28 たい焼き
その後は特にイベントもなく無事にこの日は終わった。
いろんな事が気になって胃が少し重い気がする。
「じゃあ邪魔が入る前に行きましょうか」
私の手をぐいっと掴んで足早に教室を出る。後ろで何か声が聞こえた気がするが、それしか分からなかった。
校舎を出ると、今まで意気揚々と歩いていたソフィアが止まった。
「どうしたの?」
「やっぱり。ソフィアお姉様、私を置いてどこへ行くおつもりです?」
マーガレットの方が少し上手だったようだ。ソフィアの思考なんてお手の物。どういう行動に出るか分かっていたのだろう。先んじて昇降口出口に仁王立ちしていた。
「いや…クリスがたい焼き屋さんに連れていってくれるって言うから」
「でしたら、私が一緒してもいいですよね」
「えぇ……そうね…」
声のトーンが下がる。そして私を見るが、私は何もしていないわよ。
「あらぁ、こんな所で何をしているのぉ?」
今度は後ろからエリーが来たようだ。
「ちょっと聞いてよエリー。クリスったら勝手にソフィアお姉様とデートしようとしていたのよ!」
だからデートじゃないって。
「あらぁ素敵ねぇ。でもぉ、クリスちゃん、デートって顔、してないわよぉ?」
「「え?」」
私の顔をしげしげと覗き込んだって何も出ないわよ?
「じゃーあ、私もご一緒してもいいかしらぁ?」
「いいわよ」
マーガレットが勝手に了承する。まぁ、私はいいんだけどさ。
ソフィアは引きつった笑顔をして、震えた手でサムズアップしていた。
「(……次回こそは……)」
まーた何かボソボソ言っているわね。
「ソフィア、早くしないともっと人が増えるんじゃない?」
「! そ…そうね。じゃあ、早く行きましょう」
そんなこんなでアンさんオススメのたい焼き屋さんに到着した。
『たい焼き・ブラッククローバー 』と看板に書いてあった。これどう見てもアンさんの関係者がやっているでしょ。
まぁ、アンさんがここにいないならどうでもいい事なんだけどね。
今の時間でもそこそこの人が並んでいる。
暫く並んで待っていると、漸く私たちの順番が回ってきた。
待っている間に看板のメニューを見ていたけど、結構いろんな種類があって迷う。
クリームですら、カスタードと豆乳クリームにクリームチーズとかがあるし、季節限定や、お餅入りまである。悩む。悩むけど、ここは自分の直感を信じて…。
「パンプキン豆乳クリームでお願いします」
「あいよっ! 140カラットだよ」
「はい」
「はい丁度ねー。はいパンプキン豆乳ねー」
一個一個が結構大きい。暦の上では秋だからね。秋っぽい季節物を選んでみた。
みんなは何を選んだのかなー…………。
エリーは大きめの紙袋に並々と買っていた。
ソフィアは大きな紙袋二つ。マーガレットは小さめの袋を一つ買っていた。
もしかして、一個だけ買ったのは私だけ?
「あらぁ…結構買ったのね?」
「エリーも人の事言えないじゃない」
「私はぁ、うちで待っている子達にね」
「私もカリーナの分と合わせて四つね」
「わ、私だって、みんなの分も合わせて買ったのよ!」
「ホントにぃ?」
「ホントよ。というか、自分の分しか買ってないクリスの方がどうかと思うわよ」
「そうね。そこまで思いが至らなかったわ。ごめんね」
「い…いいのよ。私が買ったから」
物凄くばつが悪そうな顔をするソフィア。
「ま…まさかソフィア様が私たちの分まで買ってきてくれるなんて!」「成長されましたね………ステラは嬉しく思います…」
シフォンさんが驚いて腰を抜かし、ステラさんが感極まって泣き出してしまった。普段のソフィアがどういう感じなのか分かるわね。
「ちょっと大袈裟じゃないかしら?」
「普段の行いって大事ですよね」
「ぐっ…そうね。反省するわ」
プレオさんがソフィアにとどめを刺した。
「ねぇマーガレット? どうして私の分は買ってこなかったのかしら?」
「え? だってマトリカリアは太るからって最近控えてるじゃない」
気まずそうな顔をするヨメナさんと、呆れた顔をしているデイジーさん。
「あ、あの…私は大丈夫ですので、マトリカリアさんどうぞ」
「あぁ…カリーナ様はなんて心が広いのかしら。それに比べてあんたは…」
「もらえなかったからって僻むんじゃないわよ。だったら余計な事言わなければいいじゃない!」
こっちは収拾がつかないわね。
とりあえず、ソフィアの買ってきた大量のたい焼きをみんなに配る。
「ちょっとクリス、何勝手に配ってんのよ」
「え? みんな用に買ってきたんでしょ? 袋入れっぱなしだと蒸れちゃうし」
「うぐ…」
「やっぱり…」
シフォンさんが呆れた目でソフィアを見る。
「わ…私が配りたかったの! 本当よ」
「そうなんだ。ごめんね」
「いいわよ。はぁ…(後で買ってこないと…)」
「え? なんて?」
「何でもないわよ。ほら、お茶淹れてよ」
「はいはい」
「あれ?」
「どうかした?」
「二袋買ったんだけど、一つ足りない」
「メアリー?」
「な…ななな何ですか?」
「今後ろに隠したの出しなさい」
今回は素直にスッと出すメアリー。
「誠にごめんなさい」
「ソフィア、メアリーは一個でいいからね」
「分かったわ」
「なっ!」
やっぱり普段の行いって大事よね。




