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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第6章

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53 人生初の壁ドン


     *     *     *


 翌日は朝から何やら騒がしかった。

 ベランダから外を見ると、休日だと言うのに学園内に大勢の先生や生徒会の人達がいた。

 うちの寮の前にお姉様がいるのが見えたので、気づかれないように跳んで近づく。

 「お姉様何かあったんですか?」

 「あぁクリス……ってまた跳んできたのね? ダメよ。そういうのは夜だけにしなさい」

 「はい……」

 あっさりバレてしまった。

 「まぁ…いいわ。それでこの騒ぎなんだけど、また失踪事件が起きたの」

 「えっ、またですか?」

 「そう。しかも三人」

 「三人も」

 「ホント嫌んなっちゃうわ。何のために教師として入り込ませてるか分からないわね」

 アンジェさん達の目を掻い潜って攫われたのか。というか、先生の仕事しながらってのが無理があるんじゃないですかね? 毎日日を跨ぐ時間まで残業しているって聞きますし。

 そう思っていたら、目の下に大きなクマをつけたアンジェさんが来た。フラフラしていて今にも倒れそうだ。

 「大丈夫ですか?」

 「あぁ…クリス様。お恥ずかしいところをお見せしてすいません」

 格好が? なんて無粋なことは言わない。しかし窶れたなぁ。そんなに先生って激務なのかな。ちゃんと休みとった方がいいと思うの。

 ……もしかして、フィジーさん達が疲れてたのって、こういうのが理由なのかな? ちょっとブラック過ぎない?

 そんなアンジェさんは、見た目以外はいつも通りだ。

 「サマンサ様、学園内全ての敷地を捜索しましたが見つかりませんでした」

 「前回みたいに地下も含めて?」

 「はい。下水道から配管の間まで隈なく探しましたが痕跡すら見つかりませんでした」

 「そう…」

 「ただ、気になる事が…」

 「何かしら?」

 「中庭にこれが落ちてました」

 アンジェさんが布を広げるとどこかで見たよな扇子だった。

 「あの…もしかして居なくなったのって…」

 「そうよ。ガーネットクロウ公爵令嬢とストーンローゼス公爵令嬢。そしてレオナルド殿下よ」

 それを聞いて体の芯までスッと冷たくなるのを感じた。

 だって昨日その三人と会っていたのだから。

 「とりあえず()()私達だけで探すからクリスは部屋に戻ってなさい」

 「はい」

 「変にほっつき歩いてると疑われかねないし、まぁ無いとは思うけど、クリスが攫われる可能性もあるからね」

 そうね。今は他の人の目があるから大人しくしてないといけないわね。

 それにこんな大人数で捜索しているという事は、お城や公爵家へ報告とかしてないんだろうなぁ。

 「何か分かったら部屋に行くから。ほら」

 促されるように部屋へ戻れと言われたけど、よく考えたら今部屋履きなのよね。跳んで戻っちゃダメかしら?

 お姉様が目で「ダメよ」と言うので、仕方なく入り口から入ると、コンシェルジュの人が困惑していた。

 あぁ、ここから出てないからね。

 気づかないフリしてエレベーターホールへ向かうと、丁度一機降りてきたところだ。


 扉が開くとイヴ様が乗っていたので、横にずれて礼をする。

 「ごきげんようクリスさん」

 「ごきげんようイヴ様」

 ごきげんようって言うとお嬢様感あって好きなのよね。あ、一応お嬢様だったわ。

 その時一瞬気が緩んでいたんだろう。

 妖しい笑みをしたイヴ様が私を引っ張りエレベーターの中へ連れ込む。

 そして、ドンという音と共に壁ドンされた。

 人生初の壁ドン…。でもそんな甘酸っぱい感じはなく、どこか禍々しい。

 というかですね、イヴ様の大き過ぎる胸が当たってるんですよ。気まずくて視線をずらす。

 「こっち見て」

 見たいっちゃ見たいんですが、どんどんと迫ってくる胸に押されて首を動かしづらいんですの。それに前向くと息が出来ない可能性があって…。

 「じゃあそのまま聞いて…。私見てたの」

 何を? と聞ける雰囲気じゃない。尋問されてる気分だ。

 「さっき外が騒がしかったから、ベランダに出て眺めていたの。そしたら、あなたがぴょんと身を投げ出すんだもの」

 やっば…。いつもの癖で、全く気にせず跳んじゃってたわ…。

 「驚いて下を見たら、普通に人と話しているんだもの。自分を疑ったわ」

 お姉様の言う通り気をつけないといけないわね。それ、夢幻(ゆめまぼろし)って事に出来ませんかね?

