05 クリスのメイド服姿が見たいんだそうだ②
そんなこんなあって、私達の部屋へ四人がやってきた。
「ここがクリスの部屋ですか」
「違うわ。私達の部屋よ。そこのとこ間違えないで」
「あ、すみませんわ」「すまない」
意外と細かいところにうるさいのよね。ソフィアって。
まぁ実際四人プラス従者さん達で暮らしてるから、あながち間違いじゃない。
「じゃあクリス着替えてきて」
「えっ! 早速?」
「そうよほら」
ソフィアが背中を押してくる。
先に帰ってきていたマーガレットとカリーナちゃんが困惑していたので、私の部屋で説明をした。
「ふーん。クリスも大変ねぇ」
「私達も着た方がいいですかね?」
「面白そうだから着ましょうか」
意外とノリノリな二人。
着替えようとしたところで、部屋が開けられた。
「!?」
「あ、すまない」
「いえ、まだ着替えてませんので。出来ればノックしていただけると…」
「そうだね。気が利かなくてすまない。ちょっと部屋を間違えたようだ」
間違えるはず無いんだけどな。部屋の前にネームプレートがあるんだから。
そして部屋を出て行こうとしないシェルミー様。
「あの……」
戸惑っていると、ジル様とイヴ様とレオナルド。そしてソフィアも入ってきた。
ソフィアが手を合わせ、片目を閉じて「ごめん」と言っているって事は、抑えきれなかったんだな。
「ここがクリス様の部屋ですかぁ…。いい香りです事」
「いっぱいここの空気を肺に詰めておかないとね」
どこかのバカ信者みたいな気持ち悪い事言わないでほしい。
そんな時、レオナルド何かに気づいて声をあげた。
「おや…これは…」
しまった。テーブルの上にお酒を置いたまんまだった。誰も来るはずがないと油断していたわ。
お母様が来た時は、ビシューさんかロココさんの私物だと思っていたのか、特に注意されなかったから余計に油断していた。
そして、公爵家三人娘もレオナルドに気づいてテーブルの上を見る。
「こんなに沢山のお酒…。しかも量がかなり減っているね」
「これはクリス様がお召しに?」
「あ、それね。それは料理やお菓子に使うやつよ。キッチンに置いておくと間違って飲んじゃう可能性があるからね。危ないからここに置いていたのよ」
心臓バックバクしてるけど、ちゃんと答えられただろう。表情は特にいつも通りだが、内心かなり焦っている。
私、役者に向いてるんじゃないかしら?
「ふーん。このお酒は何に?」
「あ、それはチーズケーキに…」
「こっちのお酒は?」
「それはチョコレートテリーヌに…」
「へぇ…。じゃあこれは?」
「それはケーキに使うフルーツを漬けるのに…」
「そうなんだ。じゃあこれは?」
「オニオンリング作るのに使います…」
「……じゃあこれは?」
「に…煮物に……」
なんか尋問されている気分だ。
適当に選んで尋ねるからちゃんと答えられるか内心不安だったがよくやったわ私!
まぁ、間違った事言ってないものね。
ちなみに、ベイリーズ、ラム酒、キルシュ、ビール、芋焼酎だ。
ちゃんと答えられたはずなのに、どうしてそんな目で見るんですかねソフィアさん? 何か言いたいことがあるならどうぞ? 聞きますよ?
納得したのかレオナルドとシェルミー様は頷き部屋を出て行った。
ジル様とイヴ様はどうしてそんな事を聞くのだろうと、不思議そうな顔をしながら出て行った。
「ソフィアも行かないの?」
「いや、着替えるとこ見ていようかなと」
「ソフィアがここにいたらおかしいでしょう? また来ちゃうじゃない」
「あ、そっか。じゃあ戻るわ」
やっとの事で出て行った。部屋には私とマーガレットとカリーナちゃん。
なぜか二人とも呆然としていた。
「な…なにかな?」
「私が言うのもなんだけど、少し控えた方がいいわよ?」
「そうね。いくら好きとはいっても少しだらしないわよ」
「すいません。気をつけます………」
そして、三人ともメイド服に着替え皆の前へ行く。
今回は我が家のメイド服に身を包んでみました。一番コスプレっぽいからってのが理由だ。
「どうかしら?」
「おや、マーガレット嬢とカリーナ嬢もメイド服を着てくれたのかい。とても可愛くて似合っているよ」
「あ…ありがと」
「どうも……」
二人とも顔を真っ赤にして照れている。
シェルミー様は本当に女たらしですね。
「しかし、それにしてもクリス嬢…。君は天使だったのかい?」
「へ?」
「本当ですわ。今すぐにうちへお持ち帰りしたいくらいですわ」
「ちょっと待ってください。クリスは私のですよ。持ち帰るなら私の役目です」
「聞き捨てならないわね。クリスは私と暮らしてるのよ。私の許可が必要でしょう? はい却下!」
みんな思い思いに感激してくれるのは嬉しいんだけど、いつまで続くんだろうね?
