13 悪役令嬢であってもなくてもこんなこと普通はしない
「まぁいいや。で、最悪なのは私がこのゲームの悪役令嬢 《ソフィア・アンバーレイク》だって事よ。しかも、あの腹黒マザコン王子の婚約者! ヒロインをいじめたりする事によって、最終的に断罪されて、国外追放もしくは処刑されるのよね」
何故か他人事の様に言って、ソファへ沈み込む様に背をつける。
「そういうキャラなんだけど、私、婚約者じゃないのよね。嬉しい事にね。断罪気にせず好きな事できるって最高よ。まぁ、兄達と好き勝手やった結果来てしまったんでしょうけどね」
好き勝手やらかした結果って意味ならうちも同じだわ。
「研究に没頭するあまり、それまでゲームの事すっかり忘れてて、お父様から王子が視察に来るって言われた辺りで思い出したのよね。この前視察に来た時に、『あっ、終わったかも』って思ってて、内心ビクビクしてたのよね。全然対策とかしてなくて、婚約者になりたくないから塩対応してたんだけど、向こうも私に対して塩対応? というか、上の空だったんだけど、何か知ってるかしら?」
「私が、その婚約者なんですが……」
「んん? え? 何て?」
「だから、私がその婚約者になっちゃってるの!」
「何で? もしかして、男が好きなの? あ、だから女装しているの? え? 王子は知ってるの? もしかして王子ってそっちの趣味が?」
ソファから身を乗り出すように、興味津々に食らいついてくる。
今日一番の笑顔で続きを促してくる。
「知るわけないでしょう! それに、お父様にバレずに婚約破棄頑張って♡ って言われてるのよ。ホント、どうしたらいいのか…」
「そうなんだ。あの、なんかごめんね。ところで、女装してるのと男好きはどういう事?」
「何でそんな考えになるのか分からないけど、別に男好きじゃないわよ。あ、女装は好きでやってるわよ。だって、私かわいいもの」
髪をファサッと後ろへかき上げて、自信満々に微笑む。
「こんな事言うのあれだけど、様になってるわね。正直私より可愛いまであるわ。悔しくて嫉妬しちゃいそうなくらいに……。……………ねぇ、本当は女の子って事ない?」
顎に手をやり、コテンと小首を傾げる。美少女がやると様になるわね。
「いや、ちゃんと男だって言ったでしょう?」
「いいえ、この目で見るまで信じられないわ。研究者としてちゃんと確認しないと!」
研究者って何だよ。貴女公爵令嬢でしょう? もうちょっと慎みなさいよ。
と、呆れた様にため息をついたら、目の前に影が差した。
いつ立ったのか、目の前にソフィアが口角を上げながら立っていた。
「私、直接見ないと信じられないタチなのよね」
そう言い終わらないうちに、私のスカートの膝の辺りを掴み持ち上げようとするので、慌てて横へ飛んで逃げようとしたのだが、ソファには肘掛けがあるので、期待もむなしく足を引っ掛けて、そのまま勢いあまって床へ顔を打ち付ける。あまりの痛さに鼻を押さえながら、仰向けに転がってしまう。
ついでに左肘と左膝をぶつけて、軽く悶絶する。
「研究者としての私の勘が告げている。これは確認すべき事だと!」
左肘が軽く痺れているので、右手で鼻をさすっていたところ、バサッと両手で放る様にスカートをペチコートごと捲られる。
「膨らみがある……」
ゴクッと生唾を飲み込む音が響いた。
「あの、その辺でやめてもらってもいいですかね?」
痛みも引いたので、逃げようとすると、パンツに手を掛けられ、一気に下ろされた。
短期間で二回もパンツをずり下げられるなんて……。
「うわぁ…………。本当に男じゃないの!」
だから、そう言ってるじゃない。見なくてもいいと思うのよ。
上半身を軽く起こし、後ずさろうとすると、股間に違和感を覚える。
「ちょっと! 何やってんの! 何で握った⁉️ 何で揉んだ⁉️ 何で引っ張った⁉️」
「いや、何か色々考えたら腹が立ってきて、つい…」
ついじゃないわよ。最終的に引きちぎろうとしたでしょ?
「いや、触診しないと本物か分からなかったから…。でも、アナタが言う通り、下の方も可愛かったわよ。自信を持っていいわ」
ウインクしながらサムズアップするソフィア。
「持てるかバカ!」
「バカって何よ! すんなりたくし上げて見せればよかったじゃない!」
そんな事を言い合っていると、いきなり扉が開けられた。
「ソフィア、話とやらは終わったかい?」
後ろを見ると公爵がドアノブを握ったまま固まっていた。
それもそうだろう。話があると言っていたのに、押し倒した(かの様に見える)娘ソフィアと、押し倒された(かの様に見える)女装男クリス。
これが逆なら上にいる私が首根っこ掴まれてぶん投げられると思うんだけど、今回は上にいるのがソフィアなので、どう対応したらいいか思考がフリーズしてしまったんだろう。
しかも、私はスカートを捲くられた状態なので、完全に被害者なのだが、ここからどう加害者に仕立てられるか、内心ドキドキしている。