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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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88 番外編15 ブランニューデイ


 アンバーレイク家の居間でシドとムックとスケキヨが集まっていた。

 普段話をする時は研究室でするものなのだが、その研究室はこの前のドラゴンによって破壊されており、現在復旧作業中だ。

 尤も、データなどは全部バックアップを取ってあるので、建物や施設を立て直すだけである。

 ただ一つの懸念を除いて。


 「いやぁ大変な騒ぎでしたなぁ」

 人ごとのように話すのは次男のムック。いつも以上に髪の毛が爆発している気がするが誰も気に留めない。

 「そうだな。まさかアレがあんなに大きくなるなんてな。一体何があったんだ?」

 当事者ながらどこか上の空で応対するシド。

 「謎ですな。直前までは手のひらサイズだったのですが」

 「それもそうだが、他の培養槽の中身も行方不明なんだが、あの爆発で消えてしまったんだろうか?」

 「監視カメラの解析が急務ですな」

 ただ淡々と事実を述べる二人だが、それもそのはず。どうしても気になることがあるからだ。その為、重大な事もどこか上の空だ。

 その原因のスケキヨが女装しているからだ。

 あの日、培養槽の中身についてソフィアに経過観察の報告に行って、中々帰ってこないと思っていたら、突如培養槽から巨大化したトカゲが研究所を破壊したのだ。

 そしてその日に帰ってきたスケキヨはヒラヒラのドレスを着て帰ってきたのだった。


 もうそれからは両親も妹もスケキヨを爆可愛がりし、やっと話が聞けたのが今日なのだった。

 今も女装したスケキヨが目の前に座っているのだ。動揺しないはずがない。

 そして二人は思う。『こんなに可愛かったのか』と。

 もともと中性的な顔立ちで、肌も色白く、髪の毛も伸ばしているので、見ようによっては女の子に見えなくもなかった。

 それがどうしたことだろう。ふわふわと形容するのが正しいであろうレースやフリルがふんだんにあしらわれたドレスを着ている。

 コルセットのせいかぺったんこの胸が強調されている。

 ムックにいたってはこの数日で本当に膨らんだのではないかと思っている。

 ドレスだけならまだしも、チョーカーとヘッドドレスもつけている。小さい女の子が持っているお人形さんがそのまま目の前にいるような感覚を二人は感じていた。

 目の前のスケキヨは顔を赤らめもじもじとしている。 

 トロンとした眠そうな瞳がまた神秘的だ。拗ねたような尖らせた唇と上目遣いで見られると少しドギマギしてしまう。


 あれから何日も経っているのに、ずっと女装している。嫌ならいつも通りダボダボのパーカーを着て眠そうな顔をしていればいいのに、態々着てきているのは、スケキヨの専属メイドがこれ幸いと着飾ったからだ。ちなみにいつものパーカー等は全て撤去されている。

 されるがまま毎日いろんなドレスを着せられたスケキヨは非常に可愛い。なんなら凶暴さやホラーっぽさがない分ソフィアやメリーより可愛いかもしれない。

 こうして恥じらい羞恥に悶える様を見ているだけで心があたかかくなってくる。

 二人は内心でそのメイドによくやったと褒めていた。

 拒否せずに素直に従う所が良いところだと抱きしめたいくらいだが、それをやったら何が何でも女装を止めてしまうかもしれないので、暖かく見守り、眺めるだけに留めようと決意した。

