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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第6章

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71 番外編29 怪しい会合


 私の名前はアンジェ。アンジェ・ロワール。アンバーレイク伯爵家のメイド長をしており、夫は執事のラアキと双子の娘のメタモとアリスがいる。

 かつては王妃様の護衛騎士団の副隊長をしていた。勿論隊長はレイチェル様だ。

 色々あって今は王立アルマース学園で教師をやっている。

 先日この学園で失踪事件や誘拐事件が発生し、クリス様達と解決をしたのだが、以前の私では考えられないような失敗をし続けていた。

 本来であれば事件が起こる前に対処していたのだが、何分教師の仕事に慣れていなかった事と、敵からの妨害によって本来の力を発揮する事が出来なかったのだ。

 その後、一緒に教師の仕事に就いた仲間達といろいろ反省会をしたのだが、そこでふと自分自身を省みた時、ある事に気付いた。

 私の敬愛するクリス様のタイプが私であると。

 元々騎士をしていた為かくっきりと。でもきつく鋭い目。そしていつも整えているシニヨンの髪型。そしてメガネ……。

 レイチェル様の手前。そして娘達の為に感情を押し隠してきたのだが、こうして屋敷を離れ考える時間が増えるとクリス様の事を考える時間が多いなと感じた。

 いやいやいや…。私は既婚者で子持ち。そんなおばさんを好きになるわけが……。

 でも、あのウィリアム様と一緒でどちらかというと年上好きのクリス様。もしかしたらワンチャンあるのではないか。そう思っていた。

 そう…。そう思っていたのだが、どうして私はこんな所にいるのだろうか。


 「皆さん、本日はクリス様ファンクラブへお集まりいただきありがとうございます。(ワタクシ)、共同代表のジルと申します」

 四大公爵家、ガーネットクロウ公爵家のジル様がそう言うと、会場からは割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 会場というか、体育館を貸し切っているのだが、そこが埋まるほどの人物が集まっている。皆お行儀よく整列された椅子に座っている。

 生徒は勿論、教師に用務員の方々。そして生徒達の従者の方々も集まっている。

 学園の中だけに留まらなければもっといるだろうことは想像に難くない。

 現に私の横には最近うちのメイドに転職したプロフィアやクオンがいる。


 「共同代表のシェルミーです。今日はまず感謝を…。いっぱいあった派閥がこうして一つになれた事を嬉しく思うよ。これからは身分や立場、年齢などの垣根を超えて一緒にクリス嬢を愛でていけたら嬉しく思うよ」

 二つ目の四大公爵家、ストーンローゼス公爵家のシェルミー様が、キラキラしたものを振りまきながら発言すると、またぞろ割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 先ほどより大きく聞こえるのは、彼女の人気もあるのだろう。

 だが、ここでは無意味だとアンジェは思う。

 入学式の後から段々と作られていったクリス様ファンクラブだが、いろいろな派閥があった。時折衝突したり、教師が仲介するなどの騒ぎを起こすこともあった。

 それが、こうして平和的に一つの組織に生まれ変わったと言うことは歴史的快挙なのではないかと考える。

 自分も歴史の中にいるのだと思うと身震いした。

 それは自分だけではなかったようで、同じように身震いしたり、歓喜したり、泣いたり様々だ。

 横にいるプロフィアは涙し、クオンは腕組みしうんうんと頷いている。

 そしてもう一人壇上にいる人物が表情を何とか押し殺しながらマイクの前へ立った。


 「きょ…共同代表のイヴです。本日生まれ変わったクリス様ファンクラブ。これからも盛り上げていきましょう。私達は家族であり仲間であり兄妹であり、同じ心を持つ同胞です。私達が敬愛するクリス様は一人しかおりません。だからといってその気持ちを押し殺すことはして欲しくないのです。皆さんの中で誰かがクリス様と結ばれても私達は祝福します。そして、皆さんも祝福してあげてください。皆クリス様を想うライバルですが、足を引っ張ることなく、クリス様の心を射止められるよう心より応援いたします」

