08 文化祭の出し物について②
早速ソフィアは私に泣きついてきた。
「ねぇどうしよう。安請合いしちゃったかも…」
「まぁそうだろうね」
「私とクリスが最後に幸せなキスをして終わる話ならなんでもいいやって思ったのよ」
「なんで私とキスなのかはまぁ置いといて、簡単に考えすぎじゃない?」
「こんな事になるなら劇なんて言わなきゃよかった。クリスの小言がきっかけだから責任取って!」
そんな無責任な…。
しかし、そういうのを考えるのが楽しいと思うんだけどね。
とりあえず、ここはちゃんとソフィアにやらせないとダメだと思う。
「別に学園の一年がやる演劇よ。難しく考えなくていいと思うの」
「いや…でも…。最初白雪姫でいいかなって思って提案したし…」
毎度の事ながら、ホント浅慮だな。
「例えば、身近で起こった事とか、前世で好きだった作品から少しいただいたら?」
「むぅ…。とりあえずやってみるわ」
丸パクリにならなければ、多少似てるくらいなら大丈夫だと思うのよ。
という事で、うちに帰り、居間のテーブルの前でノートパソコンを開いて、腕を組んで眉間に皺を寄せるソフィア。
何故か私がメイドの格好でお世話している謎。
ちょっと何かあると、「お菓子ちょうだい!」「お茶のおかわり!」「肩揉んで!」「ちょっとポーズとって」「キスして!」と、最後の要求以外は全部やってあげている。
その甲斐あって、なんとか三千字程度のあらすじが出来た。
後はこれをベースに作っていけばいいと思うんだけど、肝心のソフィアは頭から湯気を出して椅子にもたれ掛かっている。今日はもう無理だろう。
ノートパソコンを自分の方へ向けて、ソフィアの書いたあらすじを読む。
ふむふむ……。
─────とある国の公爵令嬢はとても可愛く聡明で誰からも愛される天使のような存在でした。
ところが、この国の第二王太子に見初められ婚約者にされてしまうのでした。
その第二王太子は、マザコンで腹黒で、事ある毎に泣き言を言い、何かと人に責任をなすり付けるクソ野郎でした。当然性格も悪くブサイクで褒められる箇所が一つもない人物でした。
そんな時、無理矢理連れ出されたパーティで令嬢は王太子に嫌がらせを受けてしまいます。
その後も何度もぶたれたり、蹴られたり、物を隠されたり壊されたりしました。
どうしてこんな目に遭うんだろうと思っていた時、一人の可憐な少女が目の前に現れました。
そしてその後なんやかんやあって、その少女と力を合わせて王太子を退治し、国を救ったのでした。
その後、令嬢はその少女と結婚し末長く暮らしましたとさ。めでたしめでたし─────
………アカン。
これはダメでしょう。どう考えても誰かさんへの当て付けじゃない。
しかも後半、『なんやかんやあって』って、肝心な部分が手抜きじゃない。
ソフィアは放心していて暫く動きそうにないわね。
仕方ない。ちょっと手直ししましょうか。
呆然としているソフィアを自室のベッドへ運んで寝かせる。
そして、ノートパソコンをちょっと借りて内容を訂正していく。
─────それはとある魔法王国にある魔法学園でのお話。
主人公である平民のコトネは魔法学園での特待生である。
座学は勿論のこと、実技でも常に一位である。
そんなコトネに対し、いつも勝負を持ちかけては負けている者がいる。
彼女の名前はピスティス。貴族の令嬢で、この魔法学園で第二位の実力者である。
プライドの高い彼女はいつも楽々と課題をこなす彼女に嫉妬している。
そんなある日。
「コトネさん。私と勝負してくださりませんこと?」
「えぇ…またぁ? どうせ私が勝つんだし、やるだけ無駄じゃない?」
「いいえ。そんな事ありませんわ。今日こそは私が勝たせていただきますわ」
いつもこんな感じで何かと突っかかってくるピスティス。
そして、いつも勝負を受け、淡々と勝ってしまうのだ。
しかしこの日は様子が違うようだ。
「うーん。毎回それで勝ってるしなぁ…」
「ですから、今回こそは勝たせていただきます」
「じゃあさぁ、負けたら罰ゲームってどう?」
「うっ…。い…いいですわ。そのくらいなんの問題もありませんわ」
「じゃあ決まりね。ピスティス様はどんな罰ゲームをご所望で?」
「……そう…ですわね。もし。私が勝ちましたら一日私の言う事に従っていただくというのはどうでしょうか?」
「いいね。それでいいよ」
