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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第6章

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72 番外編30 平穏な日常


 「クリスきゅんが私の所尋ねてくれるなんて、今日はなんていい日なのかしら」

 「そうなるように仕組んだ人が何言ってるんですか」

 「あら、何の事かしら?」

 「とぼけても無駄ですよ。最初はただ早めの痴呆が始まったんだと思ってましたが、どうやらワザと言っていたようだったので」

 「ねぇ、私へ態度酷すぎると思うのだけど」

 「自分の胸に手を当てて見れば自ずと答えは出るのでは?」

 胸に手を当て目を閉じるアンさん。

 「スー…。香水変えた?」

 「きゅしょ…そういう所ですよ。あと香水はつけてません」

 「という事は、これがクリスきゅんの自然の、フレーバー…」

 「すいません。帰ります」

 目を開け慌てふためくアンさん。

 「わー、ごめんて。ちょっとした小粋なジョークじゃないのよ」

 「後でセクハラされたって学長に、言います」

 「すいません。控えますのでどうか私から子供と触れ合う機会を奪わないでください」

 「……………」

 この人は絶対に教師とか子供と接する仕事をやらせちゃいけないと思うの。

 「コホン…。お詫びに希少なコーヒー豆手に入ったから、それでなんとか」

 「はぁ…まぁ、いいでしょう」

 悔しいけど、この人コーヒーの淹れ方だけは上手なのよね。まぁ、基本に忠実なんだろうけど。

 そして、私の前にコーヒーが置かれたので一口飲む。

 あー確かに。これは高い豆だわ。強いて言うならパナマゲイシャみたいな味。

 「それで、今日はどんな事を聞きたいのかしら?」

 「何で末っ子なんて嘘ついたんです?」

 「あらぁ! 覚えてたのぉ? わぁ嬉しいわぁ」

 「そういうのいいから」

 「つれないわねぇ…。まぁなんて言うかフィーリング?」

 「本当は?」

 「違和感を覚えて、また来てもらうため…あ…」

 「次回からは違和感覚えたらクライブさんの所行きますね」

 「わぁ、ごめんて。もうしないから」

 この人は絶対に繰り返すと思う。

 そんなアンさんは、勝手に気持ちを切り替えて話題を変えた

 「クリスきゅんが来てくれたから丁度良かったわ。相談なんだけど」

 「別に聞くなんて言ってませんが?」

 「まぁまぁ。私じゃなくて、うちの妹のクリの事なんだけど」

 「クリちゃんがどうかしましたか?」

 クリちゃんの話なら聞かない訳にはいかない。

 私に対してツンツンしてるけど仲間だからね。

 「レオナルド殿下達救出の時にウィリアム君いたじゃない?」

 「いましたね。もしかしてリアムがなんか失礼な事言ったりしたんですか?」

 「んーん。違うのよ。何かー惚れちゃったみたい」

 「え?」

 え、なになに? もしかしてクリちゃんの恋バナ? じゃーあ聞きましょうじゃないのー。

 アンさんも察したのかは知らないが、お茶請けを出してくれた。……まさかの甘納豆。よくあったね……。

 「何かあの後、よくボーっとしてるから、どうしたの? って聞いたの。まぁ、あの子の性格上言う訳ないんだけどね。だから、言うまでベランダで逆さ吊りにしたのよ」

 この人意外と容赦ないんだな。

 「まぁ、五分位で観念したんだけどね」

 クリちゃんも忍耐力ないなぁ。そんなんでこれからやっていけるのかな?

 「それでまぁ話を聞いたら、なんかウィリアム君の事をかっこよくて好きになっちゃったんだって」

 「へぇ。じゃあ協力しない訳にはいきませんね」

 「なんだかんだでクリスきゅん話早いから助かるわ」


 という事で、早速クリちゃんを拉致…もとい連れてきた訳だけど。

 「あの、説明して欲しいんだけど」

 一緒にカスタさんも付いてきた。大丈夫かなぁ。カスタさんクリちゃんの事好きだからなぁ。邪魔したりしないだろうか?

