22 自己紹介
さて、教室に入ったのだけれど、別に席とか決まっていないらしい。
じゃあどこでもいっか。そう思っていたんだけど…。
「クリスー! ここ開けておきましたよー」
教室に入るなり、大声で私を呼ぶレオナルド。本当に恥ずかしいのでやめてください。他の生徒が全員ヒソヒソ話し出していて気まずい。
例の公爵令嬢達も私をじっと見ていた。
「あの方にデリカシーとか期待しても無駄ですわね」
「もう少し配慮が必要だと思いますわ」
「そ…そうだよね…」
「え?」「へ?」
振り返ると二人の女生徒がビックリした表情をしていた。
「あ、申し訳ございません。つい…」
「深い意味はないんです」
「いや、私もそう思うわ」
「「えっ!?」」
一瞬驚いた二人の女生徒は軽く頭を下げて小走りに去っていってしまった。
まぁ、端から見てもそう思われても仕方ないのよ。あの性格直さないとダメね。不満がどんどん出てきてしまうわ。それこそ、王家への叛逆に繋がりかねないわ。
尚も手を振っているレオナルドを見て短く嘆息する。
ここで、レオナルドの所以外に座るという選択肢がない為、レオナルドの所へと行く。
「待っていましたよ」
「えぇ待ってたわ」
ソフィアにグイッと腕を掴まれ、レオナルドの一つ手前の席に引き込まれた。
「ちょっ! ソフィア何をするんですか。折角クリスの場所を開けておいたんですよ」
「仮にも王族なら、もう少し周りを見なさいよ」
「あっ…そうですね。すいません。少し浮かれていました」
素直に謝れて偉いですねレオナルド。そういうところは見習った方がいいんじゃないかしら、ソフィア?
とりあえず、レオナルドも落ち着いたので席に座る。
段差のある教室で、なんか大学の講義室みたいな感じだ。一机三人座れる様で、私の横にソフィアとカリーナちゃんが座る。
ソフィアの後ろ側にレオナルドが座っている形だ。
「あら、ここ空いてますの?」
「えぇ」
生返事で返すレオナルド。
「あら、良かったですわ」
「では僕はここに」
「………」
私の真後ろにジル様。カリーナちゃんの後ろにイヴ様。通路を挟んでレオナルドの横にシェルミー様が座った。
「いろいろ教えてくださいましね、レオナルド殿下」
「僕も分からない所があったら、是非とも教えていただきたいね」
「え…えぇ。お手柔らかに…」
結構グイグイくるね。そのまま奪っていただいていいんですのよ?
ただまぁ、後ろからの視線が凄く痛いわ。早く席替えとかしてくれないかしら?
そんな感じでみんな席に着いた頃に扉が開いて担任らしき人が二人入ってきた。
もう一人は副担任かな……げぇっ! なんであの人が。
「はーい。皆さん初めてましてー。担任のレベッカ・エレファントカシマシでーす。レベッカ先生って呼んでねー。よろしくー」
良かった。小さい先生じゃなくて。見た感じアラサーな感じだけど、ここからじゃよく分からないわね。でも最後に「婚約者募集中」と言っていたので、まぁその辺の年齢なんだろう。ちょっと性格に難ありな気がする。見た目はいいんだけどね。金髪ロングストレートで青目だし。でもレベッカって感じじゃないのよね。
さて、問題はもう一人の方だ。
「皆さん初めまして。副担任のアン・ボルツ・カーボナードです。これから一年よろしくお願い申し上げますわ」
「げっ!」「うえっ」
「ちょっと…!」
私とソフィアが小さく呻く。カリーナちゃんが小声で嗜めるが、仕方ない。あの人にはいい思いが全く無い。微塵も無い。
え、嘘でしょ? 副担任? 教育実習生の間違いじゃなくて? あんなペドフィリアな人が教師とか無理でしょ。
何故かずっとこっちを見てニヤニヤしているし、ロクな事考えてないでしょ。
