12 文化祭の出し物について⑥
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教室へ戻り、予算や注意事項なんかを伝える。
その後、私は特にする事もないので、お姉様からのお茶会の招集に応じなくてはいけない。
足が重い。あそこの曲がり角から生徒会室までそんなに距離はないはずなんだけど、凄く長く感じる。
体感で一時間くらいかな? やっとの事で到着し、ノックをすると秒でドアが開き、出迎えたお姉様に抱きつかれる。
「あ、あの…」
「ちょっと黙って。暫くクリス成分補給してないからカラカラなの」
「………」
毎日会っている筈なんだけどなぁ…。
する事がないので生徒会室の奥を見ると、生徒会の人達がずらっと休めの体勢で並んでいた。
うーん。気まずい…。
「じゃあお茶にしましょうか」
そう言って生徒会室のソファに座った瞬間に、サッとお茶とお茶菓子が出された。
いくら何でも調教されすぎじゃないかしら?
まぁ、そんな事突っ込める訳もないんですがね。
「クリスが生徒会長になってくれれば、安心して引退できるんだけどなぁー」
「私には向かないので、永遠に辞退させていただきます」
「あらそう? 本来ならもう交代している時期なのに、どうして誰も立候補しないのかしらね?」
ホント謎ですねぇー。
しかし、こうしてソファでくつろぎながらお茶を飲んでいるお姉様を見ると、どこぞの独裁者に見えなくもない。
そんなお姉様は、いきなりパチンと指を鳴らすと、生徒会のメンバー全員が、敬礼して部屋を出て行った。
「え?」
「ここから先は聞かせられないからね」
生徒会室の中には私とお姉様の二人だけになる。
「さて…。文化祭期間中だけど、不審者が入り込む可能性があるから十分に気を付けてね」
「はい」
まさかの業務連絡だった。てっきりセクハラみたいな事されるもんだと思ってたわ。
「不審者と言っても過激な方の不審者ね」
過激な方って。まぁ、王侯貴族の通うこの学園に不届きものが入り込む余地なんて幾らでもあるものね。
「生徒会でもその辺ちゃんと取り締まるよう徹底させてはいるけれど、万が一があるからね。特にクリスはかわいいから攫われちゃうわ」
「はは…。気をつけます」
「アンジェ達とも話してるし、前回の二の舞みたいな事は起こらないとは思うけどね」
どんな悪意を持った人が紛れ込むか分からないけど、何も起きないのが一番よね。
「ちなみにお兄様が生徒会やっていた時は、一回そういうのがあったらしいわ」
「えっ!」
「まぁ、当時は今みたいな感じじゃなかったから、反発して送り込んだんでしょうね」
うわぁ…怖いなぁ。
「まぁ、そこまで難しく考える必要はないわ。ところで、クリスのところは文化祭なにやるの?」
「うちは演劇ですね」
「勿論クリスがヒロインなのよね?」
「いいえ。ヒロイン役はレオナルドです」
「ん? どゆこと?」
「私は広報なんで、演じないですけど…、あ、くじ引きで決めたんですけどね。ダブルヒロインが主役でレオナルドとシェルミー様が演じます」
「へ…へぇ…。なかなか奇抜な演劇をやるのね…。まぁ、クリスが実質フリーなのは助かるけども…」
「お姉様のクラスは何をやるんですか?」
「うち? うちはなんか作った小物とか雑貨を売るお店をやるとかなんとか」
お姉様の作ったものは高く売れるんじゃないかな? 実質ラピスラズリ商店ラピス部門のアクセサリーとか作ってるのお姉様なんだし。
でも、学園の文化祭だから、そこまで高額にはしないだろうから、知ってる人が見たらお得感満載で買い占めるんじゃないだろうか?
