08 まずは寮に行こう①
「うっわ…凄い……。これが王立アルマース学園……」
右を見ても左を見ても延々と続く壁。そして、その壁の向こう側が全く見えない。かろうじて屋根の一部が見えるくらいだ。毎日寮から校舎まで歩くのでいい運動になるんじゃないかしら?
生徒がみんな正門から入っていくのを見て、私達もそれに倣って入る。
「ちょっとクリスどこ行くのよ」
「え? こっちなんじゃないの?」
「まず、荷物を置くのが先でしょう? 案内状にもそう書いてあるし、入学式の時間もまだまだ先よ?」
「そうなんだ。そこまで読んでなかったわ」
私以外のみんなは寮がある方へ行こうとしていた。職員の人が何人か矢印のある看板を持って案内していた。どおりで向こうに行く人の荷物が鞄とかバッグな訳だわ。
荷物抱えて入学式どうするんだろうと思っていたけど、なるほどね。あっちに歩いてく人は寮に荷物置き終わった人達なのね。
お姉様でさえ、寮の方へ向かっていた。そりゃそうか。三年目だものね。
というか、知っているなら事前に教えてくれても良かったのではないですかね、お姉様?
ソフィアの後について寮の方へゾロゾロと歩きながらついていく。
「ねぇソフィア…」
「はい?」
「あ、ごめんなさい。間違えました」
「いえ…」
軽く会釈して謝る。
金髪の人の後をついていったら別人だった。制服着て同じロングの金髪だと間違えちゃうわ。
「クリス、こっちよ。何やってんの?」
「間違えて付いてっちゃて…」
「間違える要素ないわよね?」
「人が多くてつい…」
だって金髪ロングの人多いし、背格好もみんな似通っているし、おんなじ制服だから、こんなに人が多いと間違えちゃうわよ。しかし、いつの間に見失っていたんだろうか? 普段ならこんな事ないのに。
後ろで私のメイドさん達が呆れた顔で見ているけど、指摘してくれてもいいんじゃないかな? あなた達だって一緒に着いてきたんだからさ。同罪じゃない?
「失礼ね。こんなに可愛いソフィアちゃんを間違えるなんて最低よ」
自分でちゃん付けしたソフィアちゃんは、私の手を取って歩き出した。心なしか、顔が朱い気がする。きっと私が間違えた事で怒ってしまったのね。
「もう、クリス? 私は間違えないからね?」
まぁ、水色の髪の毛の人は少ないからね。分かりやすいよね。
何故が半眼で睨めてくるソフィアは、「はぁ…」とため息を吐くと、軽く額にデコピンをした。
「いたっ! ちょ、何するのよ」
「また思い違いをしてそうだから」
「?」
その意味する所がわからないまま、手を繋いだまま寮内へ入っていった。
南欧風の外観と同じく、中は白を基調として、橙、茶、黄色とおしゃれな作りだ。まるでホテルの様。観葉植物もそんなにいる? ってくらい置いてある。
寮内の玄関口はやたらと広く、どこぞの貴族のお屋敷のホール位広かった。
お陰で、入口で呆然と突っ立っていても邪魔にならなかった。これ、間違ってホテル建てた訳じゃないわよね?
「あのーソフィアさん?」
「クリスがさん付けする時は、質問がある時よね。で、何?」
「広すぎない?」
「狭いよりはいいでしょ。それにそれっぽいでしょ」
まぁ、確かに乙女ゲームの舞台感はあるわ。
そういえば、部屋はどこなんだろうと、周りを見ると、寮のコンシェルジュみたいな人が何人か案内と部屋の鍵っぽいのを渡していた。なるほど。
「ソフィア・アンバーレイク様、こちらがお部屋の鍵になります」
「ありがとう」
「いえいえ、ご満足いただけたら何よりです」
何だろう…。どこか含みのある言い方だ。
「ふふ…。じゃあクリス行きましょうか」
「え、待って。私貰ってないんだけど」
「大丈夫よ。ほら」
ソフィアの手には鍵が二つ握られていた。
「どうしてソフィアが私の部屋の鍵を?」
「いいからいいから。着いてきなさい」
釈然としないながらも、後を着いていく。
そこで、ふと自分の性別を思い出して、慌ててソフィアに尋ねる。
「あっ! ソフィア、ダメよ」
「え、何が?」
「ここ女子寮じゃない」
「あぁそんな事」
「そんな事って、バレたら大変でしょ。あっち行かないと」
「だから、気にしないでいいって。クリスはこっちだから」
「何で言い切れるのよ」
「女子の制服着てる子はこっちだから」
「は?」
「だから、女の子だろうが、男の娘だろうが、女子の制服着てたらこっち。逆に女性でも男装してたらあっちなのよ」
いいんかそれで? 何か問題があったら大変よ。
「もぅ。そんな不安そうな顔しなくていいわよ」
ソフィアが指差す方を見ると、監視カメラがあった。
「部屋の中はないけど、廊下とか共用スペースには付いてるし、外にもあるわ。それに優秀なコンシェルジュや警備員もいるから大丈夫。もし、入ってきたら校則に則って退学&逮捕からの牢獄コースよ」
そう上手くいくわけないでしょ。そう思ったが、ソフィアの自信満々な態度を見て、余計不安になったのだった。




