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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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96 番外編23 お兄様の婚約者


 それは、お姉様が夏休みで帰ってきて二週間程経った頃。漸くメイドのお仕事から解放されて暇を持て余していた時にお兄様にお茶会に誘われのがきっかけだった。

 「え! お兄様婚約したんですか?」

 「そうなんだ。といっても婚約自体は結構前で…」

 「相手は誰なんです?」

 「んふふ。私よぉ」

 ふわりと初夏の花の香りがして、私の両肩に手が添えられる。

 左側から覗き込むように顔を見せたのは、キャロルさんだった。

 キャロル・アクアマリンウィールアイルさん。お兄様が学園在籍時に生徒会で副会長だった人だ。

 私でもよく分からないお兄様の中二病的発言を全て理解し翻訳できる唯一の人だ。

 家名がやたら長いのは、かつて領の大半が旧エメラルド帝国の一部だったからだそう。向こうの貴族はやたら名前が長くてめんどくさいんだそうだ。

 しかし、卒業してすぐ婚約かぁ…。なんかそういうのいいね。


 ニッコニコしたキャロルさんはお兄様の横の椅子に座った。

 「クリスには言っておこうと思ってね」

 「おめでとうございます」

 「ありがとう」

 「ありがと、クリスちゃん」

 はにかんだり、顔を見ては頬を朱に染めたりして二人ともとても初々しい。夏だけど、ここだけ春みたいな感じだ。一人を除いて。

 後ろで控えているメイドさん達の中で一人どす黒い邪気を放っているのはミルキーさんだ。

 まぁ、ミルキーさんお兄様大好きだもんね。

 四人の子供にもお兄様にちなんだ名前つけていたし。そりゃあショックよね、

 お母様の代わりにミルキーさんがキャロルさんと嫁姑戦争にならないわよね?


 「そういえば、お姉様は呼ばなくていんですか?」

 「呼んだけど『逆上せ(のぼせ)そうだからやめとくわ』って言われたよ」

 「お兄様、お姉さまのモノマネ上手ですね」

 「まぁ、兄妹だしね」

 「でも、ルイスの方が女子力高いわよね。逆にサマンサは男勝りだし」

 「それは私も思いました」

 「だよねー。はははは……」

 「誰が男ですって?」

 振り返ると不機嫌なスパニエル犬みたいなお姉様がいた。

 そして。どかっと椅子に座ると足と腕を組んだ。そしてばつが悪そうにそっぽを向いた。マナー悪いなぁ…。

 「い、一応おめでとうくらいは言っておこうと思ってね」

 なるほど。ヴェイロンが言っていたツンデレってこう言うことね。確かに言われてみればそうだったわと得心する。ほんのりと耳も赤いしね。

 「ま、まぁお兄様の相手があのアンじゃなかっただけでも良かったわ」

 そういえばお姉様はアンさんに苦手意識あったわね。私もだけど。

 そして、そのまま暫くは平和なお茶会が進行していった。


 お兄様とキャロルさんの甘々空間に口から砂糖が溢れ出しそうなくらいだ。

 改めてお兄様とキャロルさんを見ると、二人とも色違いの同じデザインのドレスを着ていた。お兄様が白。キャロルさんが黒。ベアルックのドレスを着るなんて相当愛し合ってるのね。

 お兄様の髪の毛がピンクだったなら、目の形と髪型でどこかのボイスロイドにそっくりだなと思った。

 しかし、キャロルさんも女装したままのお兄様とよく婚約したわね。キャロルさん()そういう趣味なのかな?

 そんなところでメイドさんの一人がお兄様に声をかけた。

 「ルイス様、申し訳ございません。ジェームズ様がお呼びです」

 「え、お父様が? なんだろ……。ちょっと言ってくるね」

 お兄様の姿が完全に見えなくなった辺りでお姉様が口を開いた。

 「お兄様がキャロル様を選んだのは髪の毛が水色だからってのもあるわね」

 そういえば、キャロルさんの髪の色も水色だな。私の空みたいな色と違って海のような水色だけどね。


 「あら、キャロル様だなんて他人行儀ね。家族になるんだもの。お義姉様かキャロルちゃんでいいわよ」

 「どっちも嫌ね。そうね妥協してキャロルさんて呼ぶわ」

 「まぁいいけどね。で、さっきの質問だけど、良く分からないわね。多分そうかもしれないし、違うかもしれないし。いつの間にかそういう関係になってた感じかしらね。ほら、私達の関係だとそういうのしか出会いないじゃん」

