10 男子三日会わざれば①
*
「(そういえばさっきのってどうだったの?)」
「(あやしいおじさんがいたので捕まえて引き渡しました)」
「(そう。ご苦労様)」
メアリーはメイドの仕事は出来ないけど、こういった事は迅速に対応出来るから、好き勝手やっても怒られないのよね。最近はご褒美にお菓子をあげないと不貞腐れちゃうから後で何か作ってあげないとね。
というか、そんな怪しいおじさんが入り込むなんてソフィアご自慢の警備システム意味ないじゃないのよ。
「ではいってらっしゃいませ」
「うん行ってくるわ」
大勢のメイドさんに見送られながら四人で部屋を出る。
カリーナちゃんは慣れてないのか、一緒になってペコペコしていた。いつもクールビューティなカリーナちゃんが赤面しているのはなんかそそるわね。
「マーガレット、リボンが曲がっているわよ。あと、ここ捲れてるわ」
「あ、ありがと…」
マトリカリアさんが、マーガレットの制服を直していた。
それを見てソフィアが私を上から下まで見て、さらには後ろに回り込んでくる。犬かな?
「直すところがない……」
一体ソフィアは何を期待していたのかしら?
寮を出て校舎までの通りに出る。寮へ行く人は少なくなっているけれど、逆に寮から出てくる人は多いので、さっきみたいに見失わないよう気をつけないとね。
しかし、本当に人が多いわね。ここまで多いのはこの世界に来て初めてかもしれない。
そこで道の向こうからいろんな人に囲まれている人物が、こっちに気づき歩いてきた。
「クリス………」
「ご機嫌よう。レオナルド殿下」
「っ……!」
だってこんな公然の場所で愛称呼びできる訳ないでしょ。というか、レオナルドもちゃんとやってくださいよね。
しかもこんな往来のど真ん中で目立ってしょうがないわ。用があるなら手短にお願いしたいわ。
そう思っていたら、バッと頭を下げるレオナルド。
「!? ちょ、何で頭を下げているんです? 王族ともあろう者が簡単に頭を下げちゃダメですよ」
「いや。私はクリス……クリスティーヌ嬢を傷つけてしまった。こんな事で許されるとは思ってないが、どうか謝罪を受け入れて欲しい」
どんどんと人が集まってくる。
「わ…分かりましたから。頭を上げてください」
「本当に? 今まで通り接してくれるだろうか?」
「はい」
「そうか…(クリスは優しいな……)」
こうしてはにかむ様に微笑むとホント王子様って感じでドキッとしちゃうわね。
「ところで、クリスも家の都合で大変だと思うけど、体を大切にして欲しい」
「はい?」
急にどうしたんだろう。
「その…クリスは年頃の女性なんですから、もう少し気をつけてください。クリスはいつも油断して捕まってしまうんですから、子供の作れない身体になったら大変ですよ」
「ん?」
「しかし、よくあんな責めに毎回耐えられますね。私なんてとてもとても……」
あの…何の話をしているんです?
「そうそう、あの落とし穴ですが、ああいうのは王国内に沢山あるんでしょうか? 他の方々が被害に合わない様排除しないといけません」
本当に何の話をしているんですか? 周りの人達も頭に?マークが付いているわ。
「たまに飲み込まれてしまう事もあるようですが、ちゃんと無事に帰ってきていただいて何よりです。クリスがやらなきゃいけないのは分かりますが、もう少し危機感をもって取り組んでください。いなくなったら嫌ですからね」
あぁ…。何となく分かってきたけど、これをこの場で指摘なんて出来ないわね。周りの何人かは気づいてうんうん頷いたり、微妙な笑顔になってたりする。
「ちなみになんですが、穴に落ちた時、何にも感じないんですか? おかしいと思わないんですか? いつも手遅れになってから気づいてますが、毎回落ちているんです。学習してください」
前言撤回。レオナルドは明らかに薄い本の内容を現実のものとして話しているわね。
触手穴なんて現実にないんだから、学習の部分はそのままお返ししたいわ。
ただ唯一の救いは、エロ目線で読んでない事ね。
ただまぁ、ぎこちない感じが無くなったのはいいかな。ずっとギスギスした感じだと疲れちゃうしね。
「もし、今度ああいう事をしないといけない時は私を呼んでください。必ず守ってあげますからね」
「えぇ」
物凄く男らしい事を言うので、急にキュンとなってしまった。まぁ流石にレオナルドを呼ぶわけにはいかないけれど、一応了承の意を示すため軽く微笑んで返した。
「ところで何故か微妙な空気になっているんですが、これは一体……」
レオナルド殿下はもう少し空気が読めるようになるとグッドだとおもいます。まる。
「そ、それとですね…」
「はい。なんでしょうか」
今度は一体どんな的外れな事を言うおつもりかしら?
「その…制服姿とっても似合ってますよ。凄く素敵です」
「あ…ありがとう…ございます……」
いきなり褒めてくるから反応が遅れたわ。
「やっぱりクリスは……」
「はい?」
「いえ、何でもありません。素敵な学園生活にしたいですね。では、私は先に準備がありますので、これで」
そう言って、片手を上げて王族特有の作り笑顔でキラキラを振りまきながら颯爽と去っていった。
「女々しいわねぇ」
ソフィアが切り捨てるように言う。言い得て妙よね。
しかし、何か思うところがあったのか、吹っ切れたようにも見える。今まで通り接して欲しいとの事だけど、婚約はどうなるんだろうか? そこだけが心配だわ。




