18 ルームシェア③
その後は和やかーな雰囲気で料理を作っていったのだが……。
「これ多くないですか?」
「やっぱそう思う?」
「お皿が重くて持てません」
「流石にこの量は食べきれないんじゃ?」
「でもこの人数だし…」
「いやそれでも多いですよ」
テーブルの上には大皿に山盛り積まれた肉料理の数々。調子に乗って作りすぎたと反省している。流石のお姉様、ソフィア、メアリーでもこれは躊躇うんじゃないだろうか?
そう思っていたのだが、全くの杞憂だった。
目にキラキラた輝かせて、今か今かと食べたくて我慢の限界に達している待てをされたワンちゃんのよう。
「じゃあみんな席に座ったわね…」
そう言うと、「いただきます」と言って一秒経たないうちに、見えない速度で肉料理を掻っ攫う人達。
山がどんどんと平らになっていく。それに反比例して、うず高く積まれていく骨…。まぁ、美味しそうに食べてるからいっか。見ているだけでお腹いっぱいだわ。まぁ、揚げ物とかすると食欲減るしね。
こうして見ていると、運動部の部活やってる人の食べ方だわ。
「クリス様お疲れ様です」
「ありがと」
私の横に座ったイータさんがワインのようなものを注いでくれた。
小皿にとったローストビーフとステーキ数切れを頬張りながら一口飲む。
「あぁこれ美味しい」
昔はワインって渋くて何が美味しいのか分からなかったのよね。いつしか、甘くて飲み口のいいワインが出て好きになったけど、年取るとちゃんと寝かせたワインの方が好きだなぁ。
しかしよく私が好きだって知ってたわね。
「これいいの?」
「もちろんですとも。うちの諜報能力を持ってすれば容易い事でございます」
流石、全国に支店を持つラピスラズリ商会の諜報部門。侮れないわ。
しかもこのワイン。私好みの味だわ。
「あら、それうちの領の特産品ですね」
ラベルの後ろを見ると、確かにステラさんの言う通りアンバーレイク産の記載があった。
「ちょっとクリス何飲んでるの?」
「ぶ…ブドウジュースですよ?」
「本当に? じゃあ私にも頂戴」
「ダメよ。ソフィアにはお肉があるでしょ。私はそんなに食べないから飲むのよ。だからあげられないわ」
「クリスがここまで引き下がらないなんて絶対にぶどうジュースじゃないでしょ。ぶどうジュースがそんな茶色い訳ないもの」
「いやいや本当だって。原料はぶどう100パーセントだもの」
嘘は言ってない。
ソフィアは食べ物与えておけば静かになるのに、今日はめざとい。お酒は今後は部屋で飲むことにしましょう。
そう思っていたら後ろからひょいと酒瓶を取り上げられてしまった。
「あっ」
「クリス…、これは没収よ」
「ちょ、お姉様返してください」
「いやよ。私も飲みたいもの」
持っていたグラスに、あろうことかなみなみと注いで一息で飲みきった。あぁ…勿体無い…。
「うん。ジュースね、これ」
「あら、サマンサお姉様が言うのなら本当なのね。悪かったわねクリス……って、何で泣きそうな顔してるのよ」
「いや、何でもない…。ちょっとワサビが効いただけだから…」
まだ少ししか飲んでないのに…。後でイータさん経由で手配してもらわないと。
「まぁいいわ。そういえば、なんでクリスはそっちに座ってるのよ」
「いや何となく?」
料理作ったメンバーで集まって座っただけよ? 実際ここしか空いてなかったし。まぁ確かに保護者側みたいな感じはあるけどさ。
「私の横空けといたんだけどな……。まぁいいわ……。そうそう。このお肉の入った海苔巻き美味しいわね」
「それね。最初作る予定無かったんだけど、お姉様が米食べたいっていうから急遽作ったのよ」
最後に作ったやつだね。一応お米炊いといてよかったわ。
人によっては主食食べないと満足しないって人いるから丁度良かったのかな?
甘辛く炒めた牛肉に、細切りのとニンジンとレタス。アクセントにマヨネーズを入れて巻いたものだ。
「それにしてもやっぱりクリスの料理は美味しいわね。ずっと食べていたいわ」
「それだと太るわよ」
「そう言う意味じゃないわよ」
まぁ、喜んでくれたなら何よりよ。ただ、かなりの食材を使ってしまったわね。これを毎日やると食費がとんでもないことになるから、少し節制しないとダメね。
それにソフィアもお姉様も前科があるから、食べさせすぎると制服着れなくなっちゃうからね。
朝のエリーのように。
「ねぇソフィア」
「なんですかお姉様?」
「ご飯の時、私も一緒していいかしら?」
「いいですけど、部屋で食べないんですか?」
「食べるけど、せっかくクリスがいるんだもの。手料理食べたいじゃない」
「分かりますわそのお気持ち」
これは量を用意するのが大変だわ。




