18 文化祭一日目①
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文化祭当日。
今年の文化祭は三日に渡って行われる。
体育館を使うクラスが思いの外多かった為、二日に分けられている為だ。
ちなみに初日は学生のみで行われ、体育館で行われるものは二日目と三日目に催され、一般開放される。
という事で、初日はやる事もないので、見回りついでに文化祭を楽しもうと思うの。
いやぁ。なん年ぶりかしらね文化祭って。ホントワクワクしちゃうわ。
一応、校内放送で始まりの挨拶を学園長が話しているが、誰も聞いていない。
一応、最後の方にいくつか良かった出し物に賞が授与されるらしい。
何でも上位入賞すると、金一封と粗品があるんだそうだ。貴族も通う学園にしてはしょぼくない?
まぁいいか。さてどこへ行こうかなと思ったら、いつの間にか周りを囲まれてしまった。逃げられない。
「ど…どうしたのかな?」
「何って私と文化祭回るんでしょ!」「私も一緒に行きたいのだけど」「何を言ってるんですか! クリスは私と回るんですよ」「こういう時くらいみんなで回ったらどうかな?」「そうですわ。折角の文化祭ですもの」「レオナルド殿下はもう少し心を広く持った方がいいよ」「あの…私もよろしいですか?」「あ、私も」─────
クラスメイトほぼ全員が集まって行動したらそれこそ迷惑だわ。
「流石にこの人数での移動は他に迷惑をかけますから、くじ引きで決めましょ。ね? 五人一組ならちょうどいいと思うんですが……」
提案するが納得するだろうか?
「まぁ仕方ないわね。みんなもそれでいいでしょ?」
何人かずっとブツブツ言っていたけど、くじ引きなら一応は公平だしね。それぞれくじを引こうとしたところで、教室の扉が開け放たれた。
「話は聞かせてもらったわ」
バーンと開けて先頭をきって入ってきたのはマーガレットだ。
その他B組を含め他のクラスの一部の生徒が入ってきた。って多いなぁ。
まぁ、選択授業とかで一緒になってるものね。
「私はソフィアお姉様と回りたいわ」
「私はぁ、イイ男なら誰でもぉ」
「わ、私は誰だっていいけどさ…」
それぞれの思惑が絡まってるわね。
「じゃあ、くじを作り直しましょうか」
という事で、私はジル様とトミー様とカイラ様そしてマーガレットの五人で回る事になった。
「よろしくお願いしますわ」
「クリス様と文化祭回れるの嬉しいです」
「ね。一生の思い出よ」
「どうしてこうなった」
唯一不服なのはマーガレットだ。
「まぁいいか。知らない男子と一緒じゃないだけマシよね」
「はは……」
まぁ気持ちは分からんでもない。
「では、早速参りましょうか」
ジル様が先頭を切って歩いていく。縦ロールが横にみょんみょんと揺れ動く。
そしてそれを追うマーガレット。
「ちょっと。そんなことしてると目回すわよ」
「そうね。ちょっと気分が…」
言わんこっちゃない。
さて、校舎前に来た訳だけど、本当に屋台が多い。
正直文化祭というより市場といった方が正しいかもしれない。
屋台が多いのもそうだけど、生徒数も多いから結構ごっちゃごちゃしている。はぐれないようにしないとね。
「あのークリス様?」
「トミー様どうかしましたか?」
「アレなんですけど」
アレとは?
トミー様の指差す方を見て納得した。
『今川焼』、『大判焼』、『回転焼』、『御座候』、『おやき』、『あじまん』、『蜂楽饅頭』、『甘太郎焼』、『二重焼』─────
どうしてこんなにバリエーションに富んでるのかしら?
ここだけそれ系のお店ばっかりね。聞いたことない名前のものもいっぱいあるわ。
中でも『アンコリーノ』とか『ベイクドモチョチョ』って何よ。どこの地域なのよ。
『三方焼』とかいうのは三角形なのね。へぇ…。
「どれもこれも同じに見えますが…」
「中身が違うんでしょうか?」
「でもどれもがだいたいあんこ、うぐいす、クリームですね。店によって変わり種の種類が違いますけど……」
「あ、でもあっちのおやきは中身違いますね。きんぴらに野沢菜に切り干し大根……」
「あっちの中華まんというのも気になりますわね」
もうそっちいったら別の食べ物なんだよなぁ。
というか、お好み焼きですら、『関西風』、『広島風』とかあるし、『イカ焼き』、『ネギ焼き』、『とん平焼き』、『イカ焼き』、『三原焼き』、『遠州焼き』とかいろいろありすぎるわ。
そもそもの話で、さっきの野沢菜もそうなんだけど、こっちの世界に関西とか広島ってあるの?
私そこまで広めてないわよ?
「ソースの香りがたまらないですね」
「どれも美味しそうですが、どれがいいか迷いますね」
「たこ焼きというのもあるのですね」
ジル様、トミー様、カイラ様が目を輝かせながら屋台を巡っている。
私とマーガレットはちょっと引いている。
「ねぇクリス…。私この世界の事がよく分からないわ」
「奇遇ね。私もよ。でもまぁ、楽しんだもん勝ちじゃない?」
「まぁそうよね。あーあ。私も久しぶり過ぎてどれを食べたらいいか分からないわ」
「確かにこんだけ合ったら迷うわね。無いものを探す方が難しいくらいだわ」
「逆にこれ全員転生者の可能性ない?」
「まさかぁ……」
無いとも言い切れないけど、そしたらもっと大騒ぎしていると思うのよ。
とりあえず、ソースの香りには抗えないので、私は食べやすそうって理由だけで『どんどん焼き』を買ってみた。
…へぇ。クレープみたいな食感だわ。もちもちしてる。ほぼ生地だけだけど、これはこれで美味しいわね。
ジル様はたこ焼きの熱さに苦戦し、トミー様はお好み焼きを美味しそうに頬張っている。
カイラ様は焼きそばを食べてる。まぁ、同じソース使う料理だしね。
そしてマーガレットはモダン焼きを食べている。
「私は断然麺が入ってる方が好きね」
「そうなんだ。あ、今度うちでホットプレートだしてやろうか?」
「いいね。それ賛成」
「何を賛成なんですの?」
「今度うちでお好み焼きを作ろうと思って」
「あらいいですわね。私達もご招待いただけるのかしら?」
「もちろん」
「あら…。ありがとうございますわ。ソフィア様だと、一回拒否が入りますからね」
「ははは…ごめんね」
「クリス様が謝ることではございませんわ」
まぁそうなんだけどさ。一応同居人としてはね。
「それよりも他にもいろいろ巡ってみませんこと?」
「そうですよ。私他にも気になるのいっぱいあるんです!」
「ちょっとトミー口元にソースついてるわよ」
「あら、ありがと」
カイラ様がトミー様の口元を拭く。ほんのちょっぴり百合成分を補給できて私は満足です。
それで、ジル様はともかくマーガレットまで私の口元を見るのかしら?
何にもついてないわよ?




