13 蠢くもの達
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王城地下。
そこは酷く冷たく、暗く、じめじめとしていて、とても息苦しい。
ここにはかつてこの国で罪を犯したものが収監されている。
その中でも特に厳重になっている区画がある。
牢屋の下の更に下。長い螺旋階段を下って行った場所に鋼鉄の扉が二重に取り付けられている。
この国で国家転覆や王族に危害を加えようとした者が主に収監されている。
「ここに入ってしまえば他の罪人同様薄汚れていてみすぼらしいですね」
衛兵の格好をした男が一人呟く。
「好きでここにいるわけではない」
「そうだとも。今はこんなだがいずれ再び舞い戻ってやるとも」
「あぁ…。いずれこの国は我々のものとなるのだ」
「生意気な小娘風情にいいようにされている我々ではない」
牢屋の中から勇ましい反駁の声が聞こえる。
内心失笑しそうになるのを堪えながら問い返す。
「では、どうやってここから脱出するのです? あなた方は一生この薄暗くジメジメした中で過ごすのですよ?」
「ふっ…愚問だな」
牢屋の中から一人余裕のある声が聞こえた。
「といいますと?」
衛兵の格好をした男が聞き返す。
「その為にお前が来たのだろう? 待ちくたびれたわ」
「流石、教皇まで上り詰めたお方ともなると肝が座っていますね」
「ふん。若造が…」
明かりのないこの場所では衛兵が持つランタン等の明かり以外に光源はない。
その為、真っ暗なこの空間で一人衛兵の格好をした男は、闇に向かって話しかけているようにも見える。
そして返ってくる言葉はやたらと驕傲である。
何故ならば、ここの地下には嘗てクリス達やその仲間達が関わった事件で捕まった貴族や宗教関係者が囚われているからだ。
その中でも首謀者格の人物がこの厳重なエリアに囚われているのだ。
未だ事件の全貌を語らない為、仕方なく王城地下。といっても騎士団宿舎寄りの場所の地下に収監されているのだ。
「それで? 皇帝陛下は何と?」
「そうだ。この国を乗っ取るには我々が必要だろう」
「我々は皇帝陛下の為に王家に反旗を翻したのだぞ。まさか見捨てるわけあるまいな?」
「一体どれだけの富や人員を帝国へ援助したか忘れたか?」
元教皇が問うと、残りの貴族達は一斉に自分がどれだけ有能であるかを自己陶酔気味に語り出す。
そんな彼らに内心辟易しながらも愛想笑いをしながら宥める。
「勿論。仰せつかっておりますよ。時が来たら開放すると」
その言葉に「おお…」と一様にどよめく。
「ですが、その前にあなた方をここへ入れたきっかけを排除しないといけませんね」
「出来るのかね?」
「何のために私がここに来たとお思いで?」
衛兵の格好をした男は笑顔を貼り付けて答える。
「ふん…。精々足を掬われんようにな」
「頼んだぞ。そしてあの生意気な女狐もろともぶち殺してしまえ!」
「そうだそうだ。この国は本来、俺達のモノだからな」
「期待しているぞ!」
衛兵の格好をした男は、慇懃に礼をして牢屋から出て行った。
男は思う。別にここで解放することも可能だと。
そして、あの男達が本当に帝国に必要であるのかと。
否。上から受けた命令には忠実に従わなければならない。
例え自分の思惑とは異なっても、指示された内容を遂行すればいい。
勝手な行動は許されていないのだ。
次の指示を待つ為、男は牢屋の階段を登っていく。
男は地上に出ると、交代要員の別の衛兵と思しき男と敬礼を交わし去って行った。
「さて、例の女神様とやらの在わす学園は文化祭の時期だったよな…」
男は衛兵の服を脱ぎ捨て街へ消えて行った。




