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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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92 番外編19 アーサー、フィギュア職人への道


 アンバーレイク公爵家の研究所がドラゴンによって破壊されたが、その敷地の施設の多くは破壊の被害から免れていた。

 ここのおもちゃ工場も少し離れているためか、殆ど被害が無かった。あるとすれば、ちゃんと積んでいなかった箱が少し落ちていた程度だろう。

 そんなおもちゃ工場の入り口の前で三人の男が話し合っていた。


 「そうは言われてもねぇ…」

 「お願いします!」

 「何でいいとこのお坊ちゃんがこんな所に」

 「感動したんです! 自分もあれを作りたいと!」

 「でもねぇ…」

 「お願いします。私をフィギュア職人の弟子にしてください!」

 おもちゃ工場へフィギュア職人の弟子にしてくれと頼み込んでいるのはアーサー・カーネリアンダウン。元アイデアル教教皇で現クリス教の幹部の令息である。

 そんな大層な人物がこんなところで弟子入りをせがんでいるのだ。

 一時(いっとき)の気の迷いか気が触れたかは分からないが、よりによってどうしてフィギュア職人を選んだのだろうか。

 『変な奴の対応は変なもの専門で作ってる所で対応した方がいいだろう』

 朝一でやってきたアーサーの対応を工場長が主任のアセントとトライベッカに丸投げして早数十分。一向に諦める気配がない。

 最初の頃はそうだが、今はそこまで毛嫌いしているわけではない。ただ、時折こうして変わった人間が募集もしていないのにやってくるのだ。

 「私は受け入れてくれるまでここを動きません」

 搬入口も兼ねている場所に居座られては業務に支障をきたしかねない。

 「はぁ…分かった分かったよ」

 現実を教えれば諦めて帰るだろう。今までもそうして諦めさせていたので、今回もそれでうまくいくだろう。そう思ってアセントは渋々了承したのだった。


 工場の応接室に案内し、志望動機を聞く。

 「あ、これ履歴書になります」

 「用意いいね……」

 気圧されながらも履歴書に目を通すアセント。

 「凄い経歴だね…ですね」

 「敬語は不要です。弟子になるのですから」

 「はぁ…」

 調子が狂うなと思いながら、話を聞いていく。

 「何で弟子入りしようと思ったの? そもそもうち機械で作ってるからね。像みたいに一から彫って作らないからね」

 「知っております。ソフィア嬢に伺いましたから」

 「お嬢…何をして……」

 天井を見上げ、手で顔を覆い呻く。

 「勿論ただ弟子入りしようなんて思ってません。こちら今まで作ったものになります」

 やたら四角くデカイバックを抱えてきたなと思っていた。

 そんなバックから丁寧に取り出したのはアーサーが作ったであろうフィギュアだった。

 それを見て驚愕に目を見開いた。

 材質は木だったり、銅だったりと様々だ。

 しかし、どれも丁寧な作りをしていたが、どれも宗教的だなと思った。

 神々しいが躍動感がない。うちとは真逆の作品だなと思いながら細部まで確認する。

 裏側も確認してしまうのは職業病だなと自嘲する。

 「なんでこっちのが細部まで丁寧に作ってあるんだ?」

 「見えない所こそこだわる。常識ですよね?」

 「ま…まぁ…そうだな……」

 そうして確認し終えた所で思う。今までの奴らとは違うなと。でも。ここまで作れるのなら、この路線を突き進めればいいのになと思う。

 「別に弟子入りしなくてもいいんじゃないか?」

 「いいえ。初めて目にした時思いました。躍動感がないと。それで、魂の籠るような作品を作りたいと思ったのです」

 これはこれで籠ってそうだがと思うアセント。

 「でも、うちじゃパソコンでデザインしたものを機械で型を作って、素材を流し込んで固めるってやり方してるから、まずはパソコンの使い方とか覚えてもらわないといけないんだが出来るか?」

 「ぱそこんが何だか分かりませんが、私の夢のためなら何でもやります」

 「まぁそう言うなら…ちなみに夢ってなんなんだ?」

 「私の敬愛する女神様と聖女様のフィギュアを作って世界に広めることです」

 あぁ…布教活動するのに必要なのかと腑に落ちるアセント。

 態々自分で作って広めたいと言う所に狂信的だなと身震いした。


 「ちなみにこれが私の書いたイラストになりますが、作れますかね?」

 「おい…これって……」

 初めてフィギュアを作らされた時の事を思い出した。

 あの時も確か…三種類あったなと思い返した。

 「なぁ…こっちの二つはいい。これは何で両方ついてるんだ?」

 「両方ついてたらいいじゃないですか」

 「!?!???????!?????」

 さも当然と言った感じで話すので頭がこんがらかる。

 「じゃあ…さ、これ女神様と聖女様だっけ? 性別的には一つしかないんじゃないのか?」

 「いいえ、女神様も聖女様も男性ですよ」

  「!?!!!!!!??????!?!?!?????!!!??????」

 何を言っているのか全く分からない。

 「じゃあこれ一つでいいんじゃないか?」

 「いえ、たまに変わることがありますので」

 「……………………………」

 アセントは考える事をやめた。最近自分も性癖がおかしくなっているなと思っていたが、こいつは別格だ。真の変態だ。手に負えないと恐怖する。

 「みんな心の中に理想の女神様像や聖女様像がありますので」

 「あ…そ」

 それが、この男性のシンボルが突き抜け、女性のシンボルが露わになっているものが、アーサーの理想なのかと嘆息する。

 多分公爵家の三馬鹿とは理由が違うんだろうな。これ以上踏み込んだらいけないなと、考える事を放棄した。


 「まぁいいや。うちは利益がでりゃいいんだ。とりあえず今日から教えるから」

 「はい! よろしくお願いします! いやぁ、理解者が増えることはいいですね」

 理解したつもりはないと言いたいが、それだと謎の論理で雁字搦めにされそうなので黙っていた。

 奥の部屋へ行く途中製品の入ったガラスケースの横を通った。

 「あの…」

 「ん? どうした?」

 「これは何ですか?」

 「あぁ、これか? これはうちで作っているやつで、タペストリー、抱き枕カバーにアクリルキー、ぬいぐるみだな。こっちはTシャツにうちわ……まぁ、うちの公爵家の方々が面白半分で依頼したやつだな」

 「ほぉ…デフォルメしたものもあるんですね」

 二頭身の可愛くデフォルメしたフィギュアに目を輝かせるアーサー。

 そのまま暫く動かなかったアーサーが決意の籠った目で口を開いた。

 「私の生きる道が決まりました」

 「そ…そうかい……」

 「えぇ。これで女神様と聖女様の素晴らしさを布教することが出来ます」

 「そうか………。水を差すようで悪いんだが、さっき言ったやつもこれも世の中に多数出回ってるぞ」

 「え………」

 「それにさっきのイラストのだが、あれも売ってるぞ。似たようなデザインで三種類とも」

 「……………………」

 「すまないな。まぁ、作り方とかは教えるから」

 「はい。それはありがたいんですが、私と同じ慧眼を持つその方をご紹介願えませんでしょうか?」

 「マジか……」

 類は友を呼ぶというが、頭のおかしい三馬鹿に引き寄せられる奴がいるとは世も末だとアセントは思ったのだった。


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