「あら、あの方ずっとこちらを見ておりますわね」
「本当。コネでも作ろうとしているのかも」
そんななまやさしいものじゃないわよ。あと、標的は私だわ。
「でも、笑い方がおかしくないかい?」
「みんなあんな感じではないですか?」
「そうかな?」
「えぇ。私やクリスの周りにはああいう表情をする方が多いですから」
「そういうもんなのかな」
シェルミーさんの正しい指摘にレオナルドが間違った訂正をする。
そして、その後それぞれが自己紹介をしていった。
教室の前でレオナルドに何か因縁のありそうな二人はトミー・ブリリアントグリーン様と、カイラ・ノーザンブライト様。両方とも侯爵家だった。淡々と短めの自己紹介で終わった。それに対して後ろの公爵家のジル様とシェルミー様は長かった。そんな情報いる? って位長かった。まぁ、イヴ様とソフィア。それとレオナルドは、短かったからあの二人だけが異常なんだけどさ。
そこで、改めて名前を聞いて一つ疑問が湧いた。
この日はオリエンテーションくらいしかなく、授業は明日からのようだ。自己紹介が終わり、それぞれ生徒達で交流を深めてもらうために設けられた時間だ。なので、疑問点をソフィアに尋ねた。
「ねぇソフィア、一つ聞いてもいい?」
「いいわよ。何? 私の好きなもの? それはね…」
「いや違うんだけど…」
「じゃあ何よ」
どうしてそんなにすぐツンツンしちゃうの? まぁ、いいや。
「さっきの自己紹介でさ、公爵家の人達みんなミドルネームあったじゃない。ソフィアのところはないんだなーって思って」
「あぁ…公爵家だものあるわよ」
「え、じゃあ何で言わなかったの?」
「ダサいから」
ダサいダサくないで言う言わないってあるのかしら?
「ちなみにどんなの?」
「……………ォン」
「え、何て?」
「だから、ウイングドライオン」
「ぐうかっこいじゃない。有翼の獅子じゃない」
「私としては、ザップザップマンとか、ジョリージョリーロジャーとかのが良かった」
そうだった。ソフィアのネーミングセンスは壊滅的に酷かったんだわ。理解に苦しむわ。
「せめて動物ならオロチマルとかヤマンバガールとかカッコいいのが良かった」
ヤマンバガールは動物じゃないわよ。
ソフィアのお父様は獅子みたいな人なんだから合ってると思うけど……あの人に天使の羽つけたの想像したらおかしいわね。
「ちょっと、何笑ってんのよ」
「いや、ソフィアのお父様に羽つけたのを想像しただけよ」
「えぇ…? ……確かにアリね」
「えっ!?」
ソフィアの美的感覚が何一つ分からない。そういえば、ソフィアのところのブランドの一つにシャルベーシャってのあったわね。あれはきっとソフィアが名付けたのではないんでしょうね。
でもライオンか…。何となくソフィアもライオンっぽいところあるしね。動物園のダメライオンみたいな感じが。
そんな事を考えながら、ふと入り口の方を見やると、アンさんがちょいちょいと手招きしていた。試しに自分に指差ししたら、うんうんと頷いた。
「はぁ…。ちょっと呼ばれたから行くわね」
「ご愁傷様」
ソフィアもあの人がめんどくさい人だって知っているので、苦虫を噛み潰したような顔をした。
はぁ…嫌だなぁ。絶対に嫌な予感しかしない。
「何ですか? 手短にお願いします」
「ちょっとークリスきゅん冷たくない? まぁ、私としてはゾクゾクしちゃうのでそのままでもいいんだけど」
「用がないなら、戻りますね」
「待ーって待って。話があるの。ここではなんだから、部屋を用意したから、来てもらっていい?」
「えぇ…」
「そんな露骨に嫌な顔しないでよ。興奮するじゃないのよー」
どうすればいいんだ…。




