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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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98 番外編25 クリスの付き人選定


 「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。第n回メイド会議を始めさせていただきます」

 「第n回って、メイド長ついに何回やったか忘れちゃったんですね」

 「…………なるほど。ミホ、あなたは選外です。良かったです。自ら辞退していただいて」

 「なっ! そんなこと言ってないですよ」

 ミホと呼ばれたメイドはいつもように軽口を言っただけなのだが、議題が始まる前に何らかの候補から外されてしまった。

 「バカですね。メイド長の横にメアリーがいる時点で気づかないといけませんよ。まぁこれで、私が選ばれる可能性も出てきた訳ですからお礼を言っておきます」

 「ぐぬぬ…」

 会議が始まる前に不穏な空気になり、所々で雑談が漏れ聞こえてきた。

 「静かにしなさい」

 メイド長ことアンジェの一言で一斉に室内が静かになる。

 「よろしい。では、本日の議題ですが…」

 やたらともったいぶった言い方をするアンジェ。

 「今年、クリス様は王都の学園へご入学されます。……そうです。つまり、クリス様のお世話をするメイドを三人選出いたします」

 その言葉に再び室内はどよめきだす。

 「今回は特に慎重にならざるを得ません」

 「メイド長ー、それはどう言う意味です?」

 「はい。ルイス様、サマンサ様の時と違い、立候補者が圧倒的に多いと言うことです」

 「確かに……」と皆が頷きながら呟く。

 「場合によっては死人が出るかも…って事ですか?」

 「そうなります」

 再び室内がどよめき出す。

 「まぁ、三人ではなく、二人ですけどね」

 そう言ったのは、椅子に深く凭れかかったドヤ顔のメアリーだった。

 「それはおかしくない?」

 「おかしくなんてありません。なぜなら、私はクリス様の専属メイドです。これ以上の人選がありますかぁ?」

 尚もニヤつきながら煽るメアリー。

 「異議あり! メアリーは確かに専属だけれども、メイドの仕事は出来ません!」

 「そうです。一緒に付いていっても、クリス様に迷惑を掛けるのは分かりきっています」

 「更に言えば、メアリーのお世話係を選ぶようなものです。メアリーは外すべきでしょう」

 「そうだそうだ!」という他のメイド達から上がる声に、たじろぎ動揺する。

 「なっ! なんて事を言うんです。私は確定ですよ。ですよねメイド長?」

 旗色が悪くなったメアリーは隣に座るアンジェに助けを求めた。

 「確かに皆さんの言うことはごもっともです。一理どころか百理ありますね」

 「なっ! め、メイド長それはあんまりです。私をクリス様と引き離すんですか?」

 「だったらちゃんとメイドの仕事してください」

 「してますよ?」

 「裏の仕事はカウントしません」

 「なぁっ!」

 「そもそも、メアリーはどうしてそこの席に座っているんです? まぁ、今更構いませんが…」

 「私は諦めませんよ…」

 机に両腕を置き、震えるメアリー。

 「メイド長」

 「はいどうぞモワさん」

 手を挙げたモワというメイドは立って話し出す。

 「サマンサ様の時は、サマンサ様が勝手に決めてしまい助かり……いえ、揉めることなく決まりましたが、ルイス様の時は決闘でお決めになりましたよね。今回もそれで良いのではないですか?」

 「それも考えましたが、その案ですとメアリーは必ず勝ちます」

 「……………」「ふふん」

 アンジェの回答に暗い顔になるメイド達と再びドヤるメアリー。

 「そして、最初にも言いましたが、死人が出る可能性があります。何せ、あれから大分経ちます。肉体的に衰えた方や、新人もいます。なので、今回は話し合いで決めようと招集したのです。尤も…呼んでない方も数名おられますが……」

 「あら、いいじゃない」

 なぜかメイドの格好をしたキャロルが言う。

 「キャロル様はその……」

 「そんな言われなくても分かるわよ。面白そうだったから参加しただけよ」

 「それなら良いですが」

 「代わりに私のメイドはどうかしら?」

 そう言って紹介したのはキャロルがオパールレイン家に嫁ぐ時に付いてきたメイドのアルトとザムだった。

 「条件に合えば選びましょう」

 「だそうよ。頑張りなさい」

 「はい!」「男の娘の主人(あるじ)(じゅるり)」

 オパールレイン家のメイドに負けず劣らず個性の強いメイドだ。

 「では、そちらも同じく見ているだけで宜しいんですね?」

 「あら…。私は一緒について行く気満々よ」

 「いやいや。うちらも一緒にクリスっちについて行きたいっしょ」

 「そうですそうです」

 「勘弁してください…」

 アンジェが顳顬(こめかみ)を抑えながら見る先にいたのは、メイド服に身を包んだレイチェルと、エンジェルシリカ領から移籍したクオンとプロフィアだ。

 プロフィアがちゃんとメイド服を着ているのに対し、クオンがギャル風にメイド服を改造していた。最早原型はない。

 「クオンとプロフィアに関してはいいですけど、レイチェル様は冗談でもそう言うこと止めてもらってもいいですか?」

 「何よーいいじゃない。エテルナ様だってついて行くかもって言ってたのよ。万が一、エテルナ様が一緒についていったらクリスが籠絡されてしまうかもしれないじゃない。ここは母親が守るべきよ!」

