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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第7章

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35 婚約破棄


     *     *     *


 七月下旬。

 夏季休暇前の修了式後の自由参加のパーティ。

 ついにきたわね。ホント長かったわ。

 今まであった事をしみじみと思い出す。

 窓の外を眺めると夏の青々とした景色が目に移る。

 「クリス…綺麗ね…」

 「あぁソフィア」

 振り返ると、真っ赤なドレスに身を包んだソフィアが然も当たり前の事を言う。

 「ソフィアも綺麗よ。似合ってる」

 「へへ…ありがと。クリスのそのドレスも綺麗ねぇ…。ホント似合ってる」

 夏なのでオーガンジーの生地を使った涼しそうな感じのドレスを仕立ててもらった。薄い青と水色がキラキラと星のように煌めいている。

 「あらぁ。クリスちゃんったら今日もお姫様ね」

 奥の方からエリーが頬に手を当て近づいてきた。

 「ありがと」

 そんなエリーは紫色の肩出しのドレスを着ている。既に縫い目の部分が解れている。どうしてもっと大きめに作らないのかなぁと不思議でしょうがない。

 「あらあら。クリス様もソフィア様もいつにも増してお綺麗です事」

 「ジル様のドレス姿初めて見ました。綺麗ですね」

 「ホント。嫌味かってくらい似合ってるわ」

 「あ…ありがとう……ございますわ……」

 顔を真っ赤にして照れるジル様。ジル様も紅いドレスだけど、ソフィアとは違って高級感がある。なんだろう。元の素質なのかな?

 というか、ソフィアのは褒めてるのかな?

