15 帰り道
*
ほぼ全員の教師陣と握手をして、解放されたのは呼び出されて二時間経った頃だった。
おやつの時間をすぎてしまったわね。ソフィアが怒り狂ってなければいいけど。
まぁ、得るものもあったから全然いいんだけどね。ただ、ソフィアにはなんて説明しようかしら?
校舎から寮へと歩いているんだけど、生徒より、使用人さん達の方が多く見かける。まぁ、普通なら授業している時間だものね。今日は上の学年も授業があるのかは知らないけれど。
そんな時、ちょっと懐かしい人物に出会った。
「あれ、ディンゴちゃんじゃない」
「あら、クリス…………様」
「言いにくいならいいよ。どうせうちの使用人達も敬称じゃなくて名前の一部として呼んでるから。クリスサマーってな感じで」
「ふふ…なによそれ」
少し見ないうちに大人っぽくなったなぁ…。私より背が高くなっているし、色っぽい。
「ディンゴちゃんがいるってことは。レオナルド殿下のお付きで?」
「そう。今は街で買い出しの帰りよ」
「へぇ。大変だねぇ」
「そうでもないわよ。みんなで分担してやっているし」
「そうなんだ。あれ、残りの二人って誰? 私の知ってる人?」
「シャリオさんとディオンさんって人」
「分かんない」
「シャリオさんは会った事あるでしょ? 厨房でお菓子作ってた大柄な人」
あぁ、あの人そんな名前だったんだ。料理長共々絶対に働く場所間違えてるでしょってくらい歴戦の猛者感あったのよね。テロリストに占拠されても奪還できそうなくらい強そうだったなってのは覚えてる。
丸太のようなふっとい腕していたし。そんな人が、細かな工芸菓子とか作ってたんだよね。プラモデルとか好きそうだなって思ったんだけど、結構無口だから話す機会もあんまりなくて、名前も知らなかったのよね。
「で、そのディオンさんってのは?」
「その人は元上級メイドの人で、あっ今は上級も下級もないんだけど…」
「それは知ってるわよ。当事者だもの」
「そうよね。で、辞めずにそのまま残った人なんだけど、めちゃくちゃお酒飲むのよ。サガさんやウィラさんと意気投合して朝まで酒盛りするくらいの人よ」
なんかその人とは仲良くなれそう。というか、サガさんとかウィラさん相変わらずなんだな。元気そうで何よりだわ。
「でもなんでそんな人が、レオナルド殿下のお付きに?」
「私含めて護衛だからよ」
ディンゴちゃんから意外な言葉が出て来たわね。
「私ね。あれから頑張ったのよ。今なら五メートルまでなら的の真ん中に当てられるようになったのよ」
何気に凄いんだけど。それほどの精度ならそれ以上先まで投げられるんでしょうね。王妃様専属にもなるとどんどん人間離れしていくのね。
「それで、その技術を教えてくれたのが、ディオンさんなのよ」
ただの酔っ払いだと思ったら凄い人だったわ。じゃあその人も裏側の人なんだね。
「ディオンさんは一気に十本のナイフを的確に当てるのよ。あれが今の私の目標」
うっとりしながら言ってるけど、物騒な目標だなぁ。私のディンゴちゃんが遠くに行ってしまった気分になるわ。
「ちなみにシャリオさんは調理担当で、ディオンさんが洗濯。私が掃除。まぁみんなで手伝いながらやるんだけどね」
さっきの話聞いてたら物騒な話題にしか聞こえないや。
「そういえば、私とそんなに歳変わらないんだから入学すれば良かったのに」
「いやぁ、私そんなに頭良くないし、それにこうしてクリスの制服姿見れるだけで満足よ。本当に可愛いわ。お持ち帰りしたいくらい」
「あ…ありがと」
聞かない方が良かったかな。お持ち帰りされると、レオナルドの所へ速達で配達されちゃうからそれだけは阻止するけどね。
「じゃあ、私そろそろ行かないとだから。たまには遊びに来てね」
「うん。分かったわ」
男子寮と女子寮とを隔てる道の真ん中でディンゴちゃんと別れようとしたところでディンゴちゃんが振り返る。
「そういえば、今更なんだけど、ちゃん付けやめない?」
「え、何で?」
「だって私が呼び捨てになっちゃうのに、クリスはちゃん付けっておかしいじゃない。それに恥ずかしいし…」
うーん。でも……。そうだね。対等に接するなら仕方ないかな。ディンゴちゃん……いや、ディンゴも私以上に成長しているんだものね。
「分かったわディンゴ」
「うんそれでいいわクリス様」
「ちょ、私がやめたのに、そっちが後付けするのはずるくない?」
「いや本来これが正しいでしょ」
そう言って不敵な笑みを見せて去っていった。
ディンゴちゃんはもうちゃん付けのままでいいよね。




