表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第6章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

385/546

24 昔話


           *      


 「どうだった?」

 「心配性ね。ずっと盗み聞きしていたのかしら?」

 「お前が変な事をしないか確認していただけだ」

 「そう言う事にしておいてあげるわ」

 「ところで、お前はいつ末娘になったんだ?」

 応接室横の扉から入ってきたクライブはそのままクリスが座っていたソファに座った。心なしか顔が緩んでいる気がする。

 「別にいいじゃない。そんな事」

 「まぁいいや。それで、どうなんだ?」

 「どうとは?」

 「裏切らないか?」

 「私のクリスきゅんに限って、そんな事する訳ないでしょ。まぁ、強いて言うならサマンサの方が危ない気がするわ」

 「あれな。俺も去年びっくりしたよ」

 「私もあれにはビックリしたわよ。ルイスと全然違うのよね」

 残っていたコーヒーを一口啜る。少しぬるくなって苦味が増していた。アンは顔を顰め、角砂糖を更に三個入れて掻き混ぜた。

 「そんなに苦手なら無理して飲む必要は無いだろう?」

 「だっていっぱい買っちゃたんだもの。私もこれがこんなに苦いとは思わなかったのよ」

 「じゃあ俺も減らすのに協力するよ」

 そう言って差し出したのはクリスが飲んでいたカップだった。

 「新しいので出すわよ」

 「いやこれでいいよ。洗い物が増えるだろう?」

 それは後で間接キスする予定だったものだ。

 クライブからカップを回収し、新しいカップを用意する。

 そして、苦味のきつい品種で、かなり炒りすぎた豆を、エスプレッソでも淹れるのかというくらい細かく挽いたものを淹れて出した。

 「はいどうぞ」

 「おっ、サンキュー」

 そういって一口啜ると、目を白黒させて噎せるクライブ。

 「ちょっ! なんだこれ…。苦すぎるだろこれ」

 テーブルの上にあった角砂糖を手づかみで掴んで入れて掻き混ぜる。

 「まだ苦いな」

 残っていたたい焼きを勝手に取って頬張るクライブ。

 「あんたはクリームのたい焼き好きねぇ」

 「俺は甘い豆ってのがどうも苦手でな」

 よく言うわ。と、アンは無表情で思う。

 コーヒーにバカみたいに砂糖を入れているのはどう説明するんだろうか? コーヒーだって一応『豆』ではあるのだから。

 ほぼ固形になったコーヒーをスプーンですくいながら食べるクライブを見ながら、アンは一つ思い出す。

 クリスが書いた歴史のテストだ。唯一この国の真実に近い答えを書いていた事を。


 ―――――ダイアモンド王国。

 かつて三つの国が合わさり出来た国だ。

 初代国王トレディア と初代王妃コルディアが興した国で、それまではクリスタル・クォーツ王国と名乗っていたが、他の国と合わさる時に『固い結束』・『征服されない強さ』・『永遠に繁栄する』事を願って付けられた。その理由と三つの国が合わさった為、ミドルネームに『トリニティ』と付けたのだ。

 王家の紋章『聖なる宝玉を抱える有翼の獅子』の有翼の獅子は元々はアンバーレイク王国が。聖なる宝珠はオパールスカイ王国からそれぞれ戴いたものだ。

 そして、いくつかの小国が合わさり大体今の形になる頃に北方より度重なる侵略が相次いだ。

 武門の家で、敵からの攻撃を全て防ぎ、王家を守り抜いた為付けられたのがトレジャーコフィン。

 同じく武門の家で、全ての敵を屠り大地を赤く染めた為付けられたのがブラッドフィールド。

 サファイア帝国の遠縁だが、知略と謀略で敵を無力化した為付けられたのがルースレスウィザードと、それぞれミドルネームを戴いた三家と建国当時から王家に忠誠を誓ったアンバーレイク家を含めた四家が公爵家として今も残っているのだ。

 もう一つのミドルネーム『レッドグローリア』はその三公爵家を表している。

 一方、オパールスカイ公爵家は当時の王家の婚約破棄に端を発した騒動『落ちたことのある空事件』によって、名を奪われ降格されたことにより伯爵家となった。永遠に降る悲しみを忘れないとしてオパールレインと名乗った。

 そんなオパールレインを含めた四家がどうして王国の影として活動しているのかは、二代目国王ミラージュの王弟カリスマによって興されたブラックダイアモンド大公家による影響が大きいのだろう。それぞれが辺境の地に追いやられたにも関わらず忠誠を誓っている。尤も忠誠を誓っているのはダイアモンド王家ではなくブラックダイアモンド大公家の可能性も捨てきれないのだが。

 そんな四家が今も変な行動を起こさないかを見張るのが大公家であり、その子供たちであり、その従者達なのだ。

 そして、オパールレイン伯爵家は二度叛逆を企てているのだ。それも二回目は十数年前の出来事だ。神経質にならない方がおかしい。今も虎視眈々とその機会を狙っているのではないかと思われている。

 今も直系は生き残っているのだから―――――


「おい、聞いているのか?」

 「え? あ…あぁごめんなさい。ちょっと考え事を」

 王国の塗り替えられた歴史を思い出していた。ブラックダイアモンド大公家ですら、今は王国内では消滅したと思われているのだ。闇に潜む我が家がどうしてオパールレインを責められよう。

 「なんだ、そんな笑うようなこと考えていたのか?」

 自然と笑ってしまっていたらしい。

 「え? あぁ…そうね。だって、クライブが舐め回しているカップは新しい方だもの」

 「なんだって!」

 「そんな大声出すようなことじゃないでしょ」

 「俺にとっては大事だぞ?」

 辺境に追いやられた家はどうしてこうも変なんでしょうね。

 そういえば、オパールレインのミドルネームは確かクラインハデスだったかなと不意に思い出したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