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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第6章

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43 仲間/お誘い


           *      


 どっと疲れた。

 なんとかへたり込みそうになるのを堪えて昇降口までの道のりを歩いていると、前から四人の男女が歩いてきた。

 その中の一人はとても見知った人物だ。

 「あれ、エリー部活か何か?」

 「違うわよぉ。クリスちゃんを探していたのよぉ」

 「え、私を?」

 「そうよぉ。一人だけ責任取らされた形になっちゃたから、みんなでごめんねしようって事で」

 「そんな事いいのに」

 「ほら、そんな事しなくてもいいってよ。変に気使う必要無かったじゃん」

 黒髪のちっちゃい子がぶっきらぼうに言い放つ。

 「ダメよぉクリちゃん。そんな言い方はぁ…」

 「だってそうだろ? ミスったらそいつの責任。わざわざ慰める必要なくない?」

 社会人になったら本当にそうだから、否定はしない。なんなら上司の責任を被せられて手柄持ってかれるまであるからね。それで昇級・昇給されるまであるからね。

 「だってぇ、私達だって探していたのに見つからなかったのよ? もしかしたら怒られてたのは私とかクリちゃんの可能性だってあるのよぉ」

 「…………………」

 バツが悪そうにそっぽをむくクリちゃん。

 なんだろう。男子の制服を着てるんだけど、醸し出す雰囲気がメスガキ感がある。

 「あ、何ジロジロ見てるんだよ」

 それにしても口悪いなこいつ。

 「そんな言い方しちゃメッよ」

 もう一人のほんわかした糸目で黄緑色の髪の女子生徒がクリちゃんを窘めた。姉弟みたいな感じだな。

 「悪かったよ…」

 「素直じゃないわねぇ」

 頬に手を当て困惑する黄緑さん。ぽわんぽわんしてる。

 「ごめんなさいねぇ」

 「いえ…」

 なんだろうこの人には素直に従ってしまいそうな気持ちになる。

 「この子、あ、クリちゃんはね自分で見つけて褒められたかったみたいなの。それで、先を越されて苛立っちゃってね」

 「そ…そそそ、そんな訳ねーし。別に手柄なんて欲しくねーし。ぜーんぜん気にしてないし」

 早口で捲し立てるクリちゃん。あ、ツンデレってやつかな? でもそれも適当じゃない気がする。

 「そういえば、お前男なんだってな」

 「え、えぇ。そうよ」

 「ったく、何で女装なんてしてんだよ。もしかして男が好きなのか?」

 「いや全然」

 「へっへーん。残念でしたー。俺女だからお前のすきなお◯ん◯んありませーん。残念でしたー………………って、え?」

 秒で否定したのに、勝手に自爆するクリちゃん。真っ赤な顔になってかわいい。

 俯いてプルプル震えている。私より背が低いから涙が出ているかは分からない。

 しかし、男装女子か。ショートカットだし、胸も私と一緒で真っ平ら。少年っぽい感じだけど、女の子なら納得だわ。

 「ごめんねぇ。素直じゃないだけで悪い子じゃないから」

 「あ、はい」

 この中で唯一性別と着ている服が一致している黄緑さんがクリちゃんをフォローした。

 「……っせー」

 「え?」

 「うっせーなー。子供扱いすんなよカスタ!」

 なるほど、この人はカスタさんというのか。二人合わせるとカスタードクリームってね。

 しかし、そんなほんわか雰囲気は突如終わりを告げた。あのエリーでさえ顔を引きつらせている。

 「うるさい?」

 「あ、ごめん…なさい…」

 うっすらと開眼してクリちゃんを見据えるカスタさん。メドューサに見つめられて石化したみたいにカッチカチになっている。

 話が進まなかったから丁度いいや。


 「ところで探してたって言ってたけど、どこ探してたの?」

 「私とクリちゃんは体育館をね」

 なるほど。確かに隠れるところいっぱいあるものね。椅子を収納する台車とかね。中から押せないし。

 「私はぁ、更衣室とか探してたわぁ」

 ロッカーとかね。でも着替える人いたらバレない?

