13 みんなでランチ②
「ちょっと待ってください。今聞き捨てならない事を言いましたね?」
「何よ」
食事中にソフィアが何の気なしにルームシェアしているという話になって、レオナルドが待ったをかけた。
「え…それなら、私とクリスは婚約者なんですから、私と過ごすのが正しいのでは?」
「ざーんねんでしたー。クリスは女子寮にいるから相部屋できませーん。それにー、一回申請したら変更は出来ないのよー。校則に書いてあるでしょー。王子様がルール破るなんて出来ませんよねー?」
ソフィアが煽る煽る。レオナルドがかわいそうになってくるくらいだわ。
「でも、一年に一度ですよね? 来年はどうなるか分かりませんよ?」
「無理でしょ。女子の制服着てたら女子寮。男子の服着てたら男子寮なんだから」
そのルールも相当おかしいけどね。まぁ実際うちの領の男子の殆どが女装してるし、他の領でも相当数いるから仕方ないのかもしれないけど…。
「な、ならば私も…」
「もう振り分け済みだから無理でしょ。今頃変えたらら問題じゃない」
「くっそぉ………くっそぉおおっ……」
本当に悔しがっている。両手で握りしめたナイフとフォークがガタガタと震えている。
そんな事罵り合ってないで、早く食べちゃいなさいよ。冷めるでしょ? ただでさえソフィアは頼んだ料理の数が多いんだから。テーブルの三分の二以上占有してるから、私のところが狭いんだよね。
「ねぇクリス」
「何?」
「それ美味しそうね。どんなの?」
「あぁこれ? 若鶏のハチミツ焼き。美味しいわよ」
「へぇ……。ねぇ、一口ちょうだい。私のもあげるからさ」
「いいけど。はい」
お皿の横に切り分けて置いておく。
「違うわよ。食べさせて。あーん……」
「仕方ないなぁ。はい、あーん」
「んー! 柔らかくてジューシー。……ルームシェアしてるとこういう事も出来るんですのよ。おほほほほ………」
ルームシェアは関係ないと思う。
「未だ嘗てこんなにソフィアを恨めしく思ったことはありませんよ」
「それはどうも。ふふふふ…」
やっぱりソフィアって悪役令嬢向いてるんじゃないかな? 性格ねじ曲がって千切れてるもん。
そういえば、こんな事してたらマーガレットも騒ぎそうだなと思ってマーガレットの方を見ると、スプーンを握りしめたまま、目をパッチリと見開いてずっと凝視していた。怖い怖い怖すぎるわ。女の子がしていい表情じゃないわよ。
流石に見かねたのか、両サイドのエリーとアーサーが止めさせようとするが、ノールックで手をぺしんと叩き落としていた。
「クリスっていつもこうなの?」
「割と日常茶飯事よ。カリーナちゃんも慣れないと気疲れするから、あんまり相手にしなくていいからね」
「う…うん……」
そういえば、ウィリアムも静かだなと思ってたら、自分の食べている料理をいろんな角度から見たり、分解したり、考えながら食べている。口に含んではうんうん頷いてるしどうしたのかしら? 自炊するレパートリーを増やそうとしているのかしらね?
まぁ勉強熱心なのはいいけど、ウィリアムのミックスフライがバラバラなんだけど。ちょっとやりすぎじゃないかしら?
レオナルドが「私にも一口ください」と言ってくるし、マーガレットも「ソフィアお姉様、私にも食べさせてください」と言い続けてるし。エリーはエリーで次から次に料理を注文するし、大変だわ。
「はふはふ……ふーふー……はむ………もきゅもきゅ……はふーはふはふ……」
私はテオドールたんが一生懸命食べている姿を見て現実逃避しましょ。今だけはテオドールたんで癒されたい。
はたから見たら絶対に貴族に見えないわね。もしそう見えたんなら世の中の貴族は相当マナーがなってないわね。
お昼ご飯を食べ終え、学園に戻る。
中々レオナルドが解放してくれなかったが、エリーが一緒にいると言い出したらあっさり去っていった。
今度からエリーをSPとして雇おうかしら?
そんな事を考えていたら、教師の一人に声を掛けられた。
「あの…あなたがクリスティーヌ・オパールレイン嬢ですか?」
「はい。そうです」
「申し訳ないんですが、職員室まで来ていただいても宜しいですか?」
「えっ!」
「ちょっとクリス、入学早々何やらかしてるのよ」
「いや身に覚えが無いんだけど……。あの、私何かやっちゃいました?」
「詳しい話は職員室でお話しします。皆さんお待ちですので急ぎでお願いします」
「えぇ……」
他のみんなもマジで何やらかしたって顔で見ている。私が知りたいくらいよ。だって今日入学したのよ?
もしかして、女装しているのがバレたのかしら? でも、私だけって事はないし……。
「分かりました。……じゃ、行ってくるから」
「うん。夕食前には帰ってきてね」
「え、えぇ…」
なんかそういうこと言われると気がまぎれるわね。




