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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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93 番外編20 アーサー型をとる


 それは春の陽気がだんだんと汗ばむ季節に変わる頃。

 ここ最近いろいろあって疲れていたので、朝の訓練もキャンセルしていつも以上に眠っていたんだけど、疲れているからだろうか? とても寝苦しい。

 三、四回程寝て起きてを繰り返していたが、体に妙な違和感がある。

 いつもは押さえつけられているような感じがあるが、今日に限ってメアリーは早々に起きて何処かへ行ったようだ。きっとお腹が空いていたんだろう。

 なのに何でこんなに体が固いんだろうか? そういえば寝返りが打てない。

 寝るのを諦め目を開ける。そして動かない足がどうなっているのか見ようと頭を持ち上げると、何故か立て膝になっていた。

 こんな疲れる寝方してたかな?

 立て膝によって広がったネグリジェから赤いものがもぞもぞ動くのが見えた。そして、意識がはっきりとしてきた辺りで下半身に何か当たっている感覚があった。


 「!」

 一気に覚醒した意識で無理矢理に体を後ろへ飛び退くように動かすと、そこにはいるはずのないアーサーがいた。

 「何してるの?」

 「おはようございます女神様」

 「………おはよう。それで、何をしていたのかしら?」

 「はい。女神様の型をとっておりました」

 そうして大事そうに抱えた濁った白い塊があった。

 「そ……それは何かしら?」

 「はい。ご依頼された女神様のシンボルでございます。朝は硬いので型が取りやすくていいですね」

 包み隠さず話す所は評価するけどさ。というか、それに鼻を近づけて嗅ぐのをやめなさい。

 「どうして勝手に乙女の寝室に入り込んだのよ」

 「はい。皆様に事情をお話ししましたら、快く案内されまして」

 なるほど。厳重注意が必要ね。

 「では、失礼いたします」

 「ちょ…待って待って。待ちなさい!」

 「はい。なんでしょうか?」

 「なんでしょうか? じゃないわよ! それ! それは置いていきなさい」

 「ですが、これを必要とされている方がおりまして」

 「そんなの知ったことないわ。勝手に私の…あ…あっ…アレの型取りするなんて許せないわ」

 「女神様の仰る事はごもっともです。ですが、女性ヴァージョンがあるのに、男性ヴァージョンがないのはおかしいでしょう?」

 「!」

 巻き舌で『ヴァージョン』っていうのがうざい所だけど、今はそんな事はどうでもいい。え? 私が女の子になっていた時にもやられたというの?

 確かに疲れて昼近くまで寝ていた時があったけどさ。まさかその時に……。

 「その時は誰がやったの?」

 「その時はメアリー様に手伝っていただきました」

 「あなたは?」

 「いましたよ。もちろん」

 「へ…へぇ〜」

 悪気なく淡々と答えるアーサーに怒りが湧いた。気がついたら私の拳はアーサーの顔面にめり込んでいた。

 「ありがとうございますっ!」

 とんだドMだこと。お父様と話が合うんじゃないかしら?

 さらに一発入れようとしたとこで、メイドさんが何人か一斉に割り込んできた。

 「クリス様、幾ら何でも手を挙げるのは良くありません!」「ここはいいから早く逃げて!」「私たちの為にも行きなさい!」「クリス様が協力してくれればこんなことしなくて済んだんです」「履いてないクリス様……はぁはぁ……」

 こいつら全員共犯ね。いいわ。誰の差し金か問い詰めてあげようじゃないの。

 まさかうちのメイドさん達と朝からバトルする羽目になるとはね。

 


 「前が見えねェ」

 「大変だったな」

 「あの…どうなってます?」

 「顔面ケツの穴みたいになってるよ」

 「これ治りますか?」

 「多分治るよ…」

 無事にアンバーレイク領へ辿り着いたアーサーは、例の工場でシド、ムック、スケキヨ。それと担当者のアセントとトライベッカが待っていた。尤も、後の二人は無理矢理に付き合わされているだけなのだが。

 「これがあればより完璧になるな」

 「えぇ。まさかこのような日が来るとは思いもしませんでした」

 「……しゅごい……」

 「はっはっは。これで我々の野望も一歩前進ですな」

 「何が野望よ」

 「そ…ソフィア…。どうしてここに?」

 「クリスから連絡があってね。悪いけど回収させてもらうわよ」

 ソフィアの手には携帯電話が握られていた。

 「全く…。今度は一体どんな馬鹿なことやろうとしてんのよ…」

 ソフィアの前では蛇に睨まれたカエルの如くただ黙って差し出すことしかできなかった。



 「ソフィア助かったよ。ありがと」

 「いいって事よ。あいつらにはきつく叱っておいたからね」

 「うん。ありがと。ソフィアが助けてくれて良かったよ」

 「そ…そう? ふへへへへ」

 「じゃあ後はお願いね。こっちは共犯者にお仕置きしないといけないからね」

 「分かったわ。程々にね」

 「うん。じゃ…」

 電話を切るソフィアの顔はこれ以上ないほど嬉しそうだった。

 「ふ…ふふ…。ふふふふふ。やったわ。棚からぼたもちとはこの事ね」

 ソフィアの私室に備え付けらたパソコンの前で、画面越しに再度笑うのだった。


           *      


 あれからしばらく経って、用事があって教会に行くとすごい人だかりができていた。

 「ロベルタさんこれは一体?」

 「アーサーが作りなおした女神像にみんなが祈りを捧げてるんだけど、人の列がここ数日途切れない…」

 ちょっと疲れ気味な顔でそう告げるので、嫌な予感がして聖堂へ足を踏み入れると、卑猥と言っていい私の彫像にみんなが一心不乱に祈りを捧げていた。

 「女神様像の魅力は何と言っても男と女が共存している所ですよね」

 いつの間にか横にいたアーサーがうっとりとした表情でそんな事を言う。

 「今すぐ撤去しなさい。というか、どうやって作ったのよ」

 「私レベルになると、見ただけで再現できるのです」

 嘘つけ。私のは大きいけど、あんな胸まで届きそうなほど長くはない。というか別の方も完全に丸見えなんですけど。

 「じゃあ壊しても文句言わないでね?」

 「そんな事をしたら暴動が起きますよ」

 「私の意思は尊重しないの?」

 「本は良くて彫像がダメな理由は何ですか?」

 「うっ…」

 半ば合法になっている薄い本の方も言われると、流石に何も言えないわ。

 「あと、こちらもどうぞ」

 「何、この紙束は?」

 「署名です」

 「署名?」

 「はい。いずれ女神様が気づいて、壊せと言われそうな気がしたので、予め信者や住民の方々に反対署名を頂いておきました」

 何でそんなところは用意周到なのよ。

 「あと、女神様のアレですが、単体で来月より販売開始になります。こちらパンフレットになります」

 「!?」

 「あ、そうそう。私は囮です。女神様に仕えるメイドの方々は優秀ですね」

 そう言って部屋を出て行くアーサー。

 目的がこんな事じゃなければ優秀なんじゃないだろうか?


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