46 お茶会に行く準備をしよう③
その後一瞬の隙を見てベランダへ向かって走り出そうとした私をメイドさん達が一斉に捕らえて話さない。
まるでこうなる事が分かっていた感じね?
逃げ出せないよう地面に張り倒され乗っかっられるなんて夢にも思わなかったわ。
そしてそのままどこかの部族の生贄の様な担がれ方で、ソフィアの部屋へと連行された。
ソフィアの部屋は他の部屋より広かった。
「はい。では、これからクリスのお茶会参加に関して、一番似合う衣装を選びたいと思います」
「「「「「「わー」」」」」」
めちゃくちゃ盛り上がってるわ。なるほどつまり私は着せ替え人形にされるということね? 出来ればご飯食べる前にして欲しかったわ。お腹が苦しいのよ。
ちゃんと言えば逃げようとしなかったわよ。含みのある言い方をするから警戒する訳で。そう思っていたんだけど……。
「では一番手は私メアリーが。こんなのがいいと思います」
前言撤回。お茶会に来ていく服って言ってるでしょうが。何Vストリングの水着って? もう秋よ? 十月になろうとしてるのよ? そんな寒そうなの着る訳ないでしょ。
「却下」
「却下します」
「!?」
「ダメよクリス。折角選んで貰ったんだから着ないと」
「そうね。それに下着代わりとして丁度いいんじゃないかしら」
「グッジョブメアリー」
そう言うのは生唾を飲み込みながら言うもんではないと思うのですよ。それにこんな紐みたいのだと私のアレが隠しきれないので丸見えになってしまうんですよ。
「気にしないから。服合わせなんだから、そんな自意識過剰にならないでいいわよ」
「そうよ。これからいろんな衣装を着るんだから、邪魔になるような下着はダメに決まってるでしょ?」
そういのは鼻息荒くして言うもんじゃないと思うの。それにこんなん着るくらいなら裸の方がマシよ。
「ねぇ、お茶会に行くのにこんな紐しかないもの着ていったらおかしいでしょ?」
みんな一斉に腕組みして首を傾げる。頭に?が浮かんでいる。なんで分からないのよ…。なんでそんな顔出来るの? もしかして私だけがおかしいのかしら?
まぁ着るけどさ。着ないと終わらなそうだから着ますよ。
「ねぇ、どこで着替えたらいいの?」
「? 変な事言うわね。ここしかないでしょ」
いや、みんな見てる前で着替えるのは流石に恥ずかしいんですけど。
「貴族なんて着替える時、みんな裸体を晒してるんだから、今更でしょ?」
前世の感覚がまだ残ってるんで恥ずかしいのよ。それにそんな露出狂みたいに好んで脱ぎませんよ。それにソフィアもそう言う事しないわよね?
「ちっ…。仕方ないわね。ステラ仕切り持ってきてあげて」
「はい」
今舌打ちしたわよね? そういうところが信憑性がゼロなのよ。
持ってきてもらった仕切りに隠れて着替えるが、やっぱりおかしい。女神様の紐以上に細い。布面積が限りなくゼロなんだけど……。
「うん。やっぱり女神と言ったら紐よね」
「常識ですよねー」
一体どこの常識なんですかね? ほぼ全裸なんですが。
「ちょっとクリス、ちゃんと立ってポーズしないと。手で隠さない」
「いや…ちょっと流石に」
何とか中に押し込んでいるものの、下手に動くと弾みで溢れそうで。こんな時間におはようしちゃうから。
「久しぶりにクリスの泣きそうな顔見たわね」
「そそりますね」
そんな時、バサっとジャンパーのようなコートをかけられた。
「流石にこれはやり過ぎよね」
「マトリカリアさん…」
顔を赤くし、明後日の方向を見ながらぶっきらぼうに話すマトリカリアさん。なんて男前なの。
この中で一番お姉様って感じがする。本当にお姉様って呼んでみようかしら?
「ちょっと邪魔しないでよー」
「そうだそうだー」
「あなたも大変ね」
そう言って代わりの衣装として渡されたのは、光沢のある丈の短い短パンとスポブラだった。さっきの何? というか銃持って戦えって?
「これマーガレット用に用意したんだけど、着てくれなくってね」
でしょうね。でも紐よりはいいか。
というか、マトリカリアさんって普段刺々しい言い方してるけど、マーガレットの事好きよね?