 「体育館とかプールの更衣室の匂いが好きなのよぉ」

 ヴォエ! 私匂いフェチって理解出来ないのよね。

 「そ…そっかー」

 「でも旧校舎の地下なんて盲点よね。誰も地下があるなんて知らないんだもの」

 「あ、それなんだけど、かなり古くからいる先生しか知らないって言ってた。だからか知らないけど、開け方も忘れてたって言ってた」

 「ずっと使われてない施設を知ってるってどういう事なのかしらね?」

 「さぁ」

 「で、犯人は見つかったの?」

 「あれ、聞いてない? 一応住んでたところは特定して調べたって言ってたわよ」

 「え、聞いてない」

 安っぽいコスプレショー見せられてただけだったし。本気で忘れていた可能性もあるわね。

 「でもざぁんねん。とっくにもぬけの殻だったそうよ。今は諜報員をいろんなところに飛ばして探させてるわ」

 「そっかー」

 そこまで話したところで、石化が解けたのかクリちゃんがまたぞろ口を口撃を開始した。


 「つ、次は負けねーかんな。俺が先に見つけてやるからな! 覚えてろ変態! 女のカッコした軟弱野郎になんか負けねーかんな」

 男装女子に女装を馬鹿にされるなんてなぁ…。

 しかし、どうしてライバル視されているのか謎だわ。

 クリちゃんは勝手に肩で風を切る感じで去っていった。

 「ごめんねぇ。あとできつく教育しておくから」

 「あ、はい。あ、いや大丈夫ですから。気にしてませんから」

 注意じゃなくて教育とは?

 「(いい機会だと思ったんだけどな)」

 「え、何か?」

 「んーん。何でもないわ。クリちゃん行っちゃったから私もいくわね。また後でお話ししましょう」

 「はい」

 カスタさんも軽く上げた手を振って去っていった。

 なんだろう。どうして私の周りには濃い人しかいないんだろうか。

 「最悪な初対面になっちゃったわねぇ」

 一番濃いエリーがそんな事を言う。

 「別にいいわよ。何かボタンの掛け違いみたいな事があるんでしょ」

 「いや単純にライバル視してるだけだと思うわよぉ」

 「何で?」

 「だって、クリスちゃんって色々活躍してるじゃない? 表でも裏でも」

 「そうかな?」

 「そうよぉ。それに対してクリちゃんは何にも実績ないしねぇ」

 「そうなんだ。まぁ、焦って変な事に巻き込まれなければいいかな」

 「私も注意して見ておくわね。同じクラスだし」

 「あ、そうなの?」

 「そうよぉ。カスタちゃんも一緒のクラスなのよ」

 そんな事を話しながら昇降口を出ると、意外な人物がいた。

 もう薄暗くなって、街灯まで付いているのに何をやっているんだろう。


 「あら、クリスちゃんに用があるみたいね。私はお邪魔みたいだから先に失礼させてもらうわね」

 そう言って、私を待ち伏せていた人物に恭しくカーテシーをして去っていった。

 その人は微動だにせず扇子で口元を覆っていた。

 「ごきげんよう。クリス様」

 「ご…ごきげんようジル様……」

 今の時間帯って『ごきげんよう』で合ってるのかな? つられて返しちゃったけど。

 「あの、私に用ですか?」

 「えぇ。ずっとあなたを待っていたんですの」

 えぇ…。こんな時間までずっとここで?

 「恐れ入ります……」

 「別にいいんですのよ。ターシャあれを…」

 三人いるメイドさんの中で左側に侍るメイドさんが無言で何かを差し出した。

 「どうぞ」

 そして、それを持って私に手渡すジル様。

 「あの……これは?」

 「遅れて申し訳ありませんの。明日はお休みでしょう? 私、お茶会を開きますの。その招待状ですわ」 

 もしかしてこれを手渡すため、態々こんな時間までここに居たの?

 「では、ちゃんとお渡ししましたわよ。ではごきげんよう」

 「ご…ごきげんよう」

 スッと振り返り去っていくジル様。三人のメイドさんも完璧なカーテシーをして去っていった。

 同じ寮に住んでいるんだもの。ここで付いていくと、エレベーターで鉢合わせして気まずいわよね。私四階だし、颯爽と去っていったのに、エレベーター降りるときは私が先に降りるのはなんか気まずい。

 少し時間を潰してから行きましょう。

 そうだ。もらった手紙をここで読んでしまいましょう。

 マナー違反かもしれないけど、カバンの中から取り出したペーパーナイフで封を切る。

 ……ふむふむ。お茶会の時間と場所が書いてあるだけね。あ、これはまずいわね。

 パーティなんて片手で数えるくらいしか参加した事ないから分からないわ。これはソフィアに相談しないといけないわね。

 手紙のそこには、『普段着でお越しください』と書かれていた。

 貴族の普段着ってどういうのよ。ドレスでいいのかしら?

 そんな事に考えを巡らせていたら、結構いい時間になっていた。


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