「では、コトネさんが勝ったら何を要求するんです?」
「もし、私が勝ったら恋人になって」
「へぇあ!?」
顔を真っ赤にして狼狽えるピスティス。
「何? そんな顔を真っ赤にして…。もしかしてもう負けた気でいるの?」
「そっ…そそそ…そんな事ありませんわ。ただ、ちょっと驚いただけですの」
「ふーん」
「そ…そもそも恋人って…つまり…そういう事で……」
「嫌なの?」
「い…嫌という訳ではありませんが、なんです? 私がお好きなんですの?」
コトネは顔を近づけてピスティスに告げる。
「そうだよ。私、ピスティス様が憧れの人だもん」
「なっ!?」
結局、そのまま勝負していつも通り勝ってしまうコトネ。
ピスティスは恥ずかしさのあまり、いつも以上に実力が出せなかった。
「こ…こんなはずでは…」
「罰ゲーム。忘れてないよね?」
「も…ももも…勿論ですわ。あなたの恋人ですわよね。いつがよろしいんですの?」
「何か勘違いしてない?」
「へ?」
「私、期限なんて設けてないんだけど」
「ど…どういう事ですの?」
「つまり一生って事」
「なっ!?」
顔を真っ赤にして口をあわあわとさせるピスティス。
「私、憧れって言ったよね」
「え? えぇ…」
コトネは話した。
入学試験の時、平民も貴族も無い。実力が全てであると。
そして、試験の時に庇ってくれたピスティスに恩義と憧れを抱いた事。
そして、罰ゲームと称して本当に恋人になれたらいいという事を。
〈中略〉
コトネとピスティスは、その後魔法だけでなく剣の腕も磨いていった。
その並々ならぬ魔力と実力で、この国で一番の実力者ー魔法剣士ーとなった。
そして、この国に訪れる災厄ー魔王ーを斃すため冒険に出るのだった。
〈中略〉
「起きてくださいまし! こんなところで眠っていいはずありませんわ」
「ごめん…ね?」
「あなた、私の事を好きだと仰ったじゃありませんか! こんなところで私を置いて逝くのですか」
ピスティスを庇い、致命傷を負ったコトネ。
辛うじて魔王へと一矢報い、這々の体で避難してきたのだ。
そして、ピスティスの魔法によって治療をするが、どうしても快復しないのだ。
「どうしてっ! なんでっ!」
「………もう…いいよ……無理…しないで……逃げて……」
「いけませんわ。私はあなたを置いていくなんて出来ません!」
しかし、もう目を開けることはないコトネ。
ポロポロと涙を流すピスティス。
今まで自分に正直になれなかった彼女は、初めて素直になる。
安らかな顔をしているコトネの口唇にキスをした。
そっと、口唇を離すと、清らかな眩しい光がコトネから溢れ出す。
「こ…これは?」
もうダメだと思っていたコトネの瞼が開く。
「わたし……」
「コトネさんっ!」
目を開けたコトネを抱きしめるピスティス。
「ごめんねぇ…。心配かけちゃって…」
「いいんですわ。あなたさえ無事なら私は…」
「はは…。大げさだなぁ…。でもありがと。ピスティスの暖かさは感じてたよ」
「コトネさん……」
「じゃあ、続きは魔王を斃してからだね。恋人をこんなに悲しませちゃダメだもんね」
「そ…そうですわ。私達恋人同士ですもの。私達が力を合わせれば、魔王なんて余裕ですわ」
「ふふ…そうだね。じゃあ、魔王に仕返し…しないとね」
そうして二人は、力を合わせ魔王を斃し、世界に平和を齎したのだった。
その後二人はあの時と同じく騒がしくも平和な日々を送っている─────
「こんなもんかな?」
修正した内容を保存して閉じる。
つい筆が乗って大作を書いてしまった気がするけどまぁいいか。
さーて、今日は私が料理当番だからね。ちゃっちゃと作っちゃいますか。
今日のご飯当番のメイドさんであるプレオさんとマトリカリアさんの三人で一緒に作る。
「みんなーご飯できたよー」
何故かメイドさん達の方が早く集まった。
いつもならソフィアが真っ先に来るのに。
様子を見にソフィアの部屋へ行くと珍しく眠っていた。
頭を使ったから疲れているのだろうか? スヤスヤと眠っているが、ここで起こさないと後々面倒になりそうなので起こすことにした。
「んー…目覚めのキスはぁ?」
寝ぼけているのかそんな事を言う。
「なに寝ぼけてんの。そんなの無いわよ。ご飯食べないならいいけどさ」
「食べる! 食べるわよ!」
パッと目を覚まし勢いよく部屋を出ていくソフィア。ソフィアにはロマンスより食い気だなと思ったのだった。