 三つ目の四大公爵家、ピンクサファイア公爵家のイヴ様が身振り手振りを交えて話すと、聞き入っていた聴衆は一斉に立ち上がり拍手した。

 なるほどとアンジェは思う。神のように崇めるだけでなく、いつか隣にいられるよう互いに切磋琢磨していこうという事なのだと。

 ……つまり自分にもチャンスがあると……。そうアンジェは表情を変える事なく思った。

 「ありがとう…。ありがとう…。これからもみんなで愛でながら頑張っていこう!」

 それに応えるように皆が一斉に歓声を上げた。

 「では、ここで私達ファンクラブの役員を紹介しよう」

 シェルミー様がなれた感じでマイクを持って手で指し示しながら紹介していった。

 「まず、書記のトミー嬢、会計のカイラ嬢、庶務のリンダ嬢だ」

 あの時事件に加担した生徒も入っている。いつからクリス様をそんなに慕っていたのだろうかと訝しく思うアンジェ。

 「そして、顧問のレベッカ先生、アンジェ先生、プロフィア先生、クオン先生」

 紹介されたので、椅子を立ち恭しく頭を下げる。

 まさか私が顧問になるだなんて思いもしなかった。

 「最後に外部顧問のアーサーだ」

 「アーサーでぇす!」

 最後に紹介されたのはクリス様に破廉恥な行為をし続けている不届き者だ。

 一体なぜこんな人物が? と思ったが、何か理由があるのだろう。

 少し様子を見て、ダメなら粛清すればいい。そうアンジェは判断した。


 「皆さん。初めましての方も多いと思いますが、私、クリス教助祭補佐代理心得をしております」

 なんだかよく分からない役職を言われシーンとなる会場。

 抑揚のない言い方をするから余計にそうなるのだろう。

 「まぁそちらは副業みたいなものなんですが、(ワタクシ)、この度アンダーライクトイズから独立いたしまして、新たに設立した琥珀堂の代表責任者になりました」

 尚もポカーンと事の成り行きを見守る会員達。

 ちなみにアンダーライクトイズとは、アンバーレイクファクトリーのエロ雑貨部門の事で、流石にアンバーレイクの名前を使えないとの事で、微妙に名前を変えて設立した会社だ。ちなみに製品の殆どは直販サイト及び『青の洞窟』にて販売中だ。

 事の成り行きを見守っていた皆の前で、何名かの人物が布が掛けられた台車を押してきた。

 その一つをジル様が布を引っぺがしたと同時に皆一様に騒ついた。

 「まず、ファンクラブ入会特典といたしましてこちらクリス様フィギュア(ファンクラブ限定制服バージョン)1/6サイズをプレゼントいたしますわ」

 「ろ…1/6!」「1/8じゃなくて?」「でもクリス様ちっちゃいからあのサイズは納得かも」「なんて大盤振る舞い」「あそこのフィギュアであのサイズって値段やばくない?」「それをタダで!?」「ここからでも見えるあの神々しさ…」

 やはり動揺を隠せないようだ。

 その中で一人手を挙げるものがいた。

 「あら、どうしたの?」

 「発言宜しいでしょうか?」

 「どうぞ」

 「そ…そのスカートの中身はどっちなんでしょうか…」

 その生徒の発言にさらに騒めく会場。

 確かにそうだ。既に男だとバレているクリス様だが、一部ではまだ知られていない。

 そして、派閥ができた原因が『クリス様は男だ派』『クリス様は女だ派』『クリス様はふたな◯に決まっているだろう派』の三会派に別れていた。そしてそこから多種多様な性癖を織り込んで複数のファンクラブが存在していたのだ。

 それをそんな発言をしてしまえば、また決壊してしまう恐れがある。一体どういう回答をするのだろうか?


 「皆さんが不安になるのはごもっともです。皆さんの心の中にはそれぞれ理想のクリス様がおられると思います。私もそうです。私の理想と皆さんの理想は違います。ですが、現実のクリス様は皆さんの期待に応えてくれるでしょう」

 そういって取り出したのは型のようなものだ。

 「こちらクリス様の『男』と『女』の型でございます」

 悲鳴にも似た絶叫が会場を支配する。

 「つまり、皆さんそれぞれが思うクリス様はおられるのです。ですので3パターン用意いたしました」

 そうして残りの布を取ると、3パターンのフィギュアが現れた。

 「ちゃんと包まれているもの、膨らんでいるもの、はみ出しているもの、それぞれお好きなものを進呈致します」

 その言葉を言い終えると同時に会場が揺れるレベルの歓声が鳴り響いた。

 「あ、あのアーサー殿?」

 「? どうかしましたかな?」

 「そ、その型って本物なんですか?」

 「えぇ。そうですよ。私の鼻の骨とアバラ二本の代償はありましたが…」

 「ほ…本物……」

 「こちらは青の洞窟のブラックダイアモンド会員限定商品となっていますよ。勿論値も張りますし、極秘中の極秘商品です。まだ一個も売れていませんので、クリス様にもバレていません」

 「そんなしゅごいものが……」「欲しい…」「お…大きい…」「なんて清廉で神々しいのかしら」「こんなの入るのかしら?」

 「クリス様には処分したと言いましたが、大量に複製させていただきました。もったいないですからね。勿論フィギュアの造形にもフィードバックしておりますので、ほぼ同じ形です。惜しむらくは匂いを再現出来ない事ですね」

