64 囚われの王子様他③
四階へ到着と同時に下の方で争う音が始まる。
「いいなぁ〜」
物欲しそうな表情でエリーがそんな事を言う。
別に行ってきてもいいのよ?
「何でもかんでも武力で解決すればいいってもんじゃない」
「そうね」
クリちゃんがいい事言ったわ。私もそう思う。
「じゃあこの筋肉何処で使えばいいのよぉ〜」
「知らないよ。何処かで見せびらかしたらいいんじゃない?」
「魅せる場所…」
見せるの字が違う気がする。
四階は窓ガラスが多い為か月明かりがたくさん差し込んで見やすい。
「あら、これなら素敵なステージになりそうね」
「今はそういうのいいから。先に探しなさいな」
「はぁ…分かったわぁ…」
時と場合を考えてほしい。しかし、本当に見やすいな。
それで気づいたんだけど、この階は結構作業が終わっているのか、全部の部屋に扉が付いている。
一つ一つ開けないといけないのか…。
「とりあえず、中にいるかもしれないから二人一組で慎重にね」
「分かった」「言われなくても分かってる」「もう素直じゃないんだから」「ふん…」
クリちゃんが拗ねてるけど構ってる暇はない。
中から敵が出てくるかもしれないからゆっくりと開ける。………いない。というか空っぽ。次ね。
そんな時レベッカ先生が大声で「いた! いたわよ!」なんて言う。素人かよ。って素人だったわね。ウィリアムが目ですまんと訴えてくる。
急ぎ部屋に向かうと、レオナルド殿下達が縛られていた。
「〜〜〜〜〜!」
こっちに気付き目を輝かせるレオナルドど、驚き目を見開く他の人達。
ぱっと見大丈夫そうだけど……。
私とエリーとウィリアムが中に入った途端に遠くからがなる声が聞こえた。
その声は段々と近づいてくる。
「てめぇらふざけんな」
何処にいたのだろうか、まだ確認していない方から大勢やってきた。お姉様達とかちあっていないのだろうか?
「きゃああっ!」
レベッカ先生がその場でしゃがみガードをする。
「何だこいつ」
「構わねえ。蹴り飛ばせ」
とんでもない事を平然と言うなんて最低ね。
予想外の出来事だったのか、クリちゃんとカスタさんは驚き動けずにいる。
ウィリアムとエリーは位置的に咄嗟に動けない。
まぁそれを見ながら動いていたんだけどね。
足を上げた男の横っ面に蹴りを入れて吹き飛ばす。
思ったよりクリーンヒットしたのかガラスをぶち破ってしまった。やっばぁ…。
「なっ!」
一瞬固まった男に向き直り顔面目掛けて回し蹴りをする。
勢いよく回転し、潰れたカエルみたいな音を立てながら壁に激突し気絶した。
「もう。レベッカ先生、そんな所にいたら危ないですよ。だから来ない方がいいって言ったんですよ?」
「あ…え…。ごめんなさい。こうなるとは思ってなくて」
レベッカ先生の手を引き部屋の中へ押し込む。
「クリちゃん、カスタさん、レオナルド殿下達の紐を」
「あ…あぁ。任せろ」
「分かったわ」
あんまり荒事が得意そうじゃないので中で捕らわれている人達の救出をお願いした。
私はというと…。
「クリスちゃんにだけ危ないマネさせられないわね」
「全く。少しは俺を頼れよ」
両の拳を打ちつけるエリーと、何処からか持ってきた角材を、構えるウィリアム。危ない事はしないと約束したはずなんだけどな。
まぁ、流石にこの人数をエリーと二人はキツいものね。
じゃあとっとと片付けちゃいましょうか。
横スクロールの格ゲーってこんな感じなのかしらね。
次々と襲いくる悪漢達を蹴り上げていく。それと同時に落ちていた角材で剣の代わりにぶっ叩いていく。
数が多いだけで大して強くない。ただ、倒れた人が邪魔にはなっている。それは向こうも一緒で動きが鈍る。
まぁ、私は構わず踏んだり乗ったりしながら倒していく。この人達と違って私軽いもの。場合によっては跳べばいいんだものね。
「クリス…その…見えてるんだが…」
ウィリアムが目を逸らしながらそんな事を言う。
この場で目を逸らすのは危ないと思うのよ。でもまぁそんなとこばっかり見ているウィリアムにはこの言葉を送りましょう。
「えっち」
「な! ちがっ! 俺はっ!」
「はいはい。分かったから集中する。よそ見してたら危ないわよ」
「わ…分かったよ」
不肖不肖といった顔で了承する。
ところでエリーはどうしてスカートをたくし上げて見せびらかしているの? 敵がメチャクチャ目を逸らして気分悪そうにしているけど、もしかして作戦なのかしら? あんまりそういうの感心しないわよ?
壁にはヒビが入ったり、穴が空いたりする。そして、窓ガラスは綺麗に残ってるのは一枚もない。
これソフィアにメチャクチャ怒られるんじゃないだろうか?
それよりも、エリーが倒した相手はちゃんと生きてるのよね?
ウィリアムは正統派な感じで相手を倒していく。中々どうして実戦をちゃんとこなせてるなと感心する。朝の訓練の成果が出てるじゃない。これで騎士団に入ってもやっていけそうね。
危なかったら後ろで控えるようにするつもりだってけど、どうやら杞憂だったわ。
そして、気がつけばいつの間にか立っているのは私達三人だけだった。
あっけなかったわね。ものの数分で片付いてしまった。
でも流石に疲れたのか、ウィリアムは肩で息をしていた。
「さ…流石、俺が認めただけあるわ…。全然疲れてないじゃん」
「リアムも結構頑張ってたじゃない。上出来よ」
「まぁ…カッコ悪いとこ見せられねぇしな…」
「え、何で?」
「何でもねぇよ」
急に不機嫌になってそっぽを向くウィリアム。
「クリス様大丈夫ですか!」
急いで走ってくるのはメアリーだ。後ろにも何人か付いてきている。
「すいません。この上にも結構いて手間取ってしまいました」
どんだけいるのよ。
というか何でこんなに残ってんのよ。
あの男がバーに飲みに来てくれてホント良かった。来なかったらこの場所って分からなかったわね。