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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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95 番外編22 サマンサの夏休み


 夏休み。それは、家にいるものは、普段以上に仕事が増え、学生は家で仕事を増やす。

 うちでも例に漏れず、お姉様が帰ってきて早々にいろいろと要求してきた。


 今私がメイド服を着て奉仕しているのは、王城でメイドをやっていたからだそう。『ずるい! 私も見たいしご奉仕されたい』と言われ、半ば強制的にメイドをしている。

 まぁ、お姉様のお付きになった三人のメイドさんは、最初誰だか分からないくらいやつれていたしね。私には分からない苦労があったんでしょう。今は、『夏休みの間は休みます』と宣言して今もクーラーの効いた部屋で寝ている。

 だから、代わりに私が。…っておかしい話だと思うのよね。朝から晩まで何でお姉様のお世話しなきゃいけないのよ。

 まぁ、殆どが飯の用意だから楽だけどさ、夜になったら夜のご奉仕してね。なんて言ってくる。そういうのやってないから。


 普段のお姉様なら、強引に迫ってきそうだけど、なりを潜めているのは、ドラゴンちゃんことヴェイロンのお陰だろう。

 初めて会った時から、喧嘩ばっかしている。お姉様の青い髪と青い瞳は、ヴェイロンの青い鱗と青い瞳と同じ色だけど、それが原因なのかな?

 二人とも食べ物への執着が半端ない。同族嫌悪かな?

 まぁ、そんなヴェイロンもドラゴン用に作られたメイド服を着て浮かんでいる。

 ペットに服着せるのってどうなのかしらね? まぁ、本人は満更でもなさそうだからいいけどさ。

 ちなみに帰ってきたのはお姉様だけではない。お兄様も卒業と同時に帰ってきている。

 そんなお兄様はお姉様が私とずっといるためか、遠慮している。いや、もしかしたらミルキーさんにずっと構われていて、会いに来れないだけかもしれない。


 「ねぇ、ペットって普通小鳥とか犬猫じゃないの? なんでトカゲ?」

 「きゅーきゅきゅきゅきゅきゅー」

 トカゲって言われた事にご立腹だ。

 「きゅーきゅ、きゅっきゅ、きゅきゅきゅきゅー」

 「何ですって! 言っていい事と悪い事があるわよ」

 「きゅーきゅー」

 仲が良いんだか、悪いんだか分からないわね。

 ちなみにヴェイロンは、『今どき大食いの暴力ツンデレ女なんてはやんねーよ』と言っていた。大食いと暴力は分かるけど、お姉様にツンデレ成分入ってないわよね。

 お姉様がヴェイロンと取っ組み合いの喧嘩をしているけれど、よくドラゴンと互角に戦えるわね。というか、若干ヴェイロンが押されてるわね。


 「はぁ…もういいわ。バッカみたい」

 ヴェイロンに勝ったお姉様は、ヴェイロンをソファに放り投げると、ちょいちょいと手招きした。

 「なんですか?」

 無言で私のスカートをめくろうとするお姉様。

 「ちょっ!」

 「なんで逃げんのよ!」

 「そりゃあ逃げますよ。というか、勝手に捲らないでください!」

 「なによ…姉妹のスキンシップじゃないのよ」

 「これはスキンシップではありません。ただのセクハラですよ」

 「ロザリーなら黙ってめくらせてくれるのに」

 そういう特殊な事はロザリーとやってくださいな。

 諦めの悪いお姉様がまたぞろめくろうと、両手を前に突き出すと、ヴェイロンが飛んできて思いっきり手を弾いた。

 「いったぁ! 何すんのよ」

 「きゅーきゅぅきゅ」

 「わぁありがとう」

 「きゅーきゅ」

 お姉様の魔の手から守ってくれたヴェイロンにお礼をして抱き上げる。

 「きゅ…きゅー…」

 「くっそぉ…小癪な…」

 「そういう事しかしないのなら、私お世話するのやめますね」

 「なっ!」

 言い終わる前に部屋を退出した。

 お姉様は、つけあがるとエスカレートするから、たまにはピシャリと拒否した方がいいのよ。

 それはそうと、抱き抱えたヴェイロンの顔がほんのり赤いし、目も虚ろだ。夏風邪でもひいたのかな?

 ドラゴンにお粥が合うか分からないけど、食べさせて寝かせれば治るでしょ。


 まぁ、そんなこんなで賑やかな夏休みは過ぎていった。


 夏休みも後三日になろうという頃。

 お姉様が鬼気迫った表情でやってきた。未だかつてこんな表情をしたことがあっただろうか。

 「宿題手伝って」

 「学年上がるのに宿題があるんですか?」

 「あったみたい。ヒナナが忘れてますって持ってきたの」

 「そうですか。頑張ってください」

 「待ちなさい」

 去ろうとしたとことで、背中を思いっきり掴まれた。生地が傷むからやめてほしい。

 「はぁ…。何でこんなになるまで放っておいたんですか?」

 「さっきヒナナに言われるまで知らなかったし」

 ヒナナさんってのはお姉様のお付きとして学園についていったメイドさんの一人だ。やっと回復したのかな? 残りのフィジーさんとマーブルさんはどうなったんだろうか。

 「きゅー」

 ヴェイロンも呆れた目でため息を吐いていた。

 「ホント生意気ねこいつ」

 結局夏休みの間ちっとも仲良くならなかったわね。


 「それで、宿題って何があるんです?」

 「えっと、そんなに多くないのよ。各授業のレポートと自由研究と読書感想文と絵日記ね」

 後半は小学生の宿題みたいだ。本当にそんなの出すのだろうか?