 そう思ってる間にアンさんがカスタさんに説明していた。

 「あらぁ。じゃあ応援しなきゃだね。クリちゃんの性格じゃ一生恋人なんて出来ないと思っていたんだもの」

 「そんな性格悪くないし…。悪くないよね?」

 私を含め誰も肯定しない。

 「え、嘘。僕そんな風に思われてたの?」

 泣きそうな顔をするクリちゃん。なんだろう嗜虐心をくすぐる表情するなぁ。

 現にアンさんとカスタさんはクリちゃんの表情を見てうっとりしている。悪趣味ー。


 「じゃあまずは、彼と同じ行動をするのがいいと思うんだけど、クリスきゅん彼どうなの?」

 「そうですね。朝四時五時くらいに私と剣の訓練してますね」

 「クリちゃん朝弱いから無理そうね」

 「そもそも、剣どころが木の棒さえ満足に持てないからダメかもね」

 俯いて黙るクリちゃん。

 クリちゃん男装してるけど、ボーイッシュな女の子にしか見えないし、華奢なのよねぇ。

 あの時も戦闘じゃなくて救助にまわってたくらいだし。

 「じゃあ他に何かないのかしら?」

 「そういえば前、放課後に調理室にいたのを見た気が…」

 「そういえば、リアム調理部に入ったって言ってたっけ」

 「クリちゃん料理出来そう?」

 ブンブンと首を振るクリちゃん。もう何なら出来るのさ。

 「これもうウィリアム君に養ってもらうしかないんじゃないかな?」

 それはそれで、と満更じゃない顔をするクリちゃん。ちょっと他力本願過ぎないかしら?

 「でも折角だし、調理部入ったら? ワンチャン手取り足取り教えてもらえるかも」

 「おぉ!」

 「なるほど。それはあるかもね」

 「じゃあ入部届書いて行ってみましょうか」


 放課後、特別棟一階にある第一調理室。

 調理室自体五つもあるなんてちょっと異常よね。

 でも、第一が調理部。第二が製菓部。第三が創作料理研究会。第四が郷土料理研究会。第五がカレー部となっている。そんなに細分化する必要あるのかしら?

 チラっとカレー部のある第五調理室を見ると、黒板の上に私とロザリーの小さい写真が二つ額縁に入って飾ったある。

 どこぞの共産主義国の学校みたいな感じで嫌だな。

 まぁ、今はそんな事はおいといて。

 えっと…調べたところ、ウィリアムは調理部と製菓部を兼部しているそうだ。一体何を目指しているんだろうね?

