99 番外編26 残念なレオナルド
あれからずっと考え事をしていて、クリスの所へは行っていない。私に付き合わせるようで申し訳ないが、リアムにも我慢していただいている。
早く答えを出さないといけないなとずっと考えていたが、ずっと平行線のままだ。
何か思い違いをしていないか、何回目か分からないあの日の事を思い出していた。
あれから大分経ちます。少し客観的に見られるかもしれません。
…………………………。
腕組み目を閉じ瞑想する。クリスの裸体を頭に浮かべる……。
「もしかしたらクリスは本当に女の子であの体液を浴びた事によって男になった可能性が……いや、エリーは男……いやエリーもああ見えて女の子なのでは? リアムはどう思います?」
私の前でキュアキュアショーのパンフレットを見ていたリアムに問いかける。
パンフレットの表紙にはお母様と小さな少女が二人ポーズをとって写っている。
というか、クリスの所に行かないだけで、結構いろんな所へ行ってますね? 私がこんなに悩んで困っているというのに。
そんなリアムは、チラとこちらを見るとなんの事はないと言った感じで答える。
「エリーはエリーだろ?」
「?」
「で、ではテオドールは?」
「テオドールはテオドールだろ?」
「クリスは?」
「クリスはクリスだろ」
「あの……性別の話をしているんですが…」
「知ってるぞ」
「????????」
性別が名前の訳ないでしょう。
「で。では、私はなんです?」
「男だろ」
「ソフィアは」
「女だろ?」
「ではクリスは?」
「クリスだろ?」
「あぁもう!」
もういいです。おかしい事は言っていないんですが、話が通じません。同じ言語で会話してるはずですよね?
そもそもの話、クリスのがあんなに大きい訳がありません。あれは呪いです。私のより大きいのはおかしいです。……ですよね?
ここはやっぱり長い事一緒にいるリアムに確認してもらうべきでしょう。
「リアム、確認してもらってもいいですか?」
「何を?」
答える前にパンツまで一気に脱ぐ。
「お前何やってんだ?」
「私のを見てください」
「急にどうした?」
「ですから、私のこれどうですか? 大きくないですか?」
「普通だろ? てかお前、そういう事はしないほうがいいぞ?」
「ですが、クリスのを見てしまったんです。フェアじゃないなと思いまして」
まぁ、この場にクリスがいないので何とも言えませんが、両方見たリアムに判断していただきたい。
「あれは不可抗力だから、ノーカンでいいだろ? というか、他のやつもそれなりに大きいから、普通じゃね? テオドールのがレオより大きいしな」
「待ってください。え? あなた、テオドールのも見たんですか?」
「あぁ。ここの浴場を借りた時にな。意外と大きくてビビったよ」
何でしょうこの気持ちは。少し羨ましいと思ってしまいました。
いえいえ、私は一体何を考えているんですか。王族ともあろうものが◯ん◯んの大きさを気にするなんて…。
*
いつものようにレオナルドの執務室のソファで、話を聞いていたんだが、どうやら、悩みすぎて頭がどうかしてしまったらしい。
まぁ、それもこれも大好きな女が男だったからなんだが、それにしたって悩みすぎだろう。
俺も最初は信じられなかったけど、自分の中で折り合いをつけたし、別に友達が男とか女とか関係ないしな。
……。まぁ、実を言うと嘘なんだけどさ。俺だって、クリスの事好きだったし、レオナルドの婚約者だから、諦めてたんだ。それなのに、男だったから諦めるとか男らしくないよな。俺は一緒にいられればどっちだっていい。
だから、こうして悩んで諦めようともがいてるレオナルドに助けを出さない俺は卑怯かもしれない。
そう思っていたんだが…。唐突にズボンとパンツを脱いで見てくれと言い出した。
俺にそんな趣味はない。野郎の股間には興味はない。
元々アホだなとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。深く考えずに適当にあしらっていたら、どうやら失言してしまったらしい。
フルチンのレオナルドがそのままソファに座り、よりくっきりと丸見えになっている。
「おい。パンツくらいは履けよ」
「そうですね」
こんなところを他の人に見られたら何て言われるか分かったもんじゃない。最近はそういうのが大好きというか、傾倒している女性も多いと聞く。
なんとか、誰かが入ってくる前にレオナルドはパンツとズボンを履き直した。シャツが少し出ているのに気付いてないが、そこは別にいいだろう。
「そういえば、気になって資料を読み漁っていたんですが…」
「何を調べていたんだ?」
「はい。私はクリスに助けてもらった事があるじゃないですか」
「そういえばそんな事もあったな」
「えぇ。それに、オパールレイン家の方々はそういった事に遭遇する事も多いようですし、気になって調べたんです。そしたら何と、私が知らないだけで、いろんな事件に巻き込まれている事が分かりました。これは由々しき事態ですよ!」
鼻息荒く衝撃の事実を口にするレオナルド。
確かにそういった事に巻き込まれているなと感じることはあるが、そんなに多くの事に関わっているのだろうか? それも事細かに資料になんて残すのだろうか? 半信半疑で話を聞いていく。
「その資料ってのは、そんな詳細に書いてあるのか?」
「はい。短いながらもかなりの冊数描かれていました」
何かニュアンスが違う気がするが、ここで突っ込むと話が進まないので黙っている。
「そして、衝撃の事実なんですが……」
「衝撃の事実……」
随分と勿体ぶって言うな。
「それには、クリスが闘っている様子が描かれているんですが、男だったり、女だったり、はたまた両性具有だったりするんです」
「ん?」
話がおかしい方向にいったぞ?