「マトリカリア…」
「何よガーベラ」
「私はこっちのが似合うと思うの」
そう言って渡してきたのは和風と中華風が混ざった、これまたスカート丈の短い黒い衣装だった。
「なるほど…」
着替え終わるとソフィアやお姉様から色々ポーズの指定を出される。
「クリスちょっと座ってもらっていいかしら?」「…あー違う違う。正座で両足横。そうそう…」
ソフィアの言う通りに座る。骨盤に悪そう。
そして、一斉に屈む一同。何がしたいの?
まぁ、言われるまま出された衣装着ている自分もどうかと思うけどね。
嫌なのかって言われたらそんな事ないし。寧ろ嬉しいし楽しいわ。
途中からノリノリでいろんなポーズ取ってるもの。
その度にメイドさん達から見えなくなるくらいのフラッシュが焚かれる。
「ねぇ、みんな分かってる? お茶会に行くのよ? コミケ会場に行くんじゃないからね?」
「知ってるわよ」
しれっと返してくるけど、内心絶対に面白がってると思うの。
「まぁ、冗談はこの位にして、ちゃんと衣装選びしましょうか」
「絶対面白がってたでしょ」
「うん」
今日は割と早くに認めたわね。
「ねぇクリス」
カリーナちゃんが顔を赤らめながら衣装を持ってきた。
「私はこれが好きなんだけど」
「カリーナちゃんまで…」
持ってきた衣装はピンクの魔法少女の衣装だった。確かにドレスっぽいけどさぁ…。
ご丁寧にステッキまである。
着替えてステッキを持ってポーズを取る。
「きゃあっ! かわいい!」
普段落ち着いてるカリーナちゃんが両頬に手を当て顔を真っ赤にしている。目がハートになってる。
「前からずっと見たいって思ったのよ」
お母様主催のイベントでも、あんまり着ないからね。
「負けたわカリーナ」「えぇ。これは認めるしかないわね」「クリス様の可愛さを十二分に発揮していますね」「カッコよさより可愛さかぁ…」「神々しい…」
どうしてみんなそんな目がトロンとした表情になっているの?
「まさしく女神って感じよね」
こんな女神いる訳……いるか。
「これは優勝ね」
「優勝はカリーナの魔法少女の衣装で決定ね。はい、解散」
「やったわ」
「悔しいけど、これは超えられないもの」
「待って待って」
「何よ」
撤収準備に入ろうとしているみんなを止める。
「何回も言ってるけど、お茶会よ? ジル様主催の。こんなのおかしいでしょ?」
「クリスは文句ばっかりね」
文句って、何で私がこんな非難されないといけないのよ…。
「仕方ないわね」「そうね。ちゃんとやりましょうか」「やり過ぎると怒るからね」「これは普段着かパジャマとして着てもらいましょ」「じゃあドレス持ってきてー」「準備出来てまーす」
やっぱり楽しんでたのね。まぁ、私も楽しいからいいけどさ、もう彼此二時間以上遊んでるんですけど、みんなお風呂とかいいの?
その後はちゃんとお茶会用のドレスを選んでいく事になったんだけど、みんな自分の好みを言い合って中々決まらない。
もう三桁に届くかと思われた時、それぞれが説得力を出すためか着だしたんだけど、ドレスからコスプレ衣装に変わっていくのはどうかと思うのよね。
まぁ、みんな楽しんでいるからいいんだけどさ。
「私バニーの衣装って黒より青の方が好きなのよね」「でも、白も興奮しません?」「バカだなぁ。王道の黒一択でしょ?」「黒は黒でもテカってる方が好き」「赤もいいと思うの」「私はピンク派」「じゃあゴールドって選択肢も……」「あ、はいはい! 私は逆バニーがいいと思います」「お前よくここでそんなのぶっこんできたな」「とりあえずものは試しでこのステッカー貼ってもらっていいですか?」「まずは自分でやったら?」「いいですけと、折角だしみんなでやりましょうか?」「「「「「「「………」」」」」」」
深夜のテンションなのか、みんなそれぞれ自分の趣味を晒け出すわ、着出すわすごい事になってるわ。
もう私が明日着ていく服の事なんて忘れてるんじゃない?
途中から参加したマーガレットもソフィアの着る衣装に狂喜乱舞しているし。近所迷惑だと思うのよ。
そんな感じで夜は更けていって………。




