94 番外編21 女神、貧乳に捕まる
「ついに捕まえた」
「あ…あの…何で私は簀巻きにされているのかしら?」
「知らないとは言わせない」
そう言っておもむろに神官服を脱ぎ捨てキャミソール一枚になるロベルタ。
「これ見て何か思わない?」
「相変わらず小さ……あぁああっ! いった!」
ゲシゲシと無言で蹴りを入れるロベルタ。
「何よ! 小さいのは事実じゃない!」
「そうだけど、そうじゃない」
急にトーンを下げるロベルタ。
そしてやっとそこで気づくイデア。
「あれ…縮んでる?」
「そう。戻して」
「だから言ったじゃない。私の力は地上だと弱まるから恒久じゃないわよって」
「だったらもう一度やってもらうまで」
「はぁ…。ロベルタちゃん?」
「何?」
「一度解いてくれないかしら?」
「そしたら逃げるでしょ?」
「逃げるも何もこのままじゃ能力使えないわ」
「そうだね。分かった」
淡々とロープを解くロベルタ。
「じゃあまずは、これを使ってみない?」
そう言って取り出したのは大きな胸だった。
「そんな卑猥なもの持ち歩いてどうしようと」
「ちっがうわよ。こういう事もありそうだなって思って作ってもらったの」
「誰に?」
「シド君とムック君とスケキヨ君の三人ね」
「納得」
「そう。じゃあはい」
「?」
手渡されたそれをどうすべきが分からないようだ。
「あぁそうか。ロベルタちゃんにはブラジャーも必要ないものね」
「………」
今度は無言で殴りつけるロベルタ。
「いたっ! ご…ごめんて」
侘びながら、ロベルタにそれを取り付けた。
「どうかしら?」
「重い」
「でしょう? それロベルタちゃんの目標のFカップなのよ」
「これが……」
思ったのと違うといった顔をする。
「下が見えないし動きにくい」
「そうでしょう。大きければいいってもんじゃないの。理想を持つ事はいい事だけれど、ちゃんとデメリットも知っておかないとね」
コクンと頷くが、腑に落ちないといった顔をする。
「じゃあ二回り小さくていい」
「それもおんなじ感じよ。不便でしょ?」
「それってあなたの感想よね? 御託はいいから、早く戻して」
「戻してって、元からまな板なのにそれを膨らますなんて物理的に無理なのよ。前回だってどれだけ大変だったか」
イデアが話している最中に再び簀巻きにするロベルタ。
「出来ないならいい。あなた、王国から捜索依頼が出てるから、このまま引き渡す」
「待ーって、待って。……分かったわ。やる。やるから解いて」
「出来ないのに?」
「無理をすればいけるわ。それにこんな所で邪魔される訳にもいかないの」
「……何をしていたの?」
「何って、ゲームの残りの部分を作っていたのよ。流石にこもりすぎて疲れたから休みがてらここに来たらあなたに捕まったって訳よ」
「それが何か分からないけど、私の要求を飲んでくれたら解放する」
「分かったわ。でも、因果を変える訳だから、今回は痛みがあるかもしれないけど、耐えられる?」
「問題ない。うちの修行に比べたら耐えられる。刺されたり切られたりしなければ」
「それに近いかもしれないわよ?」
「………………やって」
かなり長いこと逡巡して結果を出した。
「じゃあ行くわよ」
教会の地下室が眩しい光でいっぱいになる。
「はぁ…はぁ…」
疲れて地面に突っ伏したイデア。
「こ…これがおっぱい。本物のおっぱい…」
満足そうな無表情で自分の胸をいじるロベルタ。
しかしいじりすぎたのか、ぷしゅーという音と共に元の真っ平らな胸に戻ってしまった。
「直して」
「無理」
突っ伏したまま返答するイデア。
「さっきは出来たでしょ?」
「体力的に無理。少なくとも今日は無理」
「むぅ仕方ない。なら明日やってもらう」
「………」
反応が無いなと思ったら、どうやら疲れて眠っているようだ。流石に無理をさせ過ぎたな思い、教会のベッドへと運んだ。
翌日、再び胸を大きくして貰おうと部屋を開けるとイデアはいなくなっていた。
「やられた」
「あれ、教皇様、胸大きくなりました?」
信者の一人が気づいた事を問う。
「…そ…そう。これも女神の加護。祈り続ければ、いつか叶う」
「凄いです! 信仰心の賜物ですね。僕も願いが叶うよう祈り続けます」
そうして信者は不埒な女神像に一心不乱に祈ったのだった。
「嘘は言ってない」
ロベルタはイデアが置いていったものをつけていた。流石にもう外して信者の前に出る事は出来なくなった。ちゃんと固定しているのだが、動きすぎるとゆったりした服なのでたまにズレる。これは一刻も早くイデアを探し出し、既成事実化しないといけないと固く心に決めたのだった。
それとは別に、信者の数が増え、日に日に祈りに来る信者が増えていった。その対応に追われイデアを探し出す事が難しくなっていった。
そんなある日、よせばいいのに裏の任務にも胸を付けていったのだが、重さとぎこちない動きで、運悪くナイフで胸の辺りを切りつけられてしまった。
「ロベルタ!」
任務に同行したアンが心配して駆け寄る。
「あれ…? 血が出てない」
そんな事よりも大変なのはロベルタの付けていた胸が壊されてしまって事だ。
身体に傷がつくのは免れたが、上下に切り裂かれ、途中でナイフが刺さったままだ。ペランペランとして今にも二つに裂けそうだ。
「どうしよう。もう偽れない…」
捕まえた賊を無表情で、いつも以上にボコボゴにするロベルタに、周りのメンバーがドン引きしたのだった。
「あれ、教皇様お胸が…縮んで…」
「信仰心が足りなかった」
「教皇様でさえ、そうなんですね」
「うん…」
「俄然燃えてきました。僕Mなんで」
「そうなんだ」
不思議な事に、祈りに来る人達はより増えていくのだった。