「つまりですね、クリスは戦っている時に、敵の攻撃やら呪いによって男や女に性別が変えられたりしているようなんです。何となくニュートラルだなと思ったのですが、毎回ああも敵から攻撃を受けていればそうなるのもやむなしかもしれません」
「その資料って何だ?」
「こちらです。どれもこれもクリスが大変な目にあっており、クリスの今までの過酷な任務のレポートなのではと思いまして」
執務机の上にあった大量の冊子を抱え、テーブルの上へ置いたレオナルド。なるほど準備がいいな。
置かれた冊子の山の一番上にあった本の表紙にはあられもない姿のクリスが描かれていた。本の片隅には『R18』と記載があった。
「……………………………………………………………」
「一体クリスは何と闘っているんでしょうか? 結構似たような敵と戦っているんですよね。いろんな種類や形状がありますが、触手を持つ生物だったり、スライムだったり。あ、悪そうな人とも戦うんですが、その時は機械と闘っていましたね。しかしクリスも毎回油断しすぎですよ。毎回捕まってしまうんですから、次会った時には注意しないといけませんね……ってリアムどうしました?」
「……いや………うん。なんでもない…………」
いつも以上に饒舌だな。まぁ、そんな事はどうでもいい。これはレポートじゃない。エロ同人誌だよ。
何でこんなピンポイントにクリス本だけあるんだ? 他にもあるだろうに。恐らくだけど、あのサヴァとか言うメイドが持ってきたんじゃないだろうか?
レオナルドに真実を告げるべきだろうか悩む。
俺だって、レイチェル様やエテルナ様の本を何冊も持っているし、何ならここにあるクリス本のいくつかは持っていて、大変お世話になっている。
これをエロ目線で読んでいないと言う事に大変驚かされる。
「聞いてますか?」
「え? あぁ…すまん。聞いてなかった。で、何だ?」
考え事をしている時に、何かを言っていたようだ。
「つまりですね、クリスは今回、ドラゴンの体液によって男に変えられてしまった訳です」
「お…おぅ……」
「ですから、いまは仕方なく男なんだと思うんです。いつ戻るのかは分かりませんが……」
いやー……、そんなファンタジーな訳ないじゃん。男だよクリスは。まぁ、そんじょそこらの美少女より美しくて可愛いけど、残念ながら◯ん◯んが付いてるんだ。
クリスの欠点を挙げるならそこだけなんだよ。それ以外は完璧に美少女なんだよなぁ………。
………………俺も何考えてるんだか。
「そこで、思ったんです」
「何を?」
「たまたま男になってしまったクリスに謝りたいと」
「そうか」
「えぇ、ですから今から謝罪に行こうと思うんです」
「それは無理だろ」
「何故です?」
こいつずっとエロ同人誌読み耽ってて忘れてるんだろうな。というか、一年以上あったのに悩みすぎだろう。
「明日は学園の入学式だぞ?」
「え?」
「新入生代表のスピーチの文章出来てるのか?」
「スピーチ?」
「あと、学園に通うのに準備とか出来てるのか?」
「準備?」
こいつ大丈夫か?
「もしかして、制服とかまだ作ってないのか?」
「あぁ………………」
ホント大丈夫なのか? もうお昼になるってのに、急いでやらないとマズイんじゃないだろうか?
「でも、クリスに謝るのは…」
「ここまできたら、それは明日でも明後日でもいいだろ? というか、その同人誌読んだってのは、絶対に言うなよ?」
「そうですよね。極秘文書ですからね。これは墓まで持っていきます」
まぁ、大抵の人にとっては隠し通したいモノだけどな。
正直、レオナルドの部屋の等身大フィギュアや三倍デカイぬいぐるみとかが部屋にある方が異常だよ。クリス一色のあの部屋も口外しないように言っておかないと、絶対に結婚なんて出来ないだろう。
「私がどれだけ、クリスを愛しているのか私の部屋を見せて信じさせてあげたいですね。ここに滞在中は何故かメイドたちに止められてしまって出来ませんでしたので」
「それは、そのメイドさん達が正しい。本人の前では絶対に言うなよ」
「どうしてです?」
どう言ったものかな?
「愛が重いと逃げられるぞ?」
「なるほど…。なるべく隠すようにしますね」
分かってるんだか分かってないんだか分からないな。
「でも明日から学園ですか」
「そうだぞ。クラス分けの簡単なテストもあるしな」
「! もしかして、クリスとは別々のクラスになる可能性もあるって事ですか?」
「そりゃあ、点数次第ではあるだろう」
ま、俺は諦めてるけどな。
「こうしてはいられません。リアム勉強しますよ」
「今から?」
「そうです。あぁ、何で今の今まで忘れていたんでしょうか」
エロ同人誌読み耽っていたからだろ? かなりの数あるもんな。
その後確認したところ、明日の準備は王城のメイド達がやっていたようで、スピーチ以外は全て手筈がは整っていたのだそうだ。
「スピーチですが、将来結婚式で話すような内容でいいんですかね?」
「いい訳ないだろ?」
どうしてこいつはクリスが絡むとアホになるんだろうな?
次回から6章になります




