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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第2章

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14 ソフィアは終始不機嫌/お姉様はいつも何か食べている


           *      


 「すまなかった。娘が大変な事をして申し訳ない!」

 仮にも公爵ともあろう者が頭を深く下げている。

 「いえ、その…。頭を上げてください公爵」

 「いや、よそ様の息子? 娘さんを押し倒してしまうなんて、娘の婿になるなら、DVはダメだと思っているが、まさか逆に娘が暴力を振るうとは思わなかった。何と詫びたらいいものか…」

 「いえ、たまたま不可抗力で倒れてしまっただけです。暴力もありませんし、どうか頭を上げていただけませんか?」

 赤くなった鼻を見て申し訳なさそうに、眉をハの字にする公爵。

 「そうかね? 君がそう言ってくれるなら…」

 「アレを握り潰そうと思ったのは事実よ」

 「ソフィア! 何て事を!」

 本当だよ。せっかく収りかけてたのに、一瞬で台無しにされた。

 よく見ると、琥珀色の髪に結構な数の白髪が見える。きっと気苦労が絶えないんだろうなぁ…。


           *      


 街中を案内してくれるという事で、二台の馬車に分かれて街へ向かっているのだが―――――

 こちら側の馬車には、私とソフィアと公爵。そして、公爵家のメイドさんの四人が乗っている。

 私とソフィアが隣り合って座っているが、ソフィアは、窓に肘をついてずっと外を眺めている。こっち側を見ようともしない。随分と嫌われたものだなぁ…。


 改めて、クリストファー本人と認識したけど、女装男じゃ嫌だったんだろうね。

 向かいに座る公爵が申し訳なさそうに、口元に手をやって話しかけてくる。

 (すまないね。娘は結構気まぐれでね。本当は逢えるのをずっと楽しみにしていたんだ。それはもう、伯爵から手紙をもらった日からずっとね…)

 うわぁ…。罪悪感で胃がキリキリしてきた。お父様の気持ちが良く分かるわ。


 「大丈夫よ。今後はもう二度と逢う事もないでしょうからね」

 どうやら、聞こえていたらしい。こっちを一瞥もせずに言い放つ。

 それ以降お通夜状態の馬車は、領都の中心街へ着くまで終始無言だった。


           *      


 馬車から降り、辺りを見渡す。

 本当にこれやり過ぎなんじゃないだろうか? そう思わせるほど街は発展していた。

 街中には数多くの馬車が行き交っている。本当に信号だけで制御できるのかな?

 林立するビル群の中には、コンクリート製のものから、おしゃれなレンガ造り。はたまたガラス張りのものもある。石畳の地面に、街路樹と街灯が等間隔に建っている。

 ビルの一階部分にはお店が立ち並び、飲食店も多い様だ。


 そして、降りたばっかりのはずのお姉様が既に何か食べていた。

 そして、手に持っていた食べ物を私へと差し出した。

 「クリス、これあげるわよ」

 多分、何かの揚げ物なんだろうけど、いらないなぁ…。だって、お姉様が人に食べ物を分け与えるなんて事今まで一度たりとも無かったのだから。


 「生憎と、お腹が空いていないので、お姉様が全部食べていいですよ」

 実際、さっきのお茶と物体Xで食欲はないのだ。そこにきて、この揚げ物は見ただけで胃にくる。


 「いやいや、折角違うところに来たんだもの、その土地その場所の料理を食べないと損じゃない? ほら、あーん…」

 無理やり口元に持ってくるので、上半身を仰け反らせながら、両手で遮る。

 「ダウト! 美味しくないから押し付けようとしているんでしょう?」


 「うぐ……。だって、美味しくないんだもの。一口食べて喉を通らないなんて初めてよ。パッサパサでモッソモソ。全体的に火を通し過ぎなのよ。そもそも味が全然しないの。店先にある調味料みたいのかけても、それ自体美味しくないから最悪よ。せめて、ケチャップでもあればって思って、『ケチャップください』って言ったら、黒に近い緑の塊が出てきたわよ。ビックリだわ」