 お兄様がやっていたのは見たことないし。もしかして……。

 「お姉様なんか恨み買ってません?」

 「そうね。その可能性はあるわね。私も初めて知ったくらいだし。まぁ、これを企画した奴らは後で見つけ次第ボコボコにするけどね」

 多分そういうところじゃないですかね?

 「えっと、お姉様お付きのメイドさん達には声かけたんですか?」

 「あの子達ホント軟弱よね。夏バテで胃がもったいもったいするのでまだ寝込みますだって。なめてるわよね」

 「そうですね」

 やりたくないんだろうなぁ…。

 「じゃあ、他のメイドさん達。後は、お父様とかお母様にも声かけて…」

 「全員に断られて今ここにいるのよ」

 「おぅ……」

 これは逃げられないんじゃないだろうか?


 そして案の定お姉様の宿題を手伝わされたんだけど…。

 「ねぇ、なんでそんなスラスラ出来るの?」

 「いや、別に難しいこと書いてないんで…」

 課題のレポートなんて大層な事言ってるからどんなものかと思ったら大した事ないわ。私が学生の頃なんて………。思い出したくもないわ。あの頃抱えていた量に比べたら全然余裕だしね。内容も簡単だし。まぁ、慣れよ慣れ。

 「はい終わりましたわ」

 「あ、ありがと…」

 何で押し付けた側が引いてるんですか?

 後の残りは一気に小学生感あるものになったわね。

 「こっちはお姉様がやらないと」

 「えー……」

 不満を言いながらも作文用紙を出すが、ペンをくるくる回すだけで全然進まない。

 「何か本を読まないといけないですよね?」

 「私あんまり読まないのよね。娯楽系ならいいんだけど、それじゃダメでしょ?」

 「別にいいんじゃないですか? 読んだ感想を書くんですから」

 「……………何でもいいのよね?」

 「? まぁ、本ならなんでもいいと思いますよ」

 「分かったわ。これは夜書くわ」

 「今書いたら良いじゃないですか? 夜なんて眠くなってかけませんよ?」

 「こんな真っ昼間からムラムラしてたらおかしいでしょ?」

 「ナニを読むおつもりですか?」

 問いただしたら、同人誌を読んで感想を書くとか言いだした。官能小説でも書くんか? いやでも感想だしな。風俗雑誌のレビューみたいな感じになりそう。

 まぁ、お姉様がやるって言うんなら下手に反対するよりいいか。


 「じゃあ、自由研究はどうするんですか?」

 「あ、それはもう決まってるの」

 「へぇ。何を研究するんです?」

 「お兄様はいつ女装に目覚めたのか」

 「それ三日で終わりますか?」

 「終わら…………ないわね」

 「もっと簡単なのでいいんじゃないですか?」

 そう言うと私の顔をじっと覗き込むお姉様。

 「あの…何か?」

 「私に見つめらたらどうなるか」

 「あぁ…いいんじゃないですか。簡単だし、結果は大体分かりきってますしね」

 「私の事なんだと思ってんの?」

 まぁこれで、自由研究の目処も立ったので、残すは絵日記だ。

 本当に宿題なのかな? だって、最初は年齢的には高校生とか大学生みたいな課題なのにこれは小学生…。落差が凄いわ。

 まぁ、こっちの世界では常識なのかな?


 約二ヶ月分あるけど、お姉様は出来事とか覚えてるのかな?

 いきなり書き出したかと思えば、凄い速度で書いていく。お姉様って結構記憶力あったのね。

 どんな事を書いているんだろうと覗き込む。

 「ちょっ!」

 「何?」

 「それはないんじゃないですか?」

 「別に毎日分書けって言われてないし」

 その発想は無かった。

 『8月29日 今日は何にもない素晴らしい一日だった』

 『8月29日 今日は何にもない素晴らしい一日だった』

 『8月29日 今日は何にもない素晴らしい一日だった』

 『8月29日 今日は何にもない素晴らしい一日だった』―――――

 絵だってどこだか分からない野原に寝転んでる絵だ。

 「結構いろいろありましたよね? お兄様の婚約とか、ヴェイロンの事とか、わ…わた…私がメイドした事とか…」

 「それはそれ。これはこれ。まずは終わらせる事が先決よ」

 いや、これはやり直し確定では?

