29 クラス毎に特色があるらしい
学園生活にもある程度慣れた頃。
廊下を歩いていると、生徒達のいろんな話し声が聞こえる。
「あのギャル先生ヤバいよな」
「な。俺あの先生マジ好きだわー」
クオンさんの事だな。あの格好で定着したんだな。心なしかギャルの生徒増えたしなぁ。影響力凄いな。インフルエンサーじゃん。
「G組だっけあそこ」
「そうそう。みんなギャルだもんな」
「なー。俺あそこのクラスがいーわ」
「それなー。あの見た目でめっちゃ優しいし、親身になってくれるらしいしな」
「俺みたいなオタクにも優しいしな。クオン先生しか勝たん」
オタクなのに喋り方が陽キャになりかけてるわね。ていうか、オタクってあんなウェイウェイ言ってたっけ?
「でもな、H組はもっと凄いらしい」
「あそこなー。あそこもいいよなー」
H組はギガさんだよね。
「みんなお母さんって呼ぶらしい」
「なに? 言い間違いじゃなくて?」
「そう。先生じゃなくてお母さん。包容力がハンパないらしい。あそこだけ保育園みたいな感じらしいぞ?」
あの人も何やってんのよ。まぁ確かにお母さんって言いたくなる気持ちも分かるからね。
「相談あると、抱き抱えてくれたり、膝枕してくれたり、頭撫でてくれたりするらしいぞ」
「なんて羨ま…けしからんな。クラス替えを要求したい」
「だが、決めるのはまだ早いぞ」
「どう言う事よ」
どう言う事よ。…あら、被ってしまったわね。
「B組も凄いらしい」
B組ってプロフィアさんでしょ?何も問題はないでしょ? もしかして初々しくて見守ってあげたい的な感じ?
「ムチで叩いてくれるらしい」
は? どう言う事よ。黙って続きを聞く。
「あそこの先生な、ボンテージの衣装で授業やってくれんのよ」
「マジか!」
「マジマジ。最初は普通の格好なのに、問題が解けないと、着ていた服を脱ぎ捨てて、ムチで地面とか教卓とか叩きまくるらしい」
「いいんかそれ?」
「それでな、顎くいとかビンタとかしてくれるらしい」
あの人もダメだったか。まさか、そんな趣味持ってるとは思わなかった。今まで下にそういうの着てたって事かしら? 清純そうな見た目で一番とんでもないのでは?
エリーのところにいたから、普通じゃないとは思ったけど、いくらなんでも前世での趣味を謳歌しすぎてるんじゃないの?
もしかして、男装させられてた反動なのかしら?
それにしたって、いくらなんでもねぇ…。ぶっちゃけはっちゃけすぎだと思うのよ。
「教卓の上に座るとみんなワザと間違えるらしいな」
それ逆に教育失敗してない?
「悩むなぁ」
「だろ?」
悩んだところで、クラス替えできないし、何なら副担任だからね。まぁ、授業で当たれば……、私も当たった事ないわね。担当科目なんなのかしら?
これ、他のクラスもこんな感じなのかしら?
気になって仕方ないわ。続きは? 続きはないの?
「俺んとこなんて、真面目も大真面目でつまんねーもん。メイド服着てるから、最初はおっ! って思ったんだけど、硬すぎてなぁ…。歳もいってるし…」
何言ってんのよ。アンジェさん最高でしょ? それが分かんないなんて、全然ダメね。あの貞淑さに隠された大人の色気を分かんないなんて、まだまだ子供ねぇ。
「俺んとこもメイド服着てるけどさぁ、初日に何配られたと思う?」
「え? 行事予定表とかだろ?」
「婚姻届だよ」
シグマさん…。見つからないなら、ここで結婚相手を見つけようとしてるんですね。
「何それ、最高じゃん。先生と恋愛なんて羨ましいんだけど」
「恋愛もクソもあるか! 婚姻届の下には、先生の取扱説明書もあったんだぞ! 箇条書きで細かく書いてあったんだ。あれは、恐怖だぞ」
「うわぁ、めんどくさそう……。地雷じゃん」
「絶対に束縛するタイプだよな」
「それはそれで…いや、やっぱないわ」
シグマさんが結婚できないのはそういうところだと思います。
「お前らさっきから聞いてりゃ、言いたい放題だな」
おや、新しい人が話に加わったわね。
「俺なんてなぁ、朝から筋肉ダルマみたいな副担任と、その弟の痴話喧嘩見せられるんだぞ? それも毎日だ!」
「なんかすまん」「俺も」
「分かってくれりゃあいいって事よ」
みんないろいろあるんだなぁ。うちのアンさんも、一応は問題起こさずにやっているからなぁ。なんていうか、担任のレベッカ先生の方が酷すぎて、そのフォローで自我を出せない状況って感じ?