 なんだかんだ言いつつも、中の揚げ物をモソモソ食べている。律儀だなぁ…。


 「それにまだこんなにあるのよ。少しくらい減らすのに協力しても良くない?」

 お姉様の腕の中の紙袋にはまだ沢山の揚げ物が入っている。

 うっ…。胸焼けしそう。


 「お姉様が食べたくないものを私に食べさせようとしてるわけですよね?」

 「だって、死ぬほどマズかったんだもの。私だけ、こんな気分になるなんて嫌だから、せめて誰か道連れにしようと…」

 相変わらず、お姉様は言ってる事が無茶苦茶だわ。こういうところが、お姉様がお姉様たる所以よね。

 でも、お姉様の舌を甘く見ていたわ。どんなものでも構わず食べると思っていたのに、まずいものはまずいとちゃんと分かるだなんて……。


 そして、抗議するかの様に顔を間近に寄せて、再度食べかけの揚げ物を口元に寄せてくる。諦めないなぁ……。

 「これ食べて死んだらどうするの?」

 「最初に食べて、まだ死んでないから大丈夫ですよ」

 さっき、公爵家で出されたお茶とお菓子で死にかけたんですがね。一瞬、三途の川を渡り掛けたわよ。


 「うぅ…。この苦しみを共有したくて」

 はぁ…、仕方ない。こうなったらお姉様は意地を張り続けるのよね。流石に申し訳ないと思ってるのか、困った様な顔をしている。


 差し出されたものを一口齧る。

 ………。酸っぱい様な、しょっぱい様な、それでいてパサパサモソモソ。衣はしなしなになっている。これ、お姉様ビネガーと塩だけかけた感じですかね?

 袋の中を覗いてみると、別の揚げ物がある。こっちなら、まだマシかなと思って、一本取って食べる。

 …………………。やっぱりしなしなモソモソ。もういらないかな。


 ちょっと食べた時、パアッと顔が明るくなったけど、食指が止まったらまた急に不安顔になる。

 きっと、食べ物は残さないがモットーのお姉様が、どうしても食べられないのが心残りなのね。だったら、いい事考えついたわ。


 「メアリー、私、これ少し食べたんだけど、もうお腹いっぱいで、あと食べてくれない?」

 「もしかして食べかけですか? 食べます。ありがとうございます!!!」

 袋を奪って、口いっぱいに頬張るメアリー。そして、そのままの状態で固まり、涙目になりプルプルと震えだす。まぁ、分かる。飲み物ないときついよね、それ。


 「私、たまにクリスが怖い時があるわ…」

 お姉様が買ってきたのを見てるはずなのに、まぁ、私が少し食べたのは事実だし、いいわよね。



 しかし、こんなやりとりをしているのに、ソフィアだけは、ちょっと離れたところで一人不満そうにしている。

 公爵はお父様とビルを見ながら話をしていて、目を離している。

 一応、ソフィア付きのメイドさんは近くにいるけれど、メアリーが涙目で揚げ物を食べる様を食い入るように見てる。


 「ねぇ、あの娘、ずっと不機嫌そうだけど、クリス何かしたの?」

 「まぁしたというか、不可抗力というか、されたというか。まぁ、嫌われましたね。確実に」

 「??? まぁ、いいわ。そんな事より、さっき食べたものあるじゃない?」

 コロコロ話題が変わるなぁ…。


 「えぇ、食べられない事はないですが、もう食べたくないですね」

 「私もそう思うわ。それでね、あの時クリスが出て行った後に少し話し合ったんだけど、この領にうちのお店出したら繁盛すると思わない?」

 提案しているのに、なぜかイタズラを考える子供の様な表情で聞いてくる。


 「多分、駆逐しちゃうんじゃないですかね?」

 「やっぱり、そう思う? やっぱり、食べ物って重要だと思うのよねぇ…」

 うんうん頷きながら、ドヤっている。


 「でも、もしかしたら、受け入れられない可能性もあるから、徐々にやらないと損しますよ?」

 街中の人が平然と、あの食べ物を食べているのを見て、自分の味覚も信じられなくなってるからね。その土地であった食べ物とかあるでしょうし。


「あ……、そっかぁ……。でも、同じ料理でも上位互換の物とか作れそうなのよね。あ、でも。逆にそれをまずく感じてしまうとかないかしら? でも、うーん。まだ一店舗しか食べてないから判断できないけど、きっと他のお店も似たり寄ったりよねぇ?」

 お姉様って、食べ物。特に美味しいものに関しては異常な程、執着があるわよね。

 ちょっと、イタズラしてみようかな、と一瞬魔が差した。


 両頬を人差し指で指しながらニッコリと笑いながら問いかける。

 「ちなみに、お姉様は私と食べ物、どっちが重要ですか?」

 「……………………………………………………………………………」

 あ、やばい。目を見開いてフリーズしてしまった。どうしよう。再起動ってどうやるんだ? 叩けばいいのかな?

 「……クリ……、……タベ……」

 かゆ……うま……みたいになってる。

 あかん……。まさかこんな事になるなんて思わなかったわ。


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