そんな感じで珍しくお姉様と二人でお茶を飲みながら話をしたのだった。
生徒会室からの帰り道。体感で長く感じる廊下を歩いてる途中、ある事に気づく。
アーサーのいるJ組が何をやるのか確認しないといけない。
またぞろ宗教に関することやっていたら摘発しないと。
雪まつりの時はアーサーの方が一枚上手だったのか私の負けだったけど、今回は先に潰させてもらうわ。
再び、生徒会実行委員会のある会議室をノックする。
「どうぞ」
合図があったので入ると、やっぱり四人が一瞬険しい顔をする。
おかしいな。そちらのお三方と変わらないくらい私は可愛くて美しい筈なのに、どうしてそんな身構える必要があるのかしら?
もしかして、女神様の如く美しすぎて畏縮してるのかな?
なーんて下らない事を考えていたら、実行委員長のクラウドさんが口を開く。
「クリス嬢、どうかしましたか? 何か伝え漏れでも?」
「あ、いえ…そういう事じゃないんですけど、ちょっと気になる事がありまして…」
「気になる事?」
「はい。あのバカ………コホン……。えっと、一年J組が何をやるのか気になりまして…」
「少し待ってくださいね。サニー」
書記のサニーさんが確認をする。
「えっと…コンセプトカフェと書いてありますね」
コンセプトカフェ? 意外っちゃあ意外だけど。なんか嫌な予感がする。
「ちなみにどんなコンセプトでやるとか書いてありますか?」
「特には…」
「見せていただいても?」
「あ、はい。どうぞ」
差し出された書類を見ても、コンカフェの記載しかない。
うーん…。アーサーに聞くのは嫌だしなぁ…。
でもこのまま変なコンセプトでやられても嫌だし。どうしたもんかなぁ。
その時、コンコンとノックの音が聞こえた。
クラウドさんがすかさずどうぞと言うと、扉が開かれる。
そこに現れたのは愛しのテオドールたんだった。
「テオドールたん! え、何? 文化祭実行委員なの?」
「うん。そうなんだ。クリスも?」
「えぇ、そうよ」
「わぁ一緒だね」
「一緒よ。ふふふ」
あぁ…。文化祭実行委員になって良かったわぁ。
あ、そうだ。B組が何をやるのか聞く方が最優先よね。
「テオドールたんのところは何をやるの?」
クラウドさん達そっちのけで聞く。
「うん。ウィリアムやマーガレットが発案して演劇をやる事になったんだ」
「そうなのね。ところで、テオドールたんは何の役を演じるの?」
「まだ決まってないんだ…」
「そうなのね…」
残念。テオドールたんがヒロインやっていたら絶対に見に行くのに。
そこで、ふと思いつく。アーサーのバカは私だけじゃなくてテオドールたんにも集っているわよね。ほんと悪い虫だわ。
「ねぇ、テオドールたん。アーサーが何をやるか知ってる?」
「確か、みんなでシスターさんの格好してカフェやるって言ってたよ」
はい確定。布教活動に近しい事やる気ね。
しかし、ここで潰してもより過激なスタイルになりそうな事を考えると、このままやらせて規制した方がいい気がする。
「会長、一年J組の出し物についてなんですが……」
何とか宗教活動はさせない方向性でまとまった。あとは、あそこが従うかどうかよね。従わなかったらやらせなきゃいいんだもの。
絶対にまともな出し物じゃない筈だからね。学園の品位を落とすような出し物は規制されるべきだと思うのよ。
さて、久しぶりにテオドールたんとデートでもしようかしら?
「テオドールたんはこの後暇?」
「ごめんね。僕この後演劇の役決めがあるんだ」
「そうなんだ…」
「決まったら教えるね」
「うん」
テオドールたんが手を振って部屋を出て行った。
「クリス嬢」
「あ、はい…。あっ、ごめんなさい。すぐ出て行きますね」
「いやいいんだけど、もし良ければ実行委員の庶務が空いてるけどやるかい?」
「考えておきます」
「はは…。そうか」
確かに実行委員会に入ればアーサーの野望も潰せそうだけど、そこまでじゃないし、私もいろいろ抱えてて忙しいからね。
テオドールたんとのデートも無くなったので、今日は帰りましょうかね。




