでメアリーはさっきからずっと不機嫌そうな顔してるけどどうしたの?
まぁそんなメアリーはほっておいて、さっきから微動だにしない、パラソルの向こう側にいるメイドさんが気になった。
そっと覗くとボーッとしているロザリーだった。凄い疲れた顔をしている。
「ちょ、ロザリー大丈夫?」
「あぁ…クリス様お久しぶりです」
「う、うん。ちょっとどうしたのよ」
「どうしたって、私にヴェイロンの世話係を押し付けたからでしょう? この一年ホント大変だったんですよ」
ヴェイロンを見るが、そんな感じに見えないけどなぁ。
「あ、信じてませんね?」
それからロザリーはどれだけ大変だったかを夏の暑さの如く熱く語ってくれた。
まず。物凄く食べるという事。そして、子供達と一緒になって遊びまわる事。人化してからは服が汚れるので、終始気を使うとの事。そしてドラゴンだから勝手にどこかへ飛んで遊びに行こうとする事。最後に自分のパンツコレクションからパンツを勝手に使われるというどうでもいい情報まで教えてくれた。
でもしょうがないんじゃない? 子供なんだもの。
それにお姉様みたいにあちこちトラブル捲き起こしてる訳じゃないんだし…。
「私にとっては切実な悩みなんです」
でもまぁ、母親みたいなものだしね。見た目はお姉様を少しちっちゃくした感じだし。大目に見て欲しいわね。
メアリーがロザリーを見てほくそ笑んでるけど、私にとってはメアリーの世話も大変なのよね………。あぁ、なんかロザリーの大変さが分かった気がする。
「ところで、本日は?」
「あぁ、夏休みだから帰ってきたの。お姉様は?」
「子供達と遊んでますよ。ヴェイロンより自分の方が凄いとか何とか言って」
何でそんなところに対抗心を燃やしているんですかね。
「でもまぁ良かったです」
「?」
「ヴェイロンのお世話してくれるんですよね?」
どうしてそういう話になるのかしら?
とりあえず、他にも挨拶回りしないといけないから、「頑張って」とだけ言ってこの場を後にした。
ヴェイロンも聞き分けがいいのか手を振っていた。いい子ねぇ。よっぽどロザリーに懐いているのね。




