09 まずは寮に行こう②
一階奥に二基のエレベーターがあった。もう何も突っ込むまい。
後ろから着いてきたメイドさん達と一緒にエレベーターに乗る。
『ブー』
「あら、定員オーバー?」
私とソフィア。そしてそれぞれ三人ずつのメイドさん。あと荷物があるけど、この大きさのエレベーターで、八人で定員オーバーになるとは思えないんだけど…。
「やっぱり誰か体重が重いんじゃ」
「私じゃないわよ!」
「私ではありません!」
「私は重くないですよ」
ソフィアとメアリーとシフォンさんの三人が心当たりがあったのか、一斉に否定する。
「もう片方に乗ったら?」
もう一基あるからそっちにすればと提案する。
そして、そっちの方に乗るとブザー音はならなかった。
「あー良かったぁー」
ほっと胸を撫で下ろしたソフィア。
「(メアリー、確認してもらってもいいかしら?)」
「(かしこまりました)」
『チン』
目的の階に到着したようだ。針が示すのは四階だった。
「ほら、ぼうっとしてないでいくわよ」
「う…うん」
ソフィアに連れられて歩く。エレベーターを出て右。突き当たりを真っ直ぐ行った一番奥の部屋の扉を開けた。
「ひっろ……」
これメイドさんと四人で暮らすには広すぎないかしら? もしかして自慢するためにいの一番に見せに来たのかしら? でもソフィアに限ってそんな事しないだろうし…。謎だわ。
「どうかしら?」
「うん。凄いね。でもソフィアのところのメイドさんと四人で暮らすには広すぎない? それともこういうもんなの?」
そう言った瞬間に目をパチクリさせるソフィア。
そして、「言い忘れていたわ」と言って右手で部屋を大きく指し示した。
「私とクリスの部屋よ?」
「えっ!」
「だからぁ、私とクリスの部屋よ。ここで私と三年間暮らすのよ」
思考が追いつかない。何で私とソフィアが同室なの? 男と女よ一応。確かに見た目は美少女だから忘れている可能性もあるかもしれないけど。
「ここを作るときにね、将来入学するから、学長さんの許可とって自分用の部屋を作らせてもらったの」
「そんな事していいの?」
「だって施工主だし。それにほら、私公爵家の娘だし。王族の次に好き勝手できる存在じゃない?」
「そういう事自分から言わない方がいいよ?」
「まぁ、一応気を使って四階にしたんだし、他の生徒はほぼほぼ個室だもの。私達は相部屋よ」
ものは言いようよね。ちなみに、この一つ上の五階は王族と公爵家用の広い部屋があるのだそうだ。
そしてお姉様が生徒会長権限とか言ってそこの部屋を使っているんだそうだ。
しかし、何で相部屋なんだろうね?
ソフィアが後ろに手を組んでもじもじしながら口を開く。
「私の為に毎日味噌汁を作って欲しいな」
なるほど。分かったわ。毎日のご飯の心配をしているのね?
何故かプロポーズみたいな言い方をしているけど。
ソフィアのところのメイドさんでは、満足のいくご飯が食べられないと危惧して、こういう手の込んだ事したのね。……全くソフィアらしいわ。
「いいわよ。ご飯くらいいくらでも作ってあげるわ」
「何か噛み合わない気がするけど、まぁ良かったわ」
「毎日クリス様のご飯が食べられるんですね」「勉強になります」
メアリーとシフォンさんがそれぞれ喜んでいる。あなた達の分も作るけど、自分でも作りなさいよね?
「あ、うちのお父様とお母様もクリスによろしくって言ってたのよ」
なるほど。合点がいったわ。つまり、ソフィアに好き勝手やらせないよう監視してね? って事よね?
この前だって爆発騒ぎを起こしたばっかりだし。学園の寮を吹っ飛ばしたら、それこそ大事になるものね。この上の階は王族は居ないけど、別の公爵家の方が居るんだもの。そりゃあ危機感持つわよね。
「何でそんな生暖かい目で見るのよ」
「いや別に…」
そんな時、コンコンとノックの音がしたので、メイドのステラさんが扉を開けに行った。
「ソフィアお姉様ー」
来訪したマーガレットが私とソフィアの間にぐいぐいと割って入ってきた。
「わぁ。流石はソフィアお姉様のお部屋ですね。広いですねー」
「貴族様の部屋だとこんなに違うんですね……」
マーガレットと一緒にカリーナちゃんも一緒に来たようだ。仲睦まじくていいね。
マーガレットは男爵家。カリーナちゃんは裕福な商家だけど一般人枠。部屋の大きさも豪華さも違うのかな?
「何言ってるのよ。私とクリスが一緒に住むんだから、このくらいの部屋の広さは必要でしょう?」
「ん?」「え?」
ソフィアの何気ない一言に二人とも固まる。
「え? ルームシェアしていいんですか?」
「そりゃあ、申請すれば出来るわよ」
「じゃあ、私もソフィアお姉様と相部屋が良いです! ルームシェアしたいです!」
「えっ…」
まぁそりゃそうなるよね。
「(ほら、あんたも言いなさいよ。上手くいけばワンチャンあるわよ)」
「!?」
何やら二人でコソコソ作戦会議をしている。
「わ、わぁー…私もおー、いっ…一緒にい住みたいなあー」
下手くそか! 未だかつてこんな酷い演技見た事ないわ。
「うーん………」
ソフィアが腕組み考えている。
「二人きりになれないのは仕方ないけど、賑やかな方がいいものね。分かったわ。部屋もいっぱい空いてるし」
「やたー! ソフィアお姉様大好きー」
「はいはい。あ、あなたも一緒にどうぞ」
「あ…ありがとうございます……」
両手を上げて喜ぶマーガレットと、恥ずかしそうに喜ぶカリーナちゃん。男二人、女二人で丁度いいのかしらね?
でも、相部屋申請が出来るなんて知らなかったわ。私も一人部屋だったらテオドールたんと二人で暮らしていたかもね。
「先に手を打っといて良かったわ」
「ん? どうかしたソフィア」
「何でもないわ。じゃあ、荷物を置いたら入学式会場に行きましょうか」