 「大丈夫です。そう言うことは起こりませんから」

 「言い切れるの?」

 「はい。断言できます。既にレオナルド殿下について行くメイドの名簿は頂いておりますので」

 「どれどれー」と言いながらアンジェの元へ来たレイチェルが覗き込む。

 「あら。これが本当なら大丈夫ね」

 「ですので、後ろで見学していてください」

 「それはそれ。これはこれよ」

 「……………………」

 怖い顔でレイチェルを見据えるアンジェ。

 「そんな怖い顔しないでよ。これはアンジェにとっても悪い話じゃないわよ」

 「それはどういう…」

 「よく思い出してみなさい」

 「?」

 「クリスの趣味よ。特にアンジェは見た目がクリスの趣味にドンピシャよ」

 「! 確かに…そうですね……分かりました。私とレイチェル様は確定ということで、あと一枠……」

 嫌な感じがするなと状況を見守っていたメイド全員が一斉にツッコミを入れた。

 「いやいや。それはおかしいでしょう」「ふざけんな!」「そういうの職権乱用って言うんじゃないですか?」「見た目だけなら私達だって出来ます」「ババアはすっこんでろ」

 「最後のは誰かしら?」

 「………………………………」

 「まぁ、そうですね。皆さんの言うことも尤もです。仕切り直しましょう」

 「えっ!」

 「レイチェル様はお戻りください」

 結局何も決まることなく振り出しに戻った。


 「そもそも話し合いで決まる訳ないですよね?」「私達に話し合いなんて無理ですよ」「せめて候補者を限定するとかしないと無理では?」「「「「「「それだ!」」」」」

 誰が言ったか、『候補者を限定する』という発言があってからは早かった。

 いくつかの条件を書き出し、それに準じない者には諦めてもらった。

 「くっ…。私がダメなら娘を…と思ったのですが…」

 「そういうのがあるから候補者を限定したんじゃないですかメイド長?」

 「返す言葉もございません…」

 

 その後、『ルイスのお付きで行った人』『既婚者』『勤続十年未満』『そもそもメイドじゃない』『女じゃない』の条件の人は選考から外された。

 最後まで残ったのは、メアリー、アマベル、エペティス、ロココ、ビシュー、プトマ、モワ、ザスター、シャインの九人だった。若い頃からいる為か、年齢の割にベテランばかりだ。

 ベルシックも条件には合うのだが、オパールレイン家の料理番を行かせるわけにはいかないとの事で選考外となってしまった。本人は燃え尽きた表情で虚空を見上げていた。

 アルトとザム、クオンやプロフィアは、ここに来てからの勤続年数が足らないとのことで選考から外れた。

 アリスとメタモは最後まで駄々をこねたが、条件に二つ引っかかり、最後は涙ながらに諦めた。

 「最初から参加する気の無いミルキーさん、マジカッケェっす」

 「私はルイス様一筋なので」

 他にも選考から外れた者は、一応の納得を示してくれた。一部を除いて。


 「やったわ。私残りましたよ!」

 飛び跳ねながら喜ぶメアリー。選外になった者からは、恨みがましい目で見られていた。

 「仕方ないっしょ。遊びに行けば会えるんだし」「くっ…メアリーの毒牙から救いたかった」「クリス様と結婚するチャンスが」「クリス様と四六時中いられるはずが…」「クリス様との新婚生活が…」「既成事実のチャンスが………」