 そして、各部活の女子から大人気なんだそうだ。

 ちなみに創作料理研究会と郷土料理研究会からもオファーがあって、尚且つ畑作部とフィッシング同好会からも誘われている事が分かった。

 凄い人気ね…。まぁ、彼イケメンだしなんだかんだで細かい所に気づいたり気配りできるからね。


 「じゃあ頑張って」

 「え…、僕一人で行くの!?」

 「そりゃそうでしょうよ」

 「変にみんなでゾロゾロ行ったらおかしいでしょ?」

 「えー…ね、ねぇカスタ。カスタは来てくれるよね?」

 小動物みたいな目でカスタを見ると、「うっ」という呻きをもらしてそっぽを向く。

 「じ…じゃあクリス。料理得意だろ?」

 「まぁそうなんだけど」

 そんな目で見られたら断れないじゃない。

 「入部届まだ二つあるから、試しに入ったらいいのに」

 この人は人事だと思って。

 そんな事を言い合ったいたら、調理室のドアがガラリと開けられた。

 「どうかしましたか?」

 「あ、いや…その…」

 「三人体験入部出来るかしら?」

 「「「!?!?」」」


 「はーい皆さーん。今日は体験希望の方が来ましたので、よろしくねー」

 どうしてこんな事に。

 「こいつ俺の料理の師匠なんだ。ホント凄くて」

 「ウィリアム君師匠相手にこいつはなくない?」

 ごもっともでございます。もっと言ってやってください。

 しかし調理部って意外と女子多いんだな。まぁ、中身は男かもしれないけど。そんな中にいてどうしてこの口の悪さは治らなかったんだろう。

 そして、クリちゃんとウィリアムを仲良くさせるはずが、ウィリアムは私の真横をキープしている。ダメじゃん。

 「わ、私は他の人の所で教わるわ」

 「クリスは教える側だろう」

 「なら尚の事違う班に行くべきね」

 「あっ…」

 無理矢理別の班へ移動する。クリちゃんにウインクで合図するが、真っ赤な顔で俯いて気づいてない。

 代わりにカスタさんが、軽く手を振って応えてくれた。まぁ何とかなるでしょ。

 「ところであなたはいつまでいるんですか?」

 「私の扱いが酷い」

 「だって本当に邪魔ですし。何もしないならあそこで座っててください」

 そうしてアンさんは部屋の隅で態とらしくシクシク泣き真似をしていた。

 「あの…先生にそんな事言っていいんですか?」

 同じ班の女の子がおずおずと聞いてきた。

 「あの先生だけは大丈夫。気にしないで。そんな事より、ちゃちゃっと作っちゃいましょ。今日は何を作るの?」

 「ハンバーグという料理ですわ」

 ハンバーグ。うちの領発信の料理だ。

 この世界の牛肉って、前世のサシの入ったのとかと違って、筋が固くて食べづらいのよね。アメリカで出てくるでっかいステーキみたいな感じで、おっきい男の人くらいしか食べなかったのよね。

 だから、子供とかお年寄りとかが食べやすいようにミンチにして焼いて出したら、瞬く間に広まったのよね。

 まぁ、肉自体の味がいいってのもあるんだけどさ。

 ちなみに当初、ハンバーグを出したら、女子供しか食べない軟弱な食べ物とか言われてたけど、それを言ってた人達も今では満面の笑顔で食べているからね。最初から否定しなければいいと思うの。

 ハンバーグの上に目玉焼きが乗ってるのが彼らの一番人気のメニューだ。

 しかし、そんな牛肉は目の前で既にミンチになってトレーに入ってる。便利な世の中になったもんだわ。

 「じゃあまずは玉ねぎをみじん切りにしていきましょうか」

 「それ涙出るんで嫌なんですよね」「私もー」「いっつも目が痛くなるんです」

 「それは押し潰しているからね」

 「え?」

 「玉ねぎには硫化アリルって成分があって、切る時に繊維を潰すとそれが出ちゃうのよ」

 「へぇー」

 「だからこうやって縦と横にスッと切れ目を入れて引くように切るといいわ」

 「へぇ。手際いいのね」

 「まぁいつもやってるんで」

 そういえばクリちゃんは上手くやってるのかしら?