 「私はその出会いすらないんだけど?」

 「……………」

 「………さて、お茶も無くなったしそろそろお開きにしましょうか」

 「待ちなさい。まだ話は終わってないわよ」

 これ以上不毛な会話を続けるわけにもいかないので、お兄様が戻ってくる前にお茶会はお開きになったのだった。


 それからキャロルさんは何かと私の所に来るようになった。

 今日も夕食の後、部屋でゆっくりしていたら、ドアがノックされてので開けたらキャロルさんがニコニコしながら立っていた。

 「私ね、タンクが満タンにならないと解放されないシリーズ好きなんだけど」

 「そうなんですか」

 同人誌のネタ私にを言われても困るんだけどな。

 「あらつれないわね」

 「そんな事よりお兄様のところにいなくていいんですか?」

 「こんな時間なのに、急にお仕事入ったみたいだから、クリスちゃんともいい感じになっておこうと思って」

 うーん。この人底が見えないから、なんとなく怖いんだよなぁ。お姉様とは違ったベクトルでおかしいし。

 「あ、そうそう家族になるんだもの。一緒にお風呂に入らない?」

 「一応知ってると思いますけど、私男ですよ?」

 「知ってるわ。この後ルイスと三人で入りたいわね」

 なーんで私の周りってこんな人しかいないのかしらね? 話が噛み合わないのよね。


 そんな感じで、キャロルさんがうちに来てから大分立ち、お姉様の夏休みが終わり学園へ戻った数日後―――――

 「お兄様とても似合ってます。すっごく素敵です」

 「…あ…ありがと」

 顔を真っ赤に染めて照れている。

 今日はお兄様とキャロルさんの結婚式だ。

 キャロルさんはもちろんのことお兄様もウエディングドレス姿だ。

 え? どっちもドレスなのがおかしいって?

 うちの領では普通のことなのよ。そうね。たまに女性が男装でタキシード来たりするし、ちゃんとした格好でやることもあるけど、どっちもドレスで挙式するのが多いのよね。なんでかしらね?


 挙式が始まって一番驚いたのは、バージンロードを歩く方がお兄様って事ね。

 うちの屋敷の子供達がトレーンベアラーをしている。そしてその隣には今にも泣き出しそうなお父様が。

 「本当は私がやりたかったのだけど、これは譲れないって言ってね」

 まぁ、あそこは父親の役目ですからね。

 そうして、式は無事に終わった。というか、あっという間だった。

 お兄様とキャロルさんの初々しいキスがとても脳裏に鮮烈に残ったのよ。だって、凄くキュンキュンしたんだもの。気づいたら終わってたのよね。


 その後は、挨拶を兼ねた立食パーティーをした。

 「ジェームズ君酷いじゃないか。私を呼んでくれないなんて」

 「呼んでませんからね。」

 「今回は多めに見るとして、クリス嬢の結婚式には、必ず呼ぶんだよ」

 「その前にサマンサの式がありますよ」

 「そ…そうだな。予定が空いていたら参加しよう」

 王都の大聖堂であったイケオジのブライアンさんがお父様と応酬を繰り広げていた。

 勿論、裏方の人達はみんな来ていた。

 お父様は、身内だけでと言っていたけど、かなりの人数が参列していた。

 アンさんや、ロベルタさん。クオンさんやプロフィアさん等がキャロルさんと和気藹々と話していた。

 ちなみにお兄様はというと、うちのメイドさん達に囲まれていた。いや、ミルキーさんが性懲りも無く腕組みしているのを剥がそうとしていた。

 愛が重いなぁ。

 そうそう。結婚したのだったら、新婚旅行も必要だよねと話したら、ここ以上のバカンスなんてないから必要ないと言われてしまった。

 まぁ、本人達が納得しているならいいのよ。

 そういえば、呼んでないで言ったらお姉様も今日は学園で授業のはずなんだけど、ちゃんとおめかしして大人しくしていた。

 「お姉様、今日は授業があるのでは?」

 「そもそも、私が授業ある日にやるのが悪い。勿論ぶっちしたわ。当たり前でしょ?」

 「えぇ…出席しなくていいんですか?」

 「いいのよ。退屈だし。それにここまで汽車で二時間よ」

 「そ…そうですね」

 「今度こそは、ブーケを獲得しないと」

 なんだかんだ言って、お姉様結婚願望強いわよね。少し性格を改めたらいいのに。

 「ちょっと思ったんですけど、キャロルさんってホントにお兄様好きなんですか?」

 「何でそう思ったの?」

 「いや、何となく…」

 私の所にちょくちょく来るからとは言えない。

 「まぁ、お兄様は分からないけどキャロルさんは本気で好きだと思うわよ。あのアンと奪い合ったんだから」

 「えっ!」

 「だから、アンじゃなくて良かったって心から思うわ」

 「その話詳しく」

 「そうね。今日は時間がないからまた今度ね」

 「いいじゃないですか。学園なんていくらでもサボれるんですから」

 「クリス…。さっきと言ってる事逆よ」

 だってねぇ…。まさかお兄様を奪い合うなんてそんな面白そうな事、当事者に聞いても教えてくれないでしょ?

 「じゃあ今夜! 今夜教えてください」

 「ごめんね。この後用事があるの」

 そう言ったお姉様は、この後ちゃんといつもの量を食事してゆっくり帰っていったのだった。

 まぁ、実際両思いなのは伝わってくるし、直接聞くわけにはいかないものね。


 そのはずなんだけど……。

 「結婚初夜ですよね? 何で私の部屋に来たんです?」

 「一応、お礼を言っておこうと思って」

 「お礼?」

 「そ。ルイスが女装趣味なのってクリスちゃんの影響よね?」

 もしかして、その事に怒ってお礼参りしに来たのかな?

 「はい…」

 「ありがと。ホント最高よ!」

 「へ?」

 「これからルイスと一緒に寝るんだけど、どんな反応するか楽しみだわ。ルイスを変えてくれて感謝してるわ。大好き。愛してるわ。じゃおやすみー」

 最後は、早口で捲し立てるように話しながら去っていった。

 まぁ、杞憂だったって事ね。愛し合ってるなら別にいいか。でもまぁ、新たな懸念としては、お兄様が更に変な方向に進まないかが心配だわ。影響されやすいんだもの。


 それから暫くして、キャロルさんと思しき人名義で物凄いアブノーマルな内容のルイス本が何冊も出たのは別のお話。


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