 「はー…終わったぁ…」

 早っ! コピーアンドペーストみたいな作業でも手書きよ。早くないかしら? クオリティには期待しないけどちゃんとやったのかしら?

 『同じ事の繰り返しなので以下略』

 『以下略』

 『以下略』―――――

 「お姉様…これは流石に…」

 「何よ。やる事はやったでしょ」

 お姉様なら、口で言い負かせられるんだろうけど、いくらなんでも酷い。

 まぁ、私のじゃなくてお姉様の宿題なんだから、これで何かあっても知ったこっちゃないわね。

 経過を見ていたヴェイロンも、お菓子が喉を通らない程呆れていた。

 そして、残りの二つも翌日の夜には終わっていた。終わらせる事はいい事だけどね。どんな内容であっても。


           *      


 夏休み明け、学園の廊下でサマンサは学園の教師の一人に声をかけた。

 「先生」

 「げっ…さ………サマンサ君……な…何の…用だね…………」

 「何をそんなに怯えているんです?」

 「いや…ちょっと体の調子が…ね」

 「そうですか。お大事に」

 「あ…あぁ…」

 そういって去ろうとした教師を呼び止めるサマンサ。

 「まだ、要件はお伝えしておりませんが」

 ビクッとして直立不動になる。そして、ギギギと音がしそうな油の切れた機械の如く錆びた動きで振り返る。

 「なに…かな…?」

 「何って、先生が出した宿題を渡しに来たんですのよ。私が直々に、ね」

 「宿題?」

 訝しげな顔で問い返す教師。

 「はい。他のも出した方々にお渡しください」

 「……学年が上がる頃に宿題なんて出すわけがないだろう」

 「え…」

 「そもそも、領地の仕事の勉強や、挨拶回り等いろいろやる事があるのに、そんなもの出したら顰蹙を買ってしまうよ」

 「…………」

 「まぁ、自発的にやったというのなら預かりましょう…………いいんだよね?」

 能面のような顔になったサマンサに怯えながら聞き返す教師は、サマンサから宿題を受け取ると足早に去っていった。


 「こぉらぁあああああっ! 出て来なさい! よくもやってくれたわね!」

 「さ……サマンサ様、どしたんですか?」

 寮の自室へ殴り込むサマンサ。

 怯えた表情でフィジーが尋ねる。

 「どうしたもこうしたもないわよ! 何よ宿題って! おかしいと思ったのよ。今まで無かったし、教室でも渡されてないのに! そうよ。確かヒナナが言っていたわね。出て来なさい!」

 「………………」

 奥の部屋から出て来てすぐさま土下座のポーズをとるヒナナ。

 そして、フィジーとマーブルもシラを切ることなく、一緒に土下座したのだった。

 「これはどういうことかしら?」

 「すいません。魔が差しました」

 そう答えたのはフィジーだった。

 「じゃんけんで負けて、私がサマンサ様にお渡ししました」

 続けてヒナナが自白する。

 「私達三人で作りました」

 纏めるようにマーブルが白状した。

 「そうよね。レポート提出と絵日記とか明らかにおかしいものね」

 サマンサの常日頃の行動や言動にちょっとしたお返しをするつもりだったのだそう。


 「全くもう。やらなくていい事させて。最後の最後で不快な気持ちになったわ」

 「「「………………」」」

 「もしかして、夏休みの間、部屋にこもってこれを作っていたの?」

 「「「はい」」」

 「仮病も嘘だったのね」

 「「「はい」」」

 「へ…へぇ…そう………」

 顳顬(こめかみ)に青筋を浮かべたが、サマンサにしては珍しくギリギリで怒りを抑えていた。

 「じゃあ、罰として今日から一週間…」

 「「「…………………」」」

 三人は一体どんな酷いことを言われるのかと戦々恐々と次の言葉を待った。

 「私の食べたいものを作るように」

 三人のメイドがハッとした顔で見上げた。

 「まぁ、私もやり過ぎたところはあるから、これで終いにしましょ」

 どんなに不満に思っても、こんなイタズラはしないと三人は心に誓ったのだった。


 後日、学園の廊下で再び教師と出会うサマンサ。

 「あっ…、サマンサ君」

 「何ですか?」

 「例の課題のレポート…だっけ? あれ良く書けてるねぇ。まさか、サマンサ君があんなに勉強熱心だったなんて知らなかったよ」

 「えぇ…勿論ですわ」

 さも当然といった表情で嘯くサマンサ。

 それに対して、今までの考えを改め褒める教師。

 「うんうん。いつもつまらなさそうにしてるか寝ているのに、よく理解しているなと思って、みんな驚いていたよ。こんな事言っては何だけど、先生見直しました」

 「………………そう…ですか」

 「一番驚いたのは、私たちでも考えさせられる考察があった事だね。新しい視点だし、議論の余地もある。この後会議で話し合うんだけど、是非とも参加して意見を伺いたいんだけど…」

 クリスがやった分が、そんなに凄いことになっているなんて考えもしなかったサマンサはこの場をどうやって切り抜けようか考えているのだった。


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