「まぁ、いろいろ言ったけどさ、あそこはヤバいよな」
「あぁ、あそこな」
え? どこ? そんな凄い先生いるの?
「あそこは、先生は普通なんだよ。ただなぁ」
「みんな修道服着て祈ってるんだろ? 異常だよ」
もう、何処が? なんて聞かなくても分かる。あのバカが懲りずにやらかしたのね。
気がついたら、そのまま走り出していた。
そして、J組の扉を開けて後悔した。
「おや、女神様」
「「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」」
逃げようと思ったら囲まれて引きづり込まれてしまったわ。
「女神様ようこそ、おいでくださいました。ささ、こちらへどうぞ」
「いや…」
「女神様!」「女神様、聖書にサインを前の筆でかいてください」「毎日読んでます女神様」「毎日女神様の教義を遂行しています」「女神様、聖書の内容の実体験を語ってください」「どうやったら、聖書のような事が起きますか?」「あのモンスターはどこで会えますか?」
違う。それ聖書じゃない。同人誌よ。
というか、何で…何で全員シスターの格好しているのよ。制服はどうしたのよ。
しかもこのシスター服、うちで試作で作ったやつに似てるわ。
生地はエナメルで、キャミソール風のロングスカートだけど、両方とも腰の辺りまで入ったスリットで、露出が凄い。フロントスカートが長くて重いのか、見えそうで見えない。
てか、下着履いてなくない?
一応、足の付け根近くまであるサイハイソックスを履いてるけど、逆に際立つわね。
それと、手袋と一体型の付け襟の上着ってフェチが過ぎるわよ。ウィンプルまでしっかりエナメル生地で作り込まれてる。重くないのかな?
とりあえず予備を含めて十着ほど欲しいわね。あれって指先とかところどころエナメルが剥がれたりするからね……って違うわ。いや、違わないんだけど…。
私の趣味とアーサーの趣味が一致するのが、なんか嫌だわ……。
あそこで祈ってる一際大きい人が先生かな?
「先生も止めてくださいよ」
「何故です? 私達はただドグマに従って祈ってるだけですよ」
「そうです。我々は教師である前にクリス教の一信者なのです」
「ラクリマ先生とファナック先生の仰る通りです。私達はただ敬愛する女神様に祈っているだけですよ」
もう泣きたくなってきたわ。
それにしても、どうしてアーサーは神官の格好なのかしらね?
もうこのクラスはダメかもしれない。というか、アーサーはどうやってこの危機的状況を作りだしたのかしら? とりあえず、みんな目を閉じている間に跳んで逃げるしかないわね。
無事に気づかれずに脱出出来たけど、あれは何とかしないとまずいわね。
お姉様に相談してもいいんだけど、宗教弾圧とかで変に争いになったら本末転倒よね。
こういう時は、エリーに相談しましょ。
「…という訳なんだけど、どうにかならない?」
「分かったわ。クリスちゃんが困っているんなら私が一肌脱ぐわね」
そう言って徐に脱ぎ出すエリー。
「だからってこの場で脱がないで欲しいんだけど」
「あら、うっかり」
うっかりで済んだら、警察はいらないのよ?
「で、どうするの?」
「そんなの簡単よぉ。エリー教に改宗させればいいの」
それは解決にならないのでは?
「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫。他に興味を持たせればいいの」
なるほど一理ある。
「で、どうするの?」
「まぁ任せなさぁい」
不安しかないけど、私ではアーサー含め、あのクラスをどうにも出来ないからね。ここは信じて任せるしかないかな。
数日後。
再びJ組へ訪れると、みんな制服姿に戻っていた。私を見ても軽く手を振ったり、微笑む程度になっている。
エリー凄い! どうやったのかしら?
「ふふ。簡単よ。違うものに興味を持たせるって言ったじゃない」
「うん」
「だからぁ、男と男の熱い恋愛を伝播したの。最初は中々受け入れられなかったけど、徐々にね」
なるほど。とんでもない事してくれたわね。まぁ、エリー教の目標がそれだから仕方ないわね。
「だから、今はほら。あれ見て」
廊下を困り顔で走るアーサーと後ろから『腐腐腐腐腐腐』と笑いながら追いかける生徒達がいた。
まぁ、どうせすぐに元に戻るかもしれないけど、アーサーにはいいお灸になったんじゃないかしら?
そして、私の予感は的中したようで、一週間もしたら、また元通りになっていたが、前ほど酷くは無くなっていた。
ただアーサー一人を除いて。