 歓声の中、ひそひそと幹部達だけで話し合っていた。

 そんな中でイブが何かを思い出してマイクに近づいた。

 「皆さん忘れていました……すいません、お静かに……お静かに!」

 やっとの事で静まる会場。

 「言い忘れていた事がありました。こちらの聖典ですが」

 聖典と呼ばれた薄っぺらい本を掲げると少し騒ついた。

 「購入する権利、青の洞窟の招待券を皆さんに進呈致します」

 一瞬何の事か分からなかったが、次第に事の重大さに歓声が轟いた。そして、体育館の窓ガラスが何枚か弾け飛んだ。

 「ただし! この招待券は会員限定ですので、他の方への招待や譲渡は出来ませんので! 悪しからずっ!」

 そして、暫く鳴り止まない歓声が落ち着いた頃にこの日の会合は終わったのだった。

 退出する際に、幹部より皆に会員の証であるバッジと水色のスカーフとフィギュア引換券と誓約書が配られたのだった。


 一般の会員達が去った後、一つ疑問に思った事を訪ねた。

 「あの、ソフィア様やレオナルド殿下、うちの駄メイドメアリーにはこの事伝えなくて宜しいのでしょうか?」

 「あぁその件ですの? 勿論極秘ですわ」

 「バレたら大変な事になるのでは?」

 「その事なんですが、次回の議題にしようと思っていた事があるんですの」

 「次の議題…」

 「そう。クリス嬢って別にレオナルド殿下の事大して好きじゃないでしょ」

 「!」

 「それに、クリス嬢は婚約破棄されたがっている。つまり僕達でそれを叶えられるようサポートするべきだと思うんだ。どうだろう」

 アンジェ含めオパールレイン家のメイド達は複雑な心境だ。

 願っても無い事だが、果たして本当にそれでいいのか。本人の気持ちを聞かずに突っ走っていいものなのか判断できかねるからだ。

 「あと、ソフィア様とメアリーさんは私達の最大の障壁。つまりライバル。一緒に活動したら絶対に負ける」

 「あぁ…そうですね」

 妙に納得してしまい、素の返答をしてしまう。

 「まぁ、私達クリス様ファンクラブはクリス様の事を第一に考える集まりだから、クリス様の意向に沿わない事はしないつもりよ」

 「私たちがあなた達を顧問としたのは近くにいるから。情報収拾がいちばんの目的なのよ」

 「それは…まぁ得意分野なので別に構いませんが」

 「だからなるべくクリス様の事を事細かに教えて欲しいんだ」

 そう言って一斉に頭を下げる。

 「分かりました。ではまずクリス様の趣味からお伝えしていきましょう」

 そうしてアンジェは自分の知っているクリスの情報を伝えた。

 「待って。その情報を元に考えると、どう考えてもアンジェさんしか勝たんと思うのだけど」

 「私もそう思いますわ」

 「僕もそう思うよ」

 「私も」

 「あーしも」

 「まぁそうですね。一時期うちにいる全員が私と同じ格好をしましたからね」

 その発言を聞いた全員が一斉に顔を上げて慌て出す。

 「ちょ、ちょっと用事を思い出したので失礼いたしますわ。おほほほほほ…」

 「おっと、僕も用事があったのを失念していたよ。これで失礼するよ」

 「私も急に用事が出来たので帰るわ」

 「私もちょっと用事を」

 「私も用事を思いついたので……」

 「えーっと、私も何かあったと思いますので……」

 そう言って残ったみんなは足早に会場を去っていってしまった。

 「アンジェさん私その情報初耳なんですが」

 「あーしも知らなかったし」

 「まぁ昔の事ですからね」

 「なるほど。クリス様の趣味はそういう髪型……と。失礼、この髪の長さで出来ますかね?」

 アーサーが自分の長髪をいじりながら尋ねる。

 「全然足らないわね」

 「くっ…。女神様に褒めてもらうチャンスが」

 アーサーが褒められる事は万に一つも無いだろうとアンジェ達は思ったのだった。


 その後、シニヨンの髪型をする学生や先生が増えたのは言うまでもない。


           *      


 「ディンゴ、ちょっと失礼しますよ」

 「レオナルド殿下、何か御用でしょうか?」

 「うん。ちょっとね…おや?」

 チェストの上のガラスケースに入ったものに気づくレオナルド。

 「これは…新商品ですね」

 「そ…そそそ…そうですねー」

 「私、これ販売されているの見た事無いんですが、どこでこれを?」

 「えーっと…」

 クリスファンクラブの会員規則で、存在を打ち明けられない人物の中にレオナルドがいる。

 一体どう誤魔化したものかと考えるディンゴ。

 「も…もしよろしければいりますか?」

 断腸の思いでそう決断したディンゴ。

 「え、いいんですか? ありがとうございます」

 躊躇いもなくガラスケース毎持って部屋を出ていくレオナルド。

 用事とは一体何だったのか…。もしかして、これがある事を知ってたのだろうか?

 何はともあれ、ファンクラブの存在を隠し通す事は出来たが、代償が大きすぎた。

 「これ、補填して貰えないかしら?」

 ガッカリ肩を落とし気落ちしたディンゴは、誰にともなく呟いたのだった。


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