 「しかし、今日まで長かったわね」

 「ホントにね」

 「失敗は許されませんわよ」

 「分かってるわ。今日まで散々練習したんですもの」


 そう。あの日レオナルドが頭を下げた後に言ったのは、婚約を解消する為に、みんなに演技をして欲しいとのことだった。

 爆弾騒ぎや王家の暗部等の話はせずに、対立派閥への配慮等と説明をする。

 みんな最初は戸惑っていたが、レオナルドの真剣な表情を見て、みんな納得してくれた。

 一緒に打ち上げに参加していたB組の生徒達もいた為、A組B組合同で芝居を打ってやろうという事になった。

 どこで聞いたのか他のクラスの生徒も何人か参加しており、文化祭の翌日から昨日まで練習していたのだ。

 まさか婚約破棄を演じようなどとは誰も思わなかったでしょうね。


 「準備できてる?」

 「そろそろ時間よ」

 イヴ様とカリーナちゃんがそっと近づいて教えてくれた。イヴ様は濃い紫のドレスを着ていて、カリーナちゃんは紺色のドレスだ。

 こうして見ると、赤系統のドレス二人に紫系統のドレス二人に青系統のドレス二人と…。なんか悪役令嬢っぽいわね。

 まぁいいか。ドレスの趣味なんて人それぞれだしね。

 「じゃあ行きましょうか」

 控え室を出て、ホールへ向かう。

 入り口は開け放たれているので、そのまま入ると、ザワッとしたどよめきが広がる。

 もちろんそんな事を気にしている暇はない。

 レオナルド達のいる場所へ向かって一直線に歩いていく。

 私が歩く姿に、「ほぅっ…」というため息がいろんなところから聞こえる。

 それ以外は歩く靴の音だけがホール内に響いている。

 「ご機嫌よう。レオナルド殿下」

 「クリスティーヌ嬢……」

 優雅に微笑む私と、険しい顔で睨むレオナルド。

 私の後ろにはソフィア、エリー、ジル様、イヴ様、カリーナちゃん。

 対するレオナルドの後ろにはウィリアム、シェルミー様、テオドールたん、アーサーのバカ、そして他数名の男子と女子がいた。


 私はレオナルドと目配せして始める事にした。

 レオナルドは軽く頷いて口を開いた。

 「クリスティーヌ・オパールレイン…。き、君との婚約は…、破棄するっ…」

 嗚咽を漏らしがら、そう叫んだレオナルド。悲壮感と焦燥感の演技が凄い。

 「かしこまりましたわ。レオナルド様」

 と、私が了承の意を示すと、彼は絶望に染まった顔でその場に頽れる様に膝をついた。

 「どうして…。どうしてなんだクリスっ…!!」

 消え入りそうな声で呟くレオナルド。

 「こんなにも、君を愛していたのにっ…」

 そのまま涙ながらに蹲ってしまった。

 やめて、やーめーてー。

 ちょっと台本にないアドリブ入れるのやめてよ。これじゃあ私が悪者みたいじゃない。

 いや、全面的に私が悪いとは思うのよ? 女装した男だし。今の今まで関係が続いていたわけだし。でももっと上手に事が運ぶと思っていた訳で、こんな泣きだすなんて想定外。


 予想外の演出にみな驚き固まっている。

 ポカーンとした顔で固まってんじゃないわよ。何か言うとかフォローするとかしないの? 棒立ちじゃない。

 あんだけ練習したのに突発のアドリブで台無しになんて出来ないわ。

 チラっと右の方を見て、目で合図する。

 トミー嬢とカイラ嬢。そしてマーガレットがちょっとだけ離れた位置でスタンバイしていた。

 忘れてたと言わんばかりに急いでレオナルドの元へ向かうヒロインことマーガレット。

 最初は誰がそれをやるかで悩んでいたが、マーガレットがいの一番に手を挙げたのよね。


 「あぁ、かわいそうなレオナルド様っ…!」

 下手くそか。私に任せろと言ったのは貴女よね? 棒読みもいいところじゃない。

 あの時見た演技とは程遠いわ。というか、セリフ間違ってるんですけど?

 もしかして本当にテンパって忘れちゃったの?

 マーガレットは思い出したように、蹲るレオナルドに駆け寄り、甲斐甲斐しく背に手を回し心配する素振りを見せるが、レオナルドは彼女に一瞥もせず、絞り出す様にこう言った。

 「君が…、君が男だったなんて─────」

 そう言ってレオナルドは人目も憚らずに泣き出してしまった。

 終わった―――――。

 ふぅ…。なんとかここまで進んだわね。

 はい、打ち首お家取りつぶし。……なーんて事はないのよ。だって私が男だっていうのはほぼ全校生徒にバレてるんだもの。

 何を今更って感じよね。やたらと静かなホール内の空気が怖い。

 もしかしてこの茶番を見透かされている?


 本当はこんなことしたくはなかったし、やるにしてももう少し上手く出来なかったのだろうかと軽くため息を吐いた後、天井を仰ぎ、事の始まりを思い出していた。

 その瞬間、お腹に強い衝撃を感じ後ろに倒れてしまった。

 一瞬何が起こったのか分からなかったが、顔を上げると、視線の先には私のお腹に顔を擦り付けながら泣いているレオナルド。

 「やっぱり出来ませんっ! 私はクリスが好きなんです! 男でも構いませんよっ!」

 えぇ…。ちょっと。言い出しっぺがそんなあっさり撤回しないでよ。

 もしかしてこれを狙ってたなんて事ないわよね?

 どうしようかと思いながら、上半身を起こしレオナルドの頭を摩りながら周りを見ると、一斉に拍手が巻き起こった。

 涙ながらにうんうん頷く人。涙を拭いながら微笑む人。手元を抑え涙する人。なぜか隣の人と握手したり、肩を叩いたりする人。などなど─────

 そして、その様子を見て微笑むマーガレットや、悔しそうに涙を流すウィリアム。

 後ろを振り返るとソフィアが不機嫌そうに腕組みをしていた。

 他の人たちは知っていたのか、優しい目をして拍手していた。

 待って。待って待って。え、何? もしかして最初からこうなる事知ってたって事?

 結局これって婚約破棄とか婚約解消って出来ているの? 誰か教えて欲しいんだけど………。


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