 そんな中で一人、異議を唱える者がいた。

 「待って下さい!」

 「どうしたのロザリー?」

 「どうして性別が女に限定されているんですか!」

 「あなたねぇ…。女子寮に男がいたらおかしいでしょ?」

 「クリス様は男じゃないですか」

 「それはそうなんだけど……」

 「でしたら、私が選ばれてもおかしくありませんか? 昨今の風潮を鑑みるに一人は男でも問題ないはずです」

 条件から外されたことに、いつもは冷静なロザリーが異議を唱えた。

 「じゃあ質問させてもらってもいいかしら?」

 「どうぞ」

 「クリス様の専属になって、二人きりになったらしたい事って何?」

 「それはもちろんクリス様と兜合わせをする事ですよ。いつも拒否されますが、三年あります。必ず説得してみせます」

 「はい却下」

 「えっ…」

 「そりゃそうでしょう。まぐわらないだけマシだけど、そんな事考えていたなんてね。ロザリーは失格です」

 「そんな…」

 放心して床に頽れ、天を仰ぐロザリー。

 「それと、あなたにはやってもらいたい事があります」

 「……なんですか?」

 やさぐれた態度のロザリー。選ばれなかった事が甚だ不本意だと言う態度を崩さない。

 「ヴェイロンの事です」

 「あのドラゴンがどうかしましたか?」

 「あの子はクリス様に非常に懐いておられますが、学園へ連れて行くことは出来ません」

 「でしょうね」

 「なので、同じくらい懐いているロザリーに世話係を任命したいと思います」

 「へ?」

 その瞬間、「おめでとう」という言葉とともに室内全域から拍手と賛辞が送られた。

 「待って下さい。私はやるとは…」

 「これは決定です」

 ガクッと項垂れ諦めたロザリーはそのまま動かなくなってしまった。

 「ふぅ。ヴェイロンの世話係も決まりましたし、あとは三人選ぶだけですね」

 「どうやって選ぶんですか?」

 「ちょうど九人いますので、三組に分かれていただき、一人を選べば丁度三人になります」


 それからは、選考外になった者達はイベント感覚で楽しんでいた。

 全員が、庭に移動していて、テーブルに椅子を用意し、テーブルの上にはお菓子や軽食が置かれていた。観戦する準備は整っていた。

 厳正なるくじ引きの結果、アマベル、ロココ、モワのグループ。エペティス、ビジュー、プトマのグループ。メアリー、ザスター、シャインのグループに分けられた。

 そして、各グループ毎に勝者を決めていった。


 「無事に決まった訳だけど、浮かない顔しているわね」

 レイチェルが勝ち抜いたロココとビシューに声をかける。

 「嬉しいんですけど、もう一人がメアリーなので…」

 「えぇ。これからの楽しみより大変さが思い浮かんで…」

 第三試合でメアリーが勝った瞬間に、それまで負けた側が逆にはしゃぐという不思議な事が起こった。

 「まぁ、何とかなるわよ。クリスがいるんだから」

 「そう…ですよね。ですよね!」

 「よく考えたら、今までと変わらない訳ですからね。あー、変な事考えて損したー」

 「それなー」

 思い直した二人は互いに握手した。

 「何はともあれ、クリス様と三年間いられるのよ。これ以上の喜びはないわ」

 「そうね。お互い頑張りましょう」

 「じゃあ、早速クリスの所に報告に行ったらどうかしら?」

 「そうですね。…メアリー、そんな所で寝てないで行きますよ」

 「すいません。もうちょっと待ってもらっていいですか? 久しぶりに全力出したので」

 「はぁ…前途多難だわ」


           *      


 コンコンとノックの音が聞こえた。

 「はーいどうぞー」

 返事を返すと、お母様とアンジェさんが入ってきた。

 「どうかしましたか?」

 「クリスちゃんの学園滞在時の付き人が決まったわよ」

 「あ、そうなんですね。で、誰なんです?」

 「あなた達、入ってきなさい」

 「失礼します」「失礼します」「失礼しまーす」

 ロココ、ビシュー、メアリーが入ってきた。

 「中々に珍しい組み合わせね。どうやって決めたの?」

 「まぁ、勝ち進んだ結果ですね」

 メアリーだけやたら満身創痍なんだけど、一体何をしたのかしら?

 「そうなんだ。大変だったわね。…ところで、メアリーはメイドの仕事出来ないのに来るの?」

 「クリス様の認識でもそうなんだ」

 「ですよねー」

 「なっ! 何を言うんです。ずっと一緒だったじゃないですか!」

 「だからよ」

 だから、二人とも微妙な表情なのね。心中お察しするわ。

 まぁ、大変だとは思うけど、食って寝てるだけだからペットだと思えば大変じゃないのよ。たまにじゃれついてくるから、適度に構っておけば満足するしね。

 二人だと家事とか大変だと思うけど、私もやるから何とかなるでしょ。

 それに、裏の仕事は逆にメアリーに頼る事になるんだし、丁度いいんじゃないかしら?

 「本当は私達二人が付いて行こうとしたんだけどね」

 「あー…それもいいかもしれませんね」

 「「!?」」

 何の気なしに言ってみただけなんだけど、やたらと食いついてきた。

 「ちょ! アンジェ聞いた?」

 「えぇ聞きました」

 「私が行っても良かったじゃない!」

 「このような結果になって、非常に後悔してます」

 お母様とアンジェさんが今まで見た事無いくらい落胆している。一体何があったのか…。

 「何はともあれ、三年宜しくね」

 「「はい。よろしくお願いします」」

 「クリス様と末永くお付き合いしていきますね」

 何でメアリーはプロポーズの返しみたいになってるのよ。


 それにしても、学校かぁ…。一体何年振りになるのかしらね。精神年齢的に三回りくらい差があるけど、ついていけるかしら?


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