 座ってからずっと足をもじもじさせているので、ワンチャンスカートの中身が見えないかなと、ムックは上半身を不自然な程大きく動かしている。


 「しかしその格好は好都合ですぞ」

 「!?」

 全身を抱き身構えるスケキヨ。

 「違いますぞ。その格好ならば、クリス嬢のところへ行くのは容易じゃないですかな?」

 ムックにその事を指摘されハッとするスケキヨとシド。

 「…なるほど…」

 「今度こそクリス嬢のアレを手に入れるのだ」

 「可能ならばアレも……」

 悪い顔をしながら笑い合う三人。

 「…じゃ…じゃあもっと可愛くしないと…だね…」

 部屋に置かれた姿見を横目に見てうっとりするスケキヨ。

 「これは…」

 「これはこれでいいじゃないですかな」

 二人して謎の握手を交わした。

 そんな二人を気にもせず、すっくと立ち上がるスケキヨ。

 「…ちょっとメリーの所に行ってくる……」

 「ソフィアのところ行かないのが最後の抵抗な気もしますな」

 「ソフィアは結構そういうところバカにしないと思うんだけどな」

 部屋を出て行こうと歩き出したスケキヨ。予想以上に響く衣擦れの音にドキドキする二人だった。


 「…め……メリーお願いが…」

 「あらスケ兄がお願いなんて珍しいわね。どうしたの?」

 「うん…。お化粧を教えて欲しいなと…」

 「!」

 驚き固まるメリーだが、すぐさまニッコリするとパンパンと手を叩いた。

 「グリ! グラ! 出番よ」

 「話は聞きました。ついにご決心されたのですね」

 「私は嬉しいです。同士が増えるのですね。沼に引きづり……ご満足いただけるよう善処しますわ」

 「……お……お手柔らかに………」

 突如天井と床下から現れたメイドに気押され、じりじりにじり寄る三人に押し寄られながら壁際に追い込まれるスケキヨ。

 「…怖いんだけど…」

 「大丈夫。身も心も委ねなさいな」

 相談する相手を間違えたんじゃないだろうかと思うスケキヨだった。


 「…違う…。…僕が求めてたのは…こういうのじゃない…。…こんな…こんな渋谷のハロウィンみたいなのじゃない…」

 「え? てっきり私のところに来たのだからそういうのだと思ったわ」

 「えぇえぇ。これ以外どんなメイクがあると…」

 「えぇえぇ。もっとホラーよりの間違いではないのですか?」

 「こっちに相談に来た僕が間違っていたよ」

 姿見を見てがっかりしながらも内心こういうのもいいかもしれないと思ったスケキヨだった。


 メリーの部屋からの帰り道、ばったりとソフィアと出くわした。

 「…あっ…ソフィア……」

 「あら、スケキヨ兄様」

 こんなメイクと格好でよく分かったなと内心感心するが、またぞろ馬鹿にされるんじゃないかと内心ヘラっていた。

 「…うぅ…」

 「はぁ…」

 一つため息をついてスケキヨの手を取るソフィア。

 「…なっ…何を…」

 「どうせメイクを教えてもらおうとメリーの所に行ったら思ってたのと違って凹んでるんでしょ?」

 「…うん…まぁ…でもこれはこれで……」

 どっかのバンドのボーカルみたいだなと思ったソフィアもこれはこれでいいかもしれないと思っていた。

 「まぁ、そのメイクしていってもクリスなら受け入れてくれるわよ」

 「…ど…どうしてクリスが……」

 「クリスのところに行って何かしようと画策してるんでしょ? 分かるわよそのくらい」

 「…ソフィアはすごいね……」

 「別に凄くなんてないわよ。見てたら分かるもの。まぁ、鈍感な奴もいるんだけどね…」

 初めてソフィアを頼もしいと思ったスケキヨ。

 「さっ、着いたわよ」

 「…何でソフィアの部屋?…」

 「メイク覚えたいんでしょ?」

 コクンとぎこちなく頷くスケキヨ。

 軽く微笑みながら扉を開けるソフィア。

 「ステラ! シフォン! スケキヨ兄様を可愛くしてあげて」

 「はい、かしこま………にっ!」

 「最近可愛くなられましたものね………ってえぇっ!」

 スケキヨのメイクを見て驚くステラとシフォン。

 「まずはメイクの落とし方から覚えましょうか」


 それからステラとシフォンによるメイク講座が行われた。

 ソフィアが嫉妬しそうなほど可愛くなっていくが、よくよく考えたら兄妹なんだから、顔の作りは似ているのよね。とソフィアは思った。

 「それだとムック兄様は……」

 一人例外がいたなと思ったソフィア。

 「ソフィア様いかがでしょうか?」

 ステラが自信作が出来たとばかりに胸を張る。

 「うん。いいじゃない。クリスには劣るけど可愛いわ」

 「…そこは普通に褒めて欲しい…」

 「「「あら…」」」

 意外な反応に嬉しくなる三人。

 「せっかくこんなに可愛くなったんだもの。喋り方も変えましょうか?」

 「…え?…」

 「今日日、引きこもりでカタコト属性のショタなんて流行らないと思うの」

 「…別に意識してない…」

 「まぁいいわ。じゃあ笑顔の練習から。はい! ニコニコ…ニーってやって」

 そこでスケキヨは思った。これは逃げられないやつだと。

 その後スケキヨが新しく生まれ変わるまで、暫くの間ソフィアのおもちゃになるのだった。

 

 「そういえば女神様はどこに行ったのですかな?」

 「そういえば見かけないな」

 「それは困りますぞ。データは無事なのですかな?」

 「それは大丈夫だと思うが…、もしかして瓦礫の下に?」

 「いや…それはないでしょう。あの時王都のメイドさんと一緒に脱出しましたからな」

 「そうだったな…」

 研究所の立て直しが終わるまで暇な二人は、今になってイデアがいない事に気付いたのだった。

 「それはそうと、スケキヨがあんなに可愛くなれるのなら、私もやってみた方がいいですかな?」

 「頼む。それだけはやめてくれ」

 シドは真顔でピシャリと拒絶したのだった。


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