 「そ…そんな、飛び込むだなんて、寝ぼけていたんじゃないでしょうか、ねー?」

 一縷の望みにかけて、しらばっくれてみよう。

 「普段の私ならそうでしょうね。朝弱いし」

 「ほら」

 「でも、私夜型なの。いつも夜空を眺めていくと、あなたの部屋の辺りから何かが飛んでいくのを見ているのよ。暗いし、一瞬の出来事だったから鳥か蝙蝠だと思っていたけど、今日この目で見て確信したわ。あなただと」

 ひえー。これはもう言い逃れ出来そうにないかも。そんな、夜遅くまで起きてるなんて想定外だし。

 「あなた何者なの?」

 そう言われて、正面を見据える。イヴ様は半分だけ開いた目で私を見る。とこか無機質な感じがする。

 「ねぇとうなの? 答えて」

 ギュウっと顔を潰すように胸を押し付けてくる。そんな押しつけたら息苦しいし、答えられない。

 男なら嬉しいんだろうけど………私も男たったわね。

 だが、いつもメアリーにされているからね、対処法は万全よ。それにイヴ様の着ている服がテロテロしているから、脱出しやすい。

 「あっ…」

 イヴ様は体重をかけていた私がいなくなった事で、おでこを壁にぶつけてしまった。でも大きなエアバッグがあるからそこまで衝撃は無いようだ。

 「なっ…いつの間に…。というか、どうやってそこに…」

 イヴ様の壁ドンもとい胸プレスから脱出した私は急いで、エレベーターの『開』を連打していた。

 「待って。まだ聞きたい事が」

 「ごめんなさい。今はちょっと。えーっと、ご、ごきげんようっ」

 『閉』のボタンを押して、急いで滑り込むようにエレベーターから脱出する。

 閉まる直前呆然とした顔のイヴ様と目が合ってしまった。このままエレベーターで行くと待ち伏せされてるかもしれないし、外から跳んでいくわけにもいかないので、階段で行くしかない。

 とりあえず、階段のある場所を三角飛びして部屋へ行く。うん。最速記録更新かな。


 部屋に入ろうとすると、鍵がかかっていた。マジか。

 チャイムを連打すると、不機嫌そうなマトリカリアさんが開けてくれた。

 「誰よ、こんな連打って…えっクリス様。どうして廊下に?」

 「ごめん。後で話すからとりあえず入れて」

 隙間から滑り込むように入る。体が細くてよかったわ。

 エレベーターのある方から声がした気がするが無視する。

 扉を閉め、鍵をかける。

 「私はいないって言っておいて」

 「え?どういう?」

 「お願い」

 「まぁいいけど、後で教えてよね」

 その瞬間、勢いよくチャイムの連打とドアを叩く音がした。

 「ちょっとーいるんでしょー開けなさいよ!」

 振り返り私を見るマトリカリアさん。手を合わせてごめんねをする。

 口パクで「後で説明しろ」と言われた。

 とりあえず靴持ってお姉様の部屋へ避難しようと自室へ戻った。

 遠くから、マトリカリアさんとイヴさんの押し問答が聞こえる。

 「ちょっとー、開けてよー、ねぇクリスさんいるんでしょ!」

 「えー、なんですかこんな時間にー」

 「こんな時間って、九時過ぎよ。…って、ここにいるんでしょ? 出しなさいよ! クリスさんを出しなさいよ」

 「クリス? え?」

 「白々しいわねー。クリスティーヌ・オパールレインを出しなさいよー。いるのは分かってんのよー」

 マトリカリアさんには、後でなんかいいものプレゼントしておこう。


 自室に入るとビジューさんとロココさんが何があったのか聞いてくるが、今はそれどころではない。

 「とりあえずお姉様の部屋に避難よ。メアリー叩き起こして」

 「えっ!? あ、はい」

 「まだ九時前ですよ」などとのんきな事を言っているメアリーを引っ張り、ベランダのハシゴからお姉様の部屋へ避難する。

 念の為、自室に鍵は掛けて置いたけど大丈夫よね?


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