33 レオナルドとのデート②
体育館へ行くと、結構な人数が入っていた。
前方の方は全席埋まっていて、後ろの方に何箇所か空きを見つけたので、レオナルドとそこへ座った。
腕時計を見ると、時間は十二時を回った頃だ。
体育館全体にアナウンスが流れ、注意事項や演目を案内していた。
幕が開くと、本日のオープニングアクトは昨日も演奏したソフィア達だった。
まさか二日連続でやるなんて思わなかったので、かなりびっくりしている。
昨日はヴィジュアル系みたいなスーツだったのに対し、今日は全員制服を着ている。
そう。シグマさんまでも制服を着ていた。この位置からならそんなに違和感ないわね。うん。
そして全員がメガネをかけていた。なんで?
そして普段メガネをかけているはずのアンジェさんだけが、なぜかクマの着ぐるみのような物を着ていた。暑くないのかな?
そして今日は最初からツインボーカルのようで、ソフィアとマーガレットがそれぞれマイクを持ってセンターでスタンバイしている。
プロフィアさんがギターをリズミカルに弾き始め、クオンさんも続く様に弾き始める。
あれ、これも聞いたことある曲だわ。◯ルソナのよね。あ、だからツインボーカルなのね。
メインをソフィアが。コーラス部分をマーガレットが歌う。
しっかしホント上手いわね。これ難しすぎてカラオケで歌えないのよね。
まぁ、私は元々下手だから歌える訳無いだろって批判は受け付けないわ。わなっふー。
二人とも楽しそうに歌っている。曲調も相まって生徒達は既に立ってノッている。
でもアンジェさん、キーボードかなり使うと思うんだけど、その格好でよく弾けるね。
しっかし、ソフィアが歌上手いのは分かるけど、マーガレットもホント上手いわね。あの英語の部分よく歌えるなって感心する。
二人が向き合った時は、生徒達から黄色い歓声が上がる。なんだかんだあの二人人気よねぇ。
そんな感じであっという間に曲は終わった。
勿論、これで終わらないのは分かってるわ。次はなんの曲かなのかなと思ってたら、これまた軽快なイントロで始まる。マーガレットがマイクを持ったまま手をパチパチ叩く。
「フゥフゥーーーーー!」
あぁ…。確かにこの曲もMVで制服着てたわね。
合いの手部分とラップのところをマーガレットが歌うが、一番驚いたのは、ソフィアの声量だろう。よくあのシャウトを掠れることなく歌いきったわね。
嫌よ? 筋肉モリモリのソフィアとか。
そんな感じであっという間に二曲目も終わってしまった。早くない?
三曲目もやるのかなと思っていたら、ソフィアがクオンさんからギターを。マーガレットがシグマさんからベースを受け取った。
そして、ソフィアとマーガレットとギガさん以外ははけてしまった。どゆこと?
そう思っていたら、ギガさんのドラム音と共に、二人が向かい合ってギターとベースを弾き始めた。
体育館内のボルテージは最高潮に達している。
みんな黄色い歓声をこれでもかと張り上げ、拳を突き上げている。
そしてソフィアが歌い、マーガレットも歌いながら弾いている。
ソフィアが楽器弾けるのは知ってたけど、まさかマーガレットもあんなに上手いとは思わなかった。
結構マーガレットの見せ場があるようだ。
「一体どうなってんだー!」
それは私のセリフよ。ホントどうなってんのよ。
そして、あっという間に演奏は終わって、二人は軽く手を振って後ろの方にはけていく。
そして幕が降りるのだが、体育館内の興奮は冷めないようで、未だに歓声が轟いている。
「凄いですね」
「えぇ。ホント凄いですね。一体いつあんなに練習したんでしょうかね?」
「私も気になりますね。一体どれだけやればあんなにかっこよく弾けるのか」
レオナルドは興奮した感じで続ける。
「もし、私があんな風に演奏しながら歌ったらどうですか?」
え、何? 本当の歌の王子様になるのかしら? まぁ、悪くはないと思うのよ。二〇〇〇年以降のヴィジュアル系みたいな感じだし。
「いいんじゃないですか? 結構似合うと思いますよ」
「本当ですか? ではちょっとやってみますね」
「えぇ」
でも本当に似合うと思うのよね。これは素直に本心でそう思うの。
「じつはこれをやるのを知っていたので、クリスをここに連れてきたんですよ」
「そうなんですね」
昨日も王妃様達と観ていたんだけどね。
「えぇ。では、次なんですが…」
その時、次の演目がB組の演劇をやるとアナウンスされた。
「すいません。レオ様。次も見ていってもいいですか?」
「え? えぇ…。いいですよ」
私の急な発言に戸惑っているが、知ったこっちゃないわ。
B組といえば、テオドールたんのクラスの演劇だ。
テオドールたんは魔法少女をやるといっていたからね。これは絶対に観ないといけないだろう。もし、観れなかったら一生の後悔になるところだったわ。
「はは…」
なぜかレオナルドが隣で苦笑いしている。どうしたんだろうか?
B組の演劇が始まる。襟を正し座り直す。
「………」
レオナルドが何か言いたそうにしているが、これから集中しないといけないから気づかないフリをしましょう。全集中全集中…。
マーガレットは二つ連続での出演だが、疲れた様子はなく、ウィリアムと一緒に完璧に悪役を演じている。
対するテオドールたんは、たどたどしい演技だが、可愛さがこれでもかというほど溢れているので、それだけで十分だわ。はぁ…♡ 癒されるぅ…♡
尚もレオナルドがチラチラこっちを見てくるが、ちゃんと観ないとダメですよ。
ほら、テオドールたんの杖を上げる姿なんて、くぅ…。可愛いさと凛々しさが渾然一体となっている。もうダメ♡ 可愛すぎて死にそう♡
舞台上で動き回るテオドールたんの一挙手一投足に甘い声が漏れてしまう。
演劇を観ている他の生徒からも、甘い甘い吐息が聞こえる。
この脚本と企画を考えた人にクリス賞を上げたいくらいだわ。まぁそんなのないんだけど、もうテオドールたんが可愛いったらありゃしないわ。くぅ…。堪らず全身を抱きしめる。身が持たないわ。
そして、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので、最後にテオドールたんが両手を広げて手を振っている。もちろん私も立ち上がり手を振る。当然でしょう。
「………」
「何か?」
「いえ、何でもないです」
テオドールたんが手を振っている最中に幕が降りてしまったので、そのまますっと席に座る。
あぁ…。なんて可愛かったのかしら。あのレオタード風の魔法少女の衣装考えた人は分かってるわね。ホント会って絶賛したいわ。
私がテオドールたんの可愛さの余韻に浸っていると、レオナルドが声を掛けてきた。
「ず、随分と楽しまれたようで」
「ええ。疲れもバッチリ吹き飛びました。このまま72時間くらいぶっ通しで働けそうです」
「それは健康に良くないのでやめましょう」
別に例えで言っただけよ?
苦笑いのレオナルド。何をそんな苦笑いしているんだろう? テオドールたんの演技を観たらみんな笑顔になるっていうのに。
「では、いい時間なので、どうです? 何か食事でも」
「そうですね。少しお腹空きましたね」
「では行きましょうか」
「ええ」
レオナルドが手を差し出す。
え、何? 昨日の演技がまだ残ってるの?
戸惑っていると、今度はすっと腕を差し出しエスコートをしてくれたので、そのままレオナルドの横について歩き出した。