イヴ様なんて口元を両手で押さえて涙してるし…。
「しかし、本当にクリス嬢はかわいいな」
「えぇ…。可愛すぎますわ! 最上級にかわいいですわ」
「クリスは可愛いだけじゃなくて優秀なのよ」
「今はかわいいって事だけでいいじゃないか」
「そうよ。可愛いだけじゃダメなのかしら?」
「可愛かったらいけないのかい?」
「クリス嬢の一番可愛いところを挙げていこうか」
そんな可愛い可愛いって当然の事を連呼しないでほしいな。可愛くってごめんね?
でもよく見なさいな。マーガレットもカリーナちゃんも可愛いでしょうに。
一回この三人でアイドルグループでも作って踊ろうかしら? あ、でも私歌下手なんだよなぁ…。
そんな事を考えていたら、シェルミー様が納得いかなかったのか、ソフィアに改めて問いかける。
「ねぇ、本当にメイドカフェにしなくていいのかい?」
「うっ…。でもダメよ決まったじゃないの」
「そうだけど…」
その時、袖をツンツンと引っ張られた。
「ねぇ何の話?」
「あぁ、文化祭の催しなんにするって話で、劇に決まったのよ。まだ何の劇にするかは決まってないけどね」
「えぇ…ずるい! 私もソフィアお姉様と演劇してフィナーレでキスしたい!」
「「「「「「!?」」」」」」
マーガレットが余計な事を言うからみんな反応しちゃったじゃない…。
カリーナちゃんも俯いて顔を真っ赤にしている。何で?
「そ…ソフィア嬢? その…劇というのは必ずキスをするものなのかい?」
「そういうものもあるってだけよ。別にキスするなんて決まってないわよ」
平然と言っているが、内心穏やかじゃないんだろうなぁ…。
「そ…そうだよねぇ…。いやぁ早とちりしてしまいました。ははは…」
「全くですわ。まだ、何の劇をするのか、内容も決まっていませんもの」
「でも可能性はあるわね」
収集がつかなくなりそうなので、別の話題に切り替えないと…。
「あ、あの…」
「クリス様どうかなされましたか?」
「お…お腹減ってませんか? 何か食べていきますか?」
「え、いいのかい?」
「えぇ。折角こんな格好してますし、マーガレットとカリーナちゃんも料理の腕は確かですよ」
「じゃあ、お言葉に甘えてもいいだろうか?」
「えぇ。では私達は料理してきますので、これで失礼しますね」
そう言って、変な話題を強制終了してキッチンに逃げてきた。
「ふぅー……」
「なんかA組って変わった人多いよね」
「そんな事無いですよ。上澄みのおかしい人達はあの人達だけです」
カリーナちゃんどうしたの? 毒舌が凄いけど…。
「まぁ悔しいけどクリスがかわいいのは認めるけど、カリーナも可愛いわよね」
「あ…ありがとうございますぅ……。でも、マーガレット様もお可愛いですよ?」
「はは…ありがと。じゃあ、私達が可愛いだけじゃないって見せてあげましょうか?」
「そうね。胃袋も掴んでやりましょうか」
「クリスってたまに天然な所あるわよね?」
「?」
「いや、分かってないならいいわ」
マーガレットはたまに変な事言うね。
「まぁいいや。とりあえずどうする?」
「ふっ…それぞれ得意料理を作ればいいのよ」
「なるほどね。じゃあそれでいきましょうか」
「えぇ」
そうして三人で料理を始めたのだが、二人ともいつも以上に気合が入ってる気がするのは気のせいなんだろうか?




