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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第6章

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66 事後処理


           *      


 「おや、失敗してしまいましたか…」

 丁寧な口調で男は駅舎を見上げながら呟いた。

 「まぁ、失敗してしまったものは仕方ありません。また計画すればいいだけですからね」

 そう言って振り返ることなく駅を後にする男。

 「もし、そこの御仁、財布を落とされましたよ?」

 「おや、それは失敬…」

 振り返りざま、忍ばせていたナイフで切りつけようと振り返るが誰もいない。

 「危ないなぁ…。本当に拾った親切な方だったらどうするんです?」

 自分の背後から聞こえた声に驚き、すかさず振り返りナイフを振るが誰もいない。

 手に違和感を感じチラッと手元を見ると、自分が持っていたはずのナイフが無いことに気が付いた。

 「こんなおもちゃを振り回されてはおちおち話も出来ないじゃないですか」

 「話をする気は無いんですがね…」

 暗闇の中から青髪の男が自分と同じような顔をして現れた。

 自分から奪ったはずのナイフをつまらなそうに持っている。

 「私の娘達が頑張ってくれたのに、私がヘマをしたら妻に怒られてしまいますからね」

 「御宅の家庭事情に興味はございませんよ。私は用があるので失礼しますよ」

 「まぁ待ってください」

 こいつはやばいと感じ、急ぎこの場を離れようとするが、足が縺れてその場にコケてしまう。

 なぜと思い足元を見るとありえない角度に曲がっていた。

 「まぁまぁそんな急がなくてもいいじゃないですか。あなたには聞きたいことが沢山あるんです」

 「いや…待ってくれ…」

 さっきからずっと頭の中で「逃げろ」と自分の声が響き渡っているが、逃げたくても逃げられない。

 「お仲間もあなたの到着を待っていますよ」

 そういえば、いつの間にかいなくなっていたなと思い出す。ビジネスライクな関係だ。この仕事の為だけに集まったようなものだ。

 もしかしたら誰かが裏切ってチクったのだろうかと勘ぐる。

 「皆さん途中から黙って動かなくなってしまいましてね。あなたなら私の望む答えを言ってくれるんじゃないかと思いましてね」

 淡々と言う男に、恐れ慄く。こいつは冗談や酔狂で言っているんじゃないと。息をするように当然の事を言っているに過ぎないのだと気づく。

 「わ…分かった。言う。何でも言う。知っていること全部話す。だから……」

 「皆さん最初はそう言うんですがね、どうも私の意図をご理解いただけないようで…。まぁいいでしょう。部屋を用意してますので続きはそちらでお話ししましょう。まだまだ夜は長いですからね」

 気がつくと両脇を二人の男に抱えられ鉄錆臭い馬車へ放り込まれた。

 手を伸ばそうとしたところで自分の腕が折れていることに今更気づいたのだった。

 どうしてこんな事に手を出してしまったのかと自分を責めるが誰も答えてはくれなかった。


           *      


 「こんばんわ」

 自分以外居ないはずの寝室に女性の声が聞こえた。

 今晩は少し飲み過ぎただろうかと思い、軽く首を傾げ振り返ると金髪の女性が立っていた。

 「うわっ!」

 「そんな驚かれなくてもよろしいのではなくて?」

 警備の厳重な我が家で音もなく自分の寝室に入り込めるものがいるなど夢にも思わなかった。

 「な…なんだね君は?」

 「名乗るほどの者じゃございませんよ。まぁそうですわねスレイヤーとでも名乗っておきましょうか」

 妖艶な仕草でスレイヤーと名乗る女。目元を怪しいマスクをつけていて顔は分からない。

 「な! わ…私を殺すのか!」

 「殺しませんよ。単なるコードネームですので」

 「そ…そうか」

 あっさり白状するので、大丈夫だろうと胸をなでおろす。

 「では何なんだねこんな時間に?」

 「そうですね。単刀直入に申し上げますと、あなたの息子さんの計画が失敗しましたと報告に上がりました」

 「な…なんだと」

 少し前に自分達が企てていた事を息子達に命令しやらせていたのだが、その後勝手にいろいろやりだしていたなと思い出す。

 失敗と言うが実際何をやっていたのかまでは報告を受けていない為知らなかった。

 「息子は何をやらかしたんだ?」

 「あなたのやらせた事の延長といいますか、暴走ですね。第二王子と公爵家の令嬢三人、そして男爵家の令嬢を拉致監禁いたしました」

 「なんだと! そんな事あるわけないだろう! 流石にそこまでの馬鹿息子ではないわい!」

 「どうやら扇動者がいたようですね。簡単に乗せられたようです」

 「それを知っていてなぜ止めなかったんだ」

 「なぜ私がそれをやらないといけないのですか?」

 「なぜって、もしもの事があったらどうするんだ」

 「知りませんよ。そんなリスクを恐るなら最初からやらなければいいのでは? 我々は王家に叛逆した者達を処分するのが役目なので」

 「なっ!」

 「民草の事を思いながら統治するのが、本来の仕事。私服を肥やそうとした時点で終わりなんですよ」

 ポーンと無造作に紙束が投げられた。

 そこに目を通すと、今まで行ったきた不正が事細かに書かれていた。

 「私はどうなる?」

 「さぁ?」

 「さぁって、そんな無責任だと思わないのか?」

 「別に管理する人が変わるだけですし、今更侯爵家の一つ二つ無くなっても構いませんわ」

 この女は自分に全く興味がないのだと、ただ任務で来ただけなのだ。そこに弁明をするチャンスがない事も分かってしまった。

 「あなたで最後です。皆さんお待ちですよ」

 そして逃げる事も出来ないのだと、その場に頽れたのだった。


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