 チラと見ると、ウィリアムがクリちゃんに手取り足取り丁寧に教えていた。

 「いいか、猫の手だぞ」

 「猫?」

 「こうやってグーにするんだよ。そうしないと切っちゃうからな」

 「へぇ…猫の手…猫ちゃん…」

 満更でもない様子だ。

 そして、ゆっくりと玉ねぎに包丁を入れていく。

 「うぁ…なんか目が痛いんだけど」

 「あーあー、そんな押しつぶすんじゃなくて、引くように切らないと…」

 「えぇ? こう?」

 「そうそう。うまいじゃん」

 「そ、そうかな」

 「最初にしては筋がいいぞ」

 「おっきくない?」

 「炒めたら小さくなるから気にするな」

 初々しい新婚さんみたいだ。横の班に移ったカスタさんもその様子を見て、私にニッコリとVサインしている。

 「この後どうするの?」

 「えぁ? あ、私か」

 いけないいけない。クリちゃんばっかり見ていたら、こっちがお留守になっていたわ。

 「じゃあ飴色になるまで炒めるんだけど…」

 少量の、油に玉ねぎとひとつまみの塩を入れて炒めていく。軽く混ぜて蓋をして軽く蒸すと全体に火が通りやすいのよね。

 後は、水分が飛んで焦げやすくなったら、大さじ1〜2の水を足しながらやると、綺麗に飴色玉ねぎになるのよね。

 まぁたまにめんどくさくってただ繊維を断つように切って、飴色になったらヘラで細かくしながら炒めちゃうだけどね。

 そんな事を説明しながら実演した。

 「凄い。いつも焦がしちゃうのよ」

 「まぁ、焦がしても大丈夫よ。あとはこれを冷まして…」

 向こうはどんな感じだろうかと見る。

 「わ、わ。ねぇフライパンに張り付いちゃったんだけど」

 「火が強すぎるんだよ」

 「どうしよう焦げちゃった」

 「焦げないとこの色にならないから気にすんな」

 なんだろう。ヤキモチ妬きそうなくらいイチャイチャしてるなと思う。

 そしたらヌッと真横に現れるアンさん。

 「あら妬いてるの?」

 「アン先生どうしたんですかいきなり? 焼いて欲しいんですか?」

 「ごめん。なんでもないわ」

 「そうですか。邪魔なんでどいてもらってもいいですか?」

 「ねぇ、ホントに私の扱い酷くない?」


 さて、玉ねぎも冷めたので、あとはこねて焼くだけなんだよね。個人的には卵入れない方が好きなんだけど、一応基本って事で。

 お店だと両面焼いてオーブンで焼いて出すけど、フライパンしか使えないからね。

 焦げ目をつけて蓋をして暫く蒸し焼きする。

 さて、焼けたわね。なんか殆ど私がやっちゃった気がする。

 「凄い。勉強になります」「なるほど。これなら中まで火が通りますね」「私達何もやってない」

 まぁ、次回挑戦してみてよ。

 さて、クリちゃんとウィリアムはどうなったかな?

 「や…焼けた。焼けたぞ」

 「おう。美味そうだな。最初しては上出来だ」

 「あ…ありがと」

 「いいって事よ」

 なんか口から砂糖吐きそうなくらい甘々空間ができてる。

 カスタさんも影響を受けたのか、恍惚の表情で天に召されそうだ。

 まあ、ウィリアムも叶わない年上の恋なんて追いかけてないで、青春したらいいのよ。


           *      


 「それでその後どうしたのぉ?」

 あの日の事をカフェでエリーと話している。

 「いい感じよ。ただなんて言うか兄と妹って感じが抜けないのよね」

 「うふふ。ウィリアムちゃん、面倒見いいものね」

 「そうなのよ。クリちゃんの気持ちが届くといいんだけどね」

 「ところでクリスちゃんは部活入らないの?」

 「強制加入させられたわ。講師として」

 「あらぁ。大変ね」

 「毎週月曜日が製菓部。水曜日が調理部。その話をソフィアにしたら入るって聞かなくてね」

 「別にいいんじやないの?」

 「毎回調理室爆破されたら困るじゃない」

 「そういえば、そんな事あったわね」

 「ところでぇ…」

 エリーが両手で顔を支えてニコニコする。

 「クリスちゃんはウィリアムちゃんに何にも思わないのぉ?」

 「そうね。料理上達したなとは思うわ」

 「うーん。そういう事じゃないんだけどなぁ」


 コーヒーカップに口をつけながら、あの日の事を思い出す。

 あの日片付けの後調理室を出た時、ウィリアムが私を追いかけてきたのよね。

 「クリス!」

 「あらウィリアムどうしたの?」

 「クリスも一緒にやらないか?」

 「いやぁ、ごめん…。忙しいし」

 「一日だけでもいい。俺の上達したとこ見て欲しいんだ」

 真剣な顔で言うウィリアム。クリちゃんの事を考えると複雑だわ。

 「やめとくわ」

 そう言って去ろうとしたら、腕を掴まれて振り向きざま抱きしめられた。

 「ちょ」

 「あ、すまん。でもお前に見ていてもらいたいんだ」

 向き直って真剣な顔でそういうもんだから、私も拒否できない。

 「はぁ…仕方ないわね。一日だけよ。私も忙しいいんだからね?」

 「あぁ。ありがとう」

 夕陽に照らされたウィリアムの顔は物凄くカッコよく見えた。

 そういう顔や言葉を、クリちゃんに向けたらいいのにと思った。

 そして、この状況を、クリちゃんに見られなくてよかったと安